第10話:そして冒頭へ……
鬱蒼と茂る木々の隙間から陽光が土を照らしていた
ところどころにある草原には、名前も知らぬ異国の花々が色とりどりに咲き乱れ、大変きれいで、みやびである。
だが、そんなものを鑑賞している余裕は貴政にはなかった。
なぜなら、追いかけられてるから――得体の知れない連中に!
「ぬごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? なんでごわす!? なんなんでごわす、お前らはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
貴政は肩に担いでいるものをしっかと抱いたまま全速力で走っていた。
それは、クゥである。
――さかのぼること五分前。
拠点にしている洞窟内で、複数の何者か――恐らく人間――の気配を察知した貴政は、どうすべきかを考えた。
実は彼、どこかから誰かに見られているという感覚は、この1カ月間に何度か味わって来た。クゥがいなければ自分から接近し、対話を試みたかもしれない。
だが、この世界の理を全く知らない彼は、そうすることで庇護する少女が危険に晒されるリスクを無視するわけにいかなかった。首輪のことを考えるなら、エルフという種族そのものが捕獲対象の可能性もあったからだ。
(よもやクゥのことを狙っているのか!? この子は何者なのでごわす!?)
なんていうことを思う貴政だったが、この時、彼は自分の格好が、不審者(あるいは不審生物)そのものに見える可能性を全く考慮していなかった。
これに関しては文化の違いが生んだ悲劇だと言っていいだろう。
何せ貴政の生まれた国では、マゲさえちゃんと結っていれば、回し一丁の格好はれっきとした正装なのだから。
そんなわけで、訪問者たちの目的が自分であるとは夢にも思わなかった貴政は、庇護対象のクゥを洞窟に残し、1人で外に出ることにした。
例によって彼は紳士的だった。
彼は両腕を大きく広げて武器がないことをアピールすると、関取微笑を浮かべながら、その場でズンと四股を踏んだ。もし、これが彼の故郷であれば、同じように裸一貫になり、大仰に四股を踏み返すことが男児としての礼儀とされた。
が、しかし、ここは異世界だった。
残念ながらサツマの流儀は宣戦布告と見なされたらしい。
「ぬうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
瞬間、森の四方から数え切れない本数矢が貴政に向けて発射された。
柔軟な体を利用した力士的弾丸回避避けによりなんとかそれらを回避したものの、彼の心理的ショックは計り知れない。
ああ、なんという野蛮人!
こちらは最上級の礼儀を示したというのに、なんと重篤な無礼だろう!?
「ちくしょうめっ!」
貴政は、彼にしては珍しい乱れた言葉を叫びながら、勢いのままにその場でバク転。急いで拠点に転がり込むと、守るべき少女を肩口に背負い、その場を急いで逃げ出した。
――以上、ここまでが五分前。
貴政は、サツマ連邦の正装、つまり回し一丁のままでいたことをここに来てかなり後悔していた。何しろ、矢とかが飛んでくる! それも四方から、ぴゅんぴゅんと、彼のすべらからな白いもち肌を危なげにかすって来るからだ。
「とりあえず、まずは話し合いっ! 話し合うのが重要がごわすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
叫ぶ、貴政の首筋を返答代わりの矢じりがかすめる。
――ああ、駄目でごわす、通じないっ!
――対話とかできる空気じゃないっ!
絶望に嘆く貴政は、しかし逃げざるを得なかった。
その原因となっているもの――蒼白な顔でぶるぶる震えるクゥの体――を背後からの矢が当たらないように、胸に抱き直した彼は、地面を裸足で踏みしめながらとにかくまっすぐ駆け続けた。
すると、ひらけた場所に出る。
ほっとしたのもつかの間のこと、そこは断崖絶壁となった谷間の片側部分だった。
咄嗟に止まった貴政は、その向こう岸を見渡した。
彼一人ならなんとかなるかもしれない。
けれどもクゥを抱いた状態ではそちら側にはとても行けないだろう。
貴政はぐっと歯を噛みしめる。
こうなったら、もう、アレをやるしかない!
時間にして僅か数秒ほど、なぜこうなったのかの回想を脳内でやった貴政だったが、それをやると彼の脳味噌は、ただちに今の状況のを打破するための現実的なプランを練り始めた。
彼は「コォォォォォォ!」っと息を吸い、体内で呼吸を形作る。
「関取の呼吸、拾参の四股――〝翔去流〟ッ!」
叫んだ彼は、張り手を岩にぶちかました。
それはズドォォォォンと隆起して、少年がちょうど乗れるぐらいの円柱状の構造物となる。
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
貴政はそれを無造作に掴み、そして谷間へと放り投げた。
斜め上に向けて射出される岩。
それに向かって貴政は走り、地面が陥没するほどの跳躍の末にその岩の上に飛び乗ってしまう。
これは力士の技ではない。
禁断のワープ技だった。
地上で弓を引く者たちが呆気に取られて見上げる中、柱に乗った貴政たちは断崖絶壁を超え、その向こうにある安全地帯にまっすぐに飛んで行ったのだった。
【作者コメント】
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