第8話:命の星より(最終章)
旅の果てに、光の列車はたどり着いた。
そこは、黄泉の国でも、未来の門でもなかった。
“その先”――
魂たちが、すべての想いを手放したあとにたどり着く、もうひとつの場所。
名前はない。けれど、人はそこをこう呼んだ。
命の星。
命の記憶が集まる場所。
悲しみも、涙も、喜びも、すべてが“光”として還っていく場所。
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◆ 命の記憶は、光になる
命の星には、無数の光が漂っていた。
それぞれが、ひとつの人生のかけら。
たった一言が言えなかった後悔。
手を握れなかった時間。
ありがとう、と伝えられなかった想い。
けれど、誰かの“祈り”が届くたびに――
それらの光が、やさしく輝きを取り戻していく。
「あなたの命は、確かにあった」
「その人生は、誰かを支えていた」
命に、価値の重さなどいらない。
生きたこと、それだけがすでに“光”なのだと、
この場所が教えてくれる。
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◆ 子どもたちの祈り
地上では、いまも誰かが祈っている。
「天国のおじいちゃんへ」
「会いたいよ、お母さん」
「空の上でも元気でいてね」
その祈りは、夜空を渡って命の星へ届く。
小さな言葉、小さな涙が、確かにここに降り注ぐ。
祈りを受け取った魂は、そっと微笑む。
「まだ、忘れられていない」
「まだ、つながっている」
それだけで、魂は救われていく。
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◆ 星の図書館
命の星の中心には、「星の図書館」があった。
そこには、すべての命の物語が収められている。
人だけでなく、動物も、木も、花も、
この星で生きていたあらゆる命の記録。
1ページ、また1ページ。
誰かの人生が、たしかにあった証として残っている。
そして、その本は誰かの夢の中で開かれ、
未来を生きる人へ“やさしさのかけら”として届いていく。
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◆ 命は、めぐる
旅を終えた魂たちは、やがてまた光の種になる。
次の星へ、次の命へ――
どこかの赤ちゃんの笑顔に宿り、
偶然すれ違う誰かの瞳にひそみ、
風になり、雨になり、あたたかな光となる。
命は、終わらない。
想いが続く限り、形を変えて、何度でもめぐっていく。
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◆ そして、あなたへ
この物語を、ここまで読んでくださったあなたへ。
あなたが誰かを想ったとき、
あなたが涙を流したとき、
あなたが誰かにやさしくしたとき――
きっと、あなたの中にも光の列車が走っていました。
もう会えないと思っていた人と、
もう触れられないと思っていた想いと、
あなたは、ちゃんと、出会い直していたのです。
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◆ 最後のメッセージ
死は終わりではなく、
命の音楽の一区切り。
やさしさは、姿を変えて、
どんな星でも通じ合う“永遠の言葉”。
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― 完 ―
『光の列車 ―黄泉の国行き―』 終着駅にて
『光の列車 ―黄泉の国行き―』を、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
この物語は、
「死後の世界にも、やさしさがあってほしい」
「亡くなった人たちが、悲しみのまま終わるのではなく、癒されてほしい」
そんな想いから生まれました。
特攻で命を落とした青年、
原爆で家族と別れた少女、
地下鉄事件で子どもを遺して旅立った母親、
地震や津波、事件、孤独死――
さまざまな“かたち”で人生の幕を下ろした人たちが、
“光の列車”というやさしい空間の中で、自分を赦し、誰かと再会し、未来を選んでいく。
そんな旅を、あなたが一緒に見守ってくださったことに、心から感謝しています。
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わたしたちは、日々のなかで「命の重さ」や「死」と向き合う場面に、突然立たされることがあります。
そのとき、すぐに正解を出せる人なんて、きっといません。
けれど――
この物語を読んだあとで、
少しだけ誰かに優しくなれたり、
もう一歩、前に進む勇気が湧いてきたり、
夜空の星を見て、大切な人を思い出せたなら。
この作品は、それだけで十分報われます。
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見えなくても、
声が届かなくても、
想いは、きっと残っている。
あなたが生きている今この瞬間も、
誰かの光が、そっと背中を押してくれているかもしれません。
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この物語が、あなたの心にそっと寄り添い、
日々のどこかで灯となれたなら、これ以上の喜びはありません。
いつかまた、別の物語でお会いできますように。
最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
―― 心をこめて