第6話:再生と約束(6)
列車が最後の停車駅「未来の門」へと滑り込んでいく。
ドアの向こうには、朝焼けのような光が広がっていた。
それは新しい命への入り口――
終点ではなく、始まりの場所。
「あなたの魂は、次の扉を開く準備ができています」
私は、案内人の言葉を聞きながら、胸の奥が静かに震えるのを感じていた。
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構内は、透明な大聖堂のようだった。
壁も天井も、空とつながっているように見える。
すべての音が、祈りのようにやさしく反響する。
そして、そこに待っていたのは――
かつて一緒に旅をしてきた魂たちだった。
直樹さん、美智子、地下鉄の母、震災で逝った少年、
言葉を持たぬ動物たち。
彼らは、静かに笑っていた。
それぞれが、自分の“次の人生”を選んだことがわかる。
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「俺は、風になるよ」
直樹さんが言った。
「誰かがくじけそうなとき、背中をそっと押せる風に。
“まだ進める”って、教えてあげたいんだ」
美智子は言った。
「私は、星になる。
夜空で泣いてる誰かに、“ここにいるよ”って伝えたくて」
地下鉄の母は、見守り役を選んだ。
大きくなった息子のそばに、夢の中でそっと寄り添うという。
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私は、光の扉の前に立った。
そして、迷わずこう言った。
「もう一度、生きたいです」
「今度こそ、ちゃんと“ありがとう”を言えるように。
誰かを大切にできる自分でいたい」
案内人は、やわらかく頷いた。
「あなたの選択は、やさしさです。
その心が、次の人生を照らします」
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手のひらに、あたたかい光が宿った。
それは、小さな“光の種”。
この旅を通して、私が育ててきた感情、涙、決意のすべて。
「その種は、新しい命の中で、やがて芽吹きます。
やさしさとして、ぬくもりとして、また誰かとつながるでしょう」
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私は、最後に空を見上げた。
そこには、いくつもの魂が舞っていた。
人も、動物も、誰もが光の粒となり、未来へ旅立っていた。
再会の約束を交わす者たち。
見送る者。
そっと見守る者。
命は、終わることがない。
想いが続くかぎり、また始まっていく。
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扉が開いた。
まばゆい光の中へ、一歩踏み出す。
その先には、新しい人生――
まだ見ぬ誰かとの出会い、
まだ知らぬ自分との再会が待っている。
「いってきます」
私は、静かにそうつぶやいて、光の中へと歩き出した。