第4話:黄泉の国(4)
列車が、ゆっくりと止まった。
「終点、黄泉の国です。
ご乗車ありがとうございました」
アナウンスの声が消えると同時に、ドアが開いた。
外には、想像していたような“あの世”はなかった。
そこは、朝焼けと夕暮れが溶け合ったようなやさしい世界だった。
風が吹いていた。
草花が揺れていた。
空は静かに光っていた。
ここが、“黄泉の国”。
終わりではなく、魂が“癒される場所”。
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列車を降りた瞬間、私はなぜか裸足になっていた。
けれど、足元の草はあたたかくて、
大地がやさしく包んでくれているようだった。
まわりには、同じように魂となった人たちがいた。
泣きながら誰かと再会している人。
笑顔で手をつないで歩く人。
ひとりで空を見上げている人。
ここは、心残りのない旅立ちの準備をする場所だった。
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私は、導かれるようにひとつの場所に向かっていた。
丘の上、小さな木のそば。
そこに――母がいた。
私が最後に見たあの姿よりも、少し若くて、やさしい笑顔だった。
「……来てくれたのね」
私は、涙が止まらなかった。
ただひとことだけ、どうしても言いたかった。
「ありがとう。
ごめんね。
そして、大好きだよ」
母は何も言わず、私を抱きしめてくれた。
その温もりは、生きていた頃のままだった。
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しばらくして、私は“魂の相談所”と呼ばれる建物へ案内された。
中には、案内人が静かに立っていた。
「おかえりなさい。
あなたには、三つの選択があります」
1.この黄泉の国で、静かに休む。
2.地上に残り、誰かを見守る。
3.記憶を抱えたまま、生まれ変わる。
「あなたの心が望む道を、選んでください」
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私は迷わず、こう答えた。
「生まれ変わりたいです。
今度こそ、やさしく、強く生きたい。
大切な人に、ちゃんと“想い”を伝えられるように」
案内人は、微笑んだ。
「あなたの魂は、準備ができています」
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外に出ると、再び空がゆっくりと変わり始めていた。
朝のような光。
旅立ちの光。
私は、母のいる丘を振り返った。
母は、穏やかに手を振っていた。
その姿は、まるで――
私が子どもの頃、学校に向かうときに見送ってくれた、あの日のようだった。
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この旅は、終わりじゃない。
新しい命の、始まりだ。
私は、魂の小道を一歩、踏み出した。