第3話:決断の駅(3)
光の列車は、ゆっくりと減速を始めた。
車内にはアナウンスが静かに響く。
「まもなく、“決断の駅”に到着いたします。
この先では、あなた自身の心と向き合っていただきます」
窓の外に見えたのは、大聖堂のような駅舎だった。
高く広がる天井、あたたかい光に包まれたホーム――
どこか“祈り”のような空気が漂っていた。
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案内に従って、私は駅舎の中へと入る。
すると、広間の奥に「個別面会室」と書かれた扉が見えた。
「ここでは、誰もが一人になるんだ」
特攻隊の青年――直樹さんが言った。
「自分の人生と、これからの“選択”に向き合う場所らしい」
「選択……?」
「そう。“この先をどう生きるか”を決めるんだよ。
もう一度、生まれ変わるか。
地上に残って、誰かを見守るか。
それとも――このまま休むか」
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案内された部屋には、一脚の椅子と鏡のような装置が置かれていた。
私はそっと腰を下ろす。
鏡が淡く光り、やがて映し出されたのは――母の姿だった。
仏壇の前で、目を閉じて手を合わせている。
その表情は、静かで、どこか泣きそうだった。
「また会いたいな……ほんの少しでもいいから……
あの子の声を、もう一度だけ聞けたら……」
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
こんなに近くにいるのに、
声は届かない。触れることもできない。
でも――確かに、つながっていた。
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「あなたは、何を望みますか?」
部屋の中に、誰でもない“声”が響く。
「あなたは、黄泉の国へ進みますか?
それとも、生まれ変わりますか?
誰かを見守る存在になりますか?」
私はしばらく、何も答えられなかった。
でも――心の奥から、ひとつだけ確かな想いが湧き上がった。
「……もう一度、生きたいです」
「今度こそ、“ありがとう”も、“大好き”も、伝えられるように」
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扉を開けると、直樹さんが待っていた。
「……決めたんだね」
「はい。今度は、ちゃんと生きたいと思って」
彼はうれしそうに笑った。
「じゃあ、またどこかで会えるかもな。
生まれ変わっても、きっと覚えてるよ」
「はい、きっと」
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そのとき、私たちの胸元に、小さな光が灯った。
それは“選んだ魂”に贈られる、旅の証――
「あなたは、自分の意思で進む準備ができました」
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アナウンスが響く。
「次は終点、“黄泉の国”です。
ご乗車の準備が整った方は、列車へお戻りください」
私は、再び列車に乗る。
どこか遠くで、母の声が聞こえた気がした。
「ありがとう。生きてくれて、ありがとう」
列車のドアが閉まり、静かに動き出す。
いよいよ、旅の終点――そして、新しい始まりが待っている。