表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/8

第3話:決断の駅(3)

光の列車は、ゆっくりと減速を始めた。


車内にはアナウンスが静かに響く。


「まもなく、“決断の駅”に到着いたします。

この先では、あなた自身の心と向き合っていただきます」


窓の外に見えたのは、大聖堂のような駅舎だった。

高く広がる天井、あたたかい光に包まれたホーム――

どこか“祈り”のような空気が漂っていた。



案内に従って、私は駅舎の中へと入る。

すると、広間の奥に「個別面会室」と書かれた扉が見えた。


「ここでは、誰もが一人になるんだ」

特攻隊の青年――直樹さんが言った。


「自分の人生と、これからの“選択”に向き合う場所らしい」


「選択……?」


「そう。“この先をどう生きるか”を決めるんだよ。

もう一度、生まれ変わるか。

地上に残って、誰かを見守るか。

それとも――このまま休むか」



案内された部屋には、一脚の椅子と鏡のような装置が置かれていた。


私はそっと腰を下ろす。

鏡が淡く光り、やがて映し出されたのは――母の姿だった。


仏壇の前で、目を閉じて手を合わせている。

その表情は、静かで、どこか泣きそうだった。


「また会いたいな……ほんの少しでもいいから……

あの子の声を、もう一度だけ聞けたら……」


胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。


こんなに近くにいるのに、

声は届かない。触れることもできない。


でも――確かに、つながっていた。



「あなたは、何を望みますか?」


部屋の中に、誰でもない“声”が響く。


「あなたは、黄泉の国へ進みますか?

それとも、生まれ変わりますか?

誰かを見守る存在になりますか?」


私はしばらく、何も答えられなかった。


でも――心の奥から、ひとつだけ確かな想いが湧き上がった。


「……もう一度、生きたいです」


「今度こそ、“ありがとう”も、“大好き”も、伝えられるように」



扉を開けると、直樹さんが待っていた。


「……決めたんだね」


「はい。今度は、ちゃんと生きたいと思って」


彼はうれしそうに笑った。


「じゃあ、またどこかで会えるかもな。

生まれ変わっても、きっと覚えてるよ」


「はい、きっと」



そのとき、私たちの胸元に、小さな光が灯った。

それは“選んだ魂”に贈られる、旅の証――


「あなたは、自分の意思で進む準備ができました」



アナウンスが響く。


「次は終点、“黄泉の国”です。

ご乗車の準備が整った方は、列車へお戻りください」


私は、再び列車に乗る。


どこか遠くで、母の声が聞こえた気がした。


「ありがとう。生きてくれて、ありがとう」


列車のドアが閉まり、静かに動き出す。

いよいよ、旅の終点――そして、新しい始まりが待っている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ