第1話:死後手続き所(1)
――死んだら、終わりだと思っていた。
でも、“光の列車”は、やさしく迎えに来た。
その列車の行き先は、「見守り駅」「決断の駅」、そして「黄泉の国」。
亡くなった魂たちは、そこで人生を振り返り、心残りや大切な人と向き合っていく。
特攻で命を落とした青年。
原爆で家族と離れた少女。
地下鉄事件で子どもを残して旅立った母。
世界中のあらゆる魂、そして犬やクジラ、木や風まで――
国境も種族も超えた「魂たちの再会と旅立ち」が、今始まる。
「これは、あなたの物語かもしれません」
✦ 死後の世界を描く感動群像劇 ✦
✦ 生きることの意味と、やさしさを描いた長編ファンタジー ✦
涙と再生の終着駅へようこそ。
最後にたどり着くのは、“愛”という名の未来です。
――目を覚ますと、そこは、真っ白な空間だった。
足元は見えない。床なのか、雲の上なのかもわからない。
ただ、私は確かに“立っている”感覚があった。
誰もいない。音もしない。
でも、不思議と不安ではなかった。
やがて、ゆっくりと視界が開けていく。
目の前に現れたのは、まるで市役所のような建物だった。
大理石のような光沢、整列されたカウンター、静かな職員たち。
その玄関の看板に、私は目を疑った。
「死後手続き総合センター」
……そうか。
私は、死んだのだ。
⸻
中に入ると、無数の案内表示が並んでいた。
•老衰課
•事故死課
•殺人課
•自死課
•戦死課
•不明課
•死刑課
•病死課
死因によって、手続き先が分かれている。
私は、自分の胸元にぶら下がったプレートを見た。
【氏名:○○○○】
【死因:間質性肺炎】
【日付:令和×年×月×日】
“病死課”の窓口に向かうと、無表情な案内人が静かに言った。
「ご苦労さまでした。
あなたの旅路は、ここから始まります」
そう言って渡されたのは、
一枚のカードだった。
⸻
「光の列車 乗車証」
【行先】
→ 見守り駅
→ 決断の駅
→ 黄泉の国
手が震えた。けれど、怖くはなかった。
このカードが示しているのは、
「死んだあとの物語」の始まりだった。
⸻
やがて、巨大な鉄の扉が開く。
ギィ……という音とともに、
光が差し込んでくる。
そこには、プラットホーム。
そして、静かに停車する――
光の列車。
名前もないその列車は、
すべてを見透かしたような、やさしい光を放っていた。
私は、無意識に足を踏み出していた。
きっとこの先で、
“もう一度会いたい誰か”に会える気がした。