ちいさな春と缶コーヒー
【台本ついて】
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ちいさな春と缶コーヒー
「私さ、缶コーヒーって飲んだことないんだよね。」
他愛ない日常から、ふたりの時間は交差する。
未来も、過去も。そこにはあって、ここにはない。
日常から始まる、紡ぐ言の葉。
今日も、缶コーヒーは冷えている。
【登場人物】
ちさ:誘った女性
春秋:誘われた男性
~役表~
ちさ:
春秋:
~開幕~
公園のベンチにて
ちさ:私さ、缶コーヒーって飲んだことないんだよね。
春秋:へぇー。
ちさ:へぇーって、それだけ? なんかもっとないの?
春秋:なにが?
ちさ:かなしいなぁ。……ってそんな私に興味ないか。
春秋:興味ないわけじゃないんだけど。なんでいきなり?
ちさ:んやさ、私缶コーヒーって飲んだことないんだよね。
春秋:それは聞いた。
ちさ:本格的に入れたコーヒーしか飲んだことないから。
春秋:実家、喫茶店だもんな。
ちさ:うん。
春秋:……。
ちさ:……。
ちさ:んもう、話続かないなぁ。もう帰ってちゃおうかな~。
春秋:いやだめ。それじゃあ俺が暇になる。
ちさ:なら会話続ける努力して。
春秋:わかった。
ちさ:わかったところで続きなんだけど、さっきのは自慢じゃない。
春秋:なんなの?
ちさ:飲む必要がなかっただけ。
春秋:実家でコーヒー飲めるもんな。
ちさ:そう。
春秋:じゃぁなんで缶コーヒーなんて。
ちさ:なんとなく?
春秋:そういうちさも、会話続ける気ないだろ。
ちさ:バレたか。
春秋:なぜこの会話をしようと思った。
ちさ:缶コーヒー奢ってくれたりしないかなぁーって。
春秋:ただのタカリじゃないか。
ちさ:そういうこと。
春秋:自分で買えばいいのに。
ちさ:だってお金ないし。
春秋:大変そうだなフリーランス。
ちさ:安泰そうだね会社員。
春秋:まったく。奢ってやってもいいけど、俺に得あるの?
ちさ:あるよ~、私に貸しを作れる。
春秋:別にいらない。
ちさ:そんなこというなよ。
春秋:ていうか、ちさが自分の話するの珍しいよな。
ちさ:そうかな?
春秋:そうだよ。
ちさ:まぁなんていうか、もっと春秋に私のこと知ってほしいって思っちゃったからかな。
春秋:……ほう。
ちさ:だめ?
春秋:別にいいけど……。
ちさ:けど、なに?
春秋:ちさ、なんか変わったな。
ちさ:まぁ知ってもらうためにね、努力しようかなって。
春秋:俺に知ってもらってどうすんの?
ちさ:……それくらい気づけよ。
春秋:鈍感系男子じゃだめか。
ちさ:男子ってほど男子じゃないでしょ。
春秋:そうだったわ。鈍感系おじさんか。
ちさ:おじさんってほどおじさんでもないけどね。
春秋:いやもうおっさんよ。
ちさ:じゃあ私もおばさんか。
春秋:ちさは見た目女の子だから全然おばさんじゃないよ。
ちさ:ん……、なんか春秋も変わったね。
春秋:俺はおじさんになったからな。
ちさ:……。
春秋:……。否定してくれないのかよ。
ちさ:おじさんがいいまである。
春秋:そうなの?……じゃあいいや。
ちさ:満更でもなさそうだね。
春秋:まぁね。
ちさ:じゃあおじさんには特別に教えてあげようかな。
春秋:なに?
ちさ:私さ、もうすぐこの世からいなくなるんだ。
春秋:……は?
ちさ:私さ、もうすぐこの世からいなくなるんだ。
春秋:……この流れで冗談言うか?
ちさ:あ~告白的な流れだったかぁ。
春秋:そうだけど、そうじゃないだろ。
ちさ:はっはっは~。
春秋:はぁ……で本当はなんだよ。
ちさ:え?本当の話だけど?
春秋:……。
ちさ:なんか言えよ~。
春秋:いや……、頭真っ白で。
ちさ:まぁそうだよね~。いきなりこんな事言われても困るよね~。
春秋:そう簡単に信じられないんだが。
ちさ:真実だよ。
春秋:……。病気……?
ちさ:うん。
春秋:なんの。
ちさ:ありきたりなやつ、脳におっきな腫瘍があるんだって。
春秋:手術とかでなんとかなんないの?
ちさ:もうならないんだって。
春秋:……。なんでそんなにあっさりしてんだよ。
ちさ:んーなんかね、春秋に会う前いっぱい覚悟したからかな。
春秋:……。
ちさ:……、変な空気にしちゃったね。ごめんね。
春秋:そういう問題じゃないだろ。
ちさ:どういう問題?
春秋:好きなやつに告白されて、そいつがもうすぐ死ぬって言われて、平常心でいられるわけないだろ。
ちさ:……今さらっと好きって言われた?
春秋:そうだっつってんだろ。
ちさ:そっか……そっかぁ……。うれしいなぁ。
春秋:俺、今日会おうって言われてめちゃくちゃ嬉しかったんだぞ。
ちさ:なにそれかわいい。
春秋:あほ。
ちさ:アホって言うほうがアホなんだよ。
春秋:ばか。
ちさ:……。ばかかぁ……あはは。たしかにそうかもね。
春秋:……。俺これからどうしたらいい。
ちさ:どうって、なにを?
春秋:ちさのためにこれからどうしたらいい?
ちさ:……。どうもしなくていいよ。
春秋:だめ。俺がしたいから言って。
ちさ:結構男らしいとこもあるんだね。
春秋:……。うるせぇ。
ちさ:じゃあ私と結婚して。
春秋:いいよ。
ちさ:え?……。まさかそう来るとは思わなかった。
春秋:ちさが言ったんだろ。
ちさ:そうだね。
春秋:いつする? 明日?
ちさ:その言いかた、冗談に聞こえるからね?
春秋:本気だ。
ちさ:まぁそれは冗談として、缶コーヒー奢ってよ。
春秋:……。俺は本気でちさと結婚したいと思ってる。
ちさ:私のことな~んにも知らないのに?
春秋:ちさはコーヒーが好きで、もうすぐこの世からいなくなる。それと……。
ちさ:それと?
春秋:……俺のことが好き。
ちさ:そうだね。
春秋:それだけ知ってれば、いい。
ちさ:……。うん。
春秋:だめか?
ちさ:いい……。それだけでいい。
春秋:……。明日婚姻届、出しに行こう。
ちさ:私、一軒家に住みたい。おっきいもふもふのわんちゃんと、まんまるのにゃんこも飼いたいなぁ。
春秋:俺はヘビ飼たい。
ちさ:それは無理。
春秋:知ってる。
ちさ:うん。そうだね。
春秋:……まずは一個、叶えさせて。
ちさ:なに?
春秋:ほら、缶コーヒー。
ちさ:……ありがと。
~終幕~