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中華麺を手に入れよう! の1

 ウランバナの王都トーテルの個人商店で強力粉を手に入れた。強力粉は、主に製パンや製菓に使用する粉なので、西洋風ファンタジーの世界観であれば主食である。実際、マーティに「旅の間、何を食べてました?」と聞けば「村で買ったパンですかね。村によっては、歓迎会と送別会を開いてくれるところもありました」と返ってきていた。乾燥してカチカチになってしまったパンはパン粥にして流し込んでいたという。


 答えた後で、マーティがさみしそうな表情をしていたので、罪悪感を覚える登士郎であった。聖女マーティと勇者トレスは、同じ村で育ち苦楽をともにした仲間。これまでの旅の様子を仲間から聞かれることはすなわち、その仲間から旅の記憶が失われていることを再確認してしまう行為でもある。


 登士郎は、なるべく原作を思い出しながら行動することを心に誓った。


(できればオーションがよかったな)


 話をラーメン二郎に戻そう。ラーメン二郎の自家製麺はオーションという名の強力粉で作られている。オーションは、決して上等なものではない。


 ウランバナでの登士郎こと勇者トレスは、そう遠くない未来に魔王ネヒリムを倒して魔物に脅かされている生活から人々を救う者である。


 そんな勇者サマに事前連絡もなく来店された店主は、慌てふためいて、倉庫から最高級の小麦粉を抱えてきて「あんたのことは応援している! これはわたしの気持ちだ!」と押しつけてきた。人の厚意を無下にすれば、のちのちに響いてくる。登士郎は争いを好まない。ラーメン二郎を愛してやまないジロリアンである。


 太一の頑張りは読者として知っているので、そのイメージを崩さずにいたいのもある。なので、本心は隠して「ありがとうございます」と満面の笑みを浮かべて最高級の小麦粉を受け取った。トレスは万人から愛される勇者サマなのだ。


(ここか)


 クレイドル洞穴から出て、マーティとは別行動となっている。登士郎は個人商店へ、マーティは生活拠点として王様から下賜された一軒家へ。登士郎は分かれる前にマーティから合いカギを受け取っており、その合カギに鑑定スキルを使用することでカギ穴がぴったりと合う家を見つける。原作にも拾ったカギで宝箱を開けるエピソードがあったので、難なく使用できた。


「ただいま」

「はうっ!」


 別行動の理由を、マーティは「家の中、放置しっぱなしで汚いので、お掃除しておきます!」と言っていた。太一がいなくなったのが3ヶ月前と考えると、留守にしていた期間は長いのだろう。ところどころにほこりが積もっているのがわかる。


「お早いお帰りですね……」


 マーティは読んでいた本を閉じて、本棚にしまった。登士郎と目を合わせようとしない。


「片付けしようとして、読みたかった本を見つけた?」

「ぎくぅ!」


 図星のようだ。事実、テーブルの上には各種掃除道具が置かれている。


「や、やろうとはしていましたが、つい」

「いや、わかる。わかるよその気持ち」


 使われた形跡のない台所にいただいてきた小麦粉を置く。登士郎は腕まくりして「手伝いますよ。二人でやったほうが早い」と掃除道具を手に取った。


「ごめんなさい……」

「俺も掃除が苦手なので、逆だったら同じことになっていたと思います。マーティさんは自分の持ち物が置いている辺りを優先で。これから麺を作りたいので、俺は台所周りからやります」

「わかりました!」


 ともに旅する仲間だったとはいえ、パーソナルスペースに踏み込んではならない。一緒に暮らしている家族であっても問題に発展しかねないのだから、赤の他人とならなおさら気を遣う。


 マーティが大事にしているものを捨ててしまったり、見てはいけないものを見てしまったり。想定できる厄介ごとは未然に回避しておきたい。なんせ相手はお年頃の女の子だ。勇者トレスとは同い年で幼馴染みだが、登士郎から見ると年下で、妹の蓮実と同い年である。


(蓮実……)


 兄が死んで、蓮実はどう思っているだろうか。両親より先に、最後に会話した妹のことを考えてしまう。ラーメン二郎に行かせなければよかった、と後悔してほしくない。ラーメン二郎に罪はなく、登士郎目がけて突っ込んできたハイブリッド車の運転手が悪い。ぼんやりしていて避けられなかった自分にも非がある。ラーメン二郎のせいにするのはお門違いだ。


「トーシロー、手が止まっていますよ?」

「あっ」

「何考えてたんですか?」


 じっと見つめられると、やはりウソがつけない。太一は他のヒロインとのデート帰りにはぐらかしていたが、登士郎には難しい。


「妹のことを思い出していて」

「トーシローには妹がいるのですね!」

「そう。中学の頃から吹奏楽部で頑張ってて、高校も吹奏楽部の強豪校に入って……って、こんな話をしてたら掃除終わらないよ!」

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