その1
窓から差し込む陽光とかぐわしい味噌汁の匂いで目が覚める。結局昨晩は手紙をどう処分するか悩んでとりあえず本棚の裏に隠しておくことにしたんだっけか。
その場所はいわゆる男子のプライベートスペース。家族には見せられない秘密のアレヤコレヤを格納してある。特に一緒に暮らしている三人との妄想を書き留めたノートなんて見つかった日には羞恥で死ねる。そう考えるとこの隠し場所でも不安になってくるな……何かもっといい隠し場所はないものか。
俺が悩んでいると玉子焼きの匂いが漂ってきた。うーんいい匂いだ、これは秋葉ねぇお得意のだし巻き卵かな? ん? ちょっと待てよ。確か今日の食事当番って……俺の番だ!
俺は掛け布団をはねのけ枕元の時計を確認する。時計の針はいつもの起床時間から30分も過ぎていた。俺は急いで着替えて台所へ向かおうとして……ベッドを踏み外し床に敷いたカーペットの上へ転がり落ちた。
「兄さん、起きてる? 朝ごはんの用意は秋葉姉さんがやってくれているからもう少しゆっくりしててもいいって……なにやってるの?」
床に仰向けになってる俺にジト目を向けるのは可愛らしいジュニア服を着た一見おとなしそうな女の子。けれどもその実俺の従兄弟で男だ。名前を束川月陽という。ちなみに小学3年生。あといまさらだが俺の名前は仁村夏樹。ピッカピカの中学1年生だ。
なんで苗字の違う人間が俺を起こしに来るかというとそれには俺の実の姉が引き起こしたとある出来事に由来する。
もともと俺たちの両親は海外を忙しく飛び回っており子育てをとある夫婦に家ごと預けていた。
だがこの夫婦がまぁひどいやつでやりたい放題好き勝手。男は家に動物を放ち非合法ハーレムを築き上げ、女は逆らえないのかそれに追従する始末。結果言えの中はむちゃくちゃに荒らされたままになり……結果当時小学生だった俺の姉の仁村冬歌こと冬歌ねぇに叩きだされた。
小学生に負けるってどうなのよと思わなくもないがそれだけ冬歌ねぇの怒りがすごかったのだろう。ただどんな状況だったのかはあいにくと俺の記憶が戻る前の出来事、かつ嫌な記憶は身体が封印しているのかいくら意識を集中させても思い出すことはできなかった。
で、代わりに来たのが束川家だ。ここも両親が忙しく家を空けがちだがうちの両親ほどではないし、子供もいて子育ての経験もあるということで白羽の矢が立ったらしい。
子供は三人いてそれぞれ上から秋葉、春音、月陽の一男二女だ。
「どうしたの? 兄さん。僕の顔をジーっと見たりなんかして」
そう言って可愛らしく首を傾げる月陽。その仕草を見ればどこをどう見ても前世の女の子にしか見えないが将来動物愛に目覚めるかもしれない男の子だ。
この世界の男が本格的に動物スキーになるのは第二次性徴期の頃。具体的に言えば中学生の頃だ。この頃になると自然と人間の女を毛嫌いするようになり扱いがぞんざいになる。
なんだかんだで一緒に暮らし始めてもう6年近くになる。近い将来家族と言っていい俺達5人の関係に振りかかる不確定要素がこの月陽という少年なのだ。俺はそうならないよういろいろと月陽に説いているわけだが正直未来のことはわからない。少なくとも今のところ家族仲は良好だが神ならざる身としては不安で仕方がない。
「兄さん、いつまでそうしているの? 寝直すならベッドに横になったほうがいいよ?」
月陽の声で床に仰向けになったままだったことに気づく。
「わりぃ、着替えて秋葉ねぇ手伝いに行くわ。一緒に降りるか?」
俺の問いかけに月陽はコクリと頷くと、
「それじゃぁ僕、部屋の外で待ってるね」
といって部屋から出て行った。……いや別に男同士なんだから見られても問題ないんだが……月陽はちょっと思考が女よりなんだよなぁ……これはいい傾向なのか?




