7、芽生える悪
☆
一宮勇人。
私と同じ様に先輩に可愛がられていた後輩。
先輩曰く...ゲームセンターで出会いそのまま仲良くなったという。
だが今となっては先輩の敵であり。
そして私の敵だ。
「先輩。大丈夫ですか」
「...ああ。...まあな」
私達は一宮勇人と再会してから河川敷に来ていた。
河川敷では...穏やかな感じで川が流れている。
オレンジ色にきらきら光りながらだ。
私はその光景を見つつ先輩を見る。
「先輩。一宮を殴っても良かったんですよ」
「殴る...か。確かにそうしても良かったかもな」
「何故それをしなかったんですか」
「それは...甘さだ」
「甘さ?」
「...一宮を殴れなかった」
そう呟きながら先輩は「...甘いな。俺も」と呟く。
私は「そうですか」と話しながら目の前を見る。
そして怒りに炎を灯す。
クソッタレ忌々しい一宮だけは絶対に許さない。
ただそう思いながら。
「すまない。根性が無かった」
「仮にも彼は教え子だったからですか」
「そうだな。...そうだ」
「ですか。でももうあれは敵ですよ。一宮勇人はもう戻らない」
「だろうな」
「...私は一宮勇人は...許されざる事をしたと。確かに今までの関係で乖離は難しいですけどそう思っています」
「...凄いな。七瀬は」
そして先輩は「俺もそんな感じでいこう。これからは」と言いながら川に石を投げてから立ち上がる。
私はそんな先輩を見ながら「...先輩」と言う。
それから先輩を見据える。
「どうした?」
「...私が変わっても先輩は変わらないで居て下さいね」
「?...それはどういう」
「家が家なんで」
「...ああ。成程な」
「はい」
それから私は「帰りましょうか」と言いながら歩く。
先輩も「そうだな」と言いながら肩を竦めた。
そして歩き出す私達。
私はそのまま家に帰った。
☆
俺は実家に帰って来る。
それから俺はドアを開けた。
そして家に入ると「お帰り。お兄ちゃん」と声がした。
八鹿である。
「ああ。ただいま。八鹿」
「うん。...大丈夫?」
「今日知った事は全部お前に伝える」
「...え?」
「いや。一宮に会ったんだ」
「...そうなんだね...」
そして俺は「風呂に入って来るから」と言ってからそのまま歩き出す。
八鹿が「ねえ。お兄ちゃん」と言ってくる。
俺は「?」となりながら八鹿を見る。
八鹿は「あのお姉ちゃんを分からせてやって」と言ってくる。
「それでも私はお姉ちゃんを...信じていたから」
「だな。...お前誰よりもアイツが好きだったもんな」
「瀬本が好きだった」
「そうだろうな」
俺はその顔を見ながら「...瀬本はもう戻らないかもだけど...とりあえずやれるだけはするよ」と返事をした。
それから八鹿を見る。
八鹿は「...ありがとう。お兄ちゃん」と俺を見据えた。
俺は「ああ」と返事をしながら風呂場に向かう。
☆
「...」
お兄ちゃんがお風呂に入っている間。
私は考えながら...汗をかく。
何故汗をかくかといえばお兄ちゃんと私の関係だ。
夜中に起きて両親の会話を聞いてしまった。
「...私は...お兄ちゃんと血がつながってないの?」
そんな言葉を呟きながら私は汗を滲ませる。
生まれた時からずっと一緒だったのに。
血が繋がってないってどういう事。
それも...お母さんの子ってどういう事...。
そう思いながら私は考え込む。
それから私は「...はぁ」と溜息を吐く。
すると背後から「八鹿」と声がした。
上半身が裸のお兄ちゃんが?!
「ちょ。おに」
「?...どうした」
「なんで上半身裸なの」
「そりゃ兄妹だからな」
「ま、まま、そうだ、けど」
「え?」
あれ?なんでこんな感情になるのだろう。
血が繋がってないから?
そんな馬鹿な。
いつものお兄ちゃんだ。
目の前に居るのは。
「...ゴメン」
「あ、ああ。どうしたんだ?」
「いや。何でもない」
私の旧姓は元は(田代)と言うらしい。
田代、か。
そう考えながら私はジュースを飲む。
するとお兄ちゃんが「何か飲むか?」と聞いてくる。
私は「...あ、今は良いかな」と断った。
「元気が無いな」
「うん。まあちょっと色々あってね」
「そうか」
「...!!?」
お兄ちゃんが私の額に手を添える。
それから目の前に割れた腹筋が近付いて来る。
ちょ、ちょい!?
私は真っ赤になる。
「熱があるのか?」
「待って、お兄ちゃん。待って」
「え?」
「良いから待って。わ、私は大丈夫だから」
「え?そ、そうか」
「う、うん」
それから後ずさる私。
正直なんか...変な気分だ。
なんせ血が繋がってないのだ。
あくまで家族の女子と男子という事だ。
わ、私は恥ずかしい。
「お兄ちゃん。ちょっと休んでくるね」
「え?あ、ああ」
「後でお風呂入るから」
「そうか」
そして私は自室に入る。
それから私はドアを背にして崩れ落ちる。
正直...心臓がバクバクする。
正直...恥ずかしい。
正直...もうお兄ちゃんを、お兄ちゃんとして見れない。
「...どうしたら良いのこれ」
そんな事を呟きながら私は「...やっば。私...お兄ちゃんが好きなの?」と言った。
すると急速に胸が痛くなってくる。
事実か。
今まで数えきれない程に助けられたのだから。
その分...私は。
「...」
私は息を吐く。
それから心臓の鼓動を聞きながら天井を見上げる、と同時に。
お兄ちゃんを独占したくなってくる。
好きだ。
だからこそ私は...。
「...お兄ちゃんを助けないと」
そう呟きながらニヤッとする。
そうか。
お兄ちゃんは浮気された。
だったら私がお兄ちゃんと家族になっても構わないよね。
血が繋がってないのだから。
どうして今まで黙っていたのだ親は。