5、なにも信じられない
☆
「...」
俺は目の前の女を見る。
誰かといえば瀬本だ。
ただひたすらに俺に縋る様に涙を浮かべている。
階段を上ろうとした矢先だ。
「お前しつこいって事を言わなかったか」
「...」
「...」
じっと見ていると「あの」と声がした。
顔を上げてから瀬本のそばを見る。
そこに瀬本真凛が居た。
黒髪が肩まである。
少しだけ幼い顔の少しだけくせっ毛の少女。
瀬本の妹だが...まさか彼女まで呼ぶとはいかれているのか。
「お前。真凛まで呼ぶとはどういうこった?」
「話を聞いてほしくて」
「お前と話すことは何1つとしてないんだが」
「違うんです。お兄ちゃん」
「違うとはどういうこった?」
「...その。お姉ちゃんは...その。あくまで一宮と一緒にラブホに行ったのは真実です」
「そうだな。それが真実だが」
「その、一宮の狙いが分かった気がしたから」
「は?狙い?お前だろそれは」
「違う。...い、一宮が狙っているのは私もそうだけど。貴方もだよ」
そう言われた俺。
なんだコイツは気でも狂ったか。
考えながら真凛と瀬本を見る。
そして盛大に溜息を吐いてから「すまないがお前達の言う事はどうにも信じがたいから」と言ってから階段を上り教室に向かおうとした。
「...待って。...このままだと仁。貴方も私も危ないの」
「既に俺は危ない橋は渡っている。お前のせいで」
「違うって。お願い。...ジョークを言っている場合じゃない」
「お前な。マジに張り倒すぞそれ以上近付くと」
その言葉にビクッとなる瀬本。
それから「ごめんなさい」と言いながら俯いた。
そして俺は瀬本と真凛を置いてから教室に向かった。
ドアを開けると深刻そうな顔をした智和が居た。
「どうしたお前」
「...ちょっと聞いてくれるか。...実はずっと考えている一宮の事なんだが」
「ああ。それがどうした」
「調べたのもあったり悪い噂を聞いてな」
「は?」
「いや。あくまで噂なんだが...彼の家は医者だったな」
「ああ」
「...薬を親から貰ってさ。...まあなんというか噂の範囲なんだが女を使い捨てにしているという噂があるんだ」
「...マジか?」
「ああ。それで...まああくまで想像だが瀬本もやられたんじゃないかと」
「どっちにせよ奴も一宮も信頼出来ないんだが。奴には半端じゃない程に裏切られた」
その言葉に智和は顎から手を離して手を広げた。
それから肩を竦める。
「それは確かにな。あくまでこれらは噂の範囲だ」と俺に話す。
そして「ただ医薬品搬送業の親父から聞いた事があったからな」と言う。
「そうなんだな」
「ああ。まあ奴には警戒した方が良いのは間違いない。サイコパスかもしれない」
「...まあどうあってももう関わる事はないだろう。仮に一宮も絶対にフルボッコにしてやるよ。次もし会ったらな」
「俺も参加するよ。その時は」
「...だな」
そう話しながら俺は智和を見る。
智和は苦笑しながら俺を見た。
そして俺達は話を切り替えて駄弁る事にした。
☆
次の時間の終わりになって移動教室から帰って来ると七瀬が居た。
七瀬は俺を見ながら「大丈夫ですか?」と聞いてくる。
その顔に少しだけ赤くなりながら「あ、ああ」と返事をする。
それから「どうしたんだ」と聞く。
「いえ。先輩が心配だったので」
「そんな心配しなくても俺は死んでないから」
「そうですね。確かに」
そう考えながら居ると七瀬は「それでちょっとお誘いがあるんです」と言ってからニコニコした。
俺は「?」を浮かべてから「ああ。どういう誘いだ?」と聞いてみる。
すると七瀬は「読書部に入りませんか。私の部活です」と笑顔になってからチラシを見せてくる。
歓迎の文章が見える。
「存続危機なのか?」
「...い、いえ。先輩とただ単に部活がしたいだけです」
「な...」
「そ、それだけです」
俺は赤面しながら俺は慌てる。
すると智和が「良いんじゃないか」と言ってきた。
俺はその言葉に「なに」と固まる。
「いやだって。部活をしてみるのもアリだと思う。だって七瀬さんがせっかく誘ってきているんだから」
「そりゃそうなんだけど」
「お願いです」
「俺に部活動務まるかな」
「先輩ですから」
そう言いながら俺を見る七瀬。
俺は部員届を見ながら「...分かった」と諦めたように返事をする。
どうせ恋人は居なくなったし。
思いつつ俺は喜ぶ七瀬に「いつまでに出したら良い?」と聞く。
すると七瀬は「えっとですね」と言いながら教わった。
☆
放課後になった。
七瀬と一緒に俺は移動を開始する。
それから東棟にある部室のドアを開ける七瀬。
そして入室すると...前髪がやたら長くお化けみたいな女子が居た。
眼鏡をかけている。
ぬらっとしている感じの先輩に見える女子。
「緑弥子部長。新しい部員です」
「あ、ああ。七瀬くん。...は?新しい部員?」
「はい。私の先輩です」
「...新しい部員!!!!!!!!!?」
その緑先輩という先輩は。
俺の下に直ぐにやって来た。
それから見上げてくる。
近くで見ると顔立ちが整っている美人だった。
俺はどぎまぎしてせき...めん。
ちょ、なんだこの寒気は。
「やー!君が!?凄い!新しい部員だ!」
「緑先輩。目が悪いからって近づきすぎです」
「良いじゃないか!もしや君は好いているのか!?彼の事を!」
「はぁ!!?違いますぅ!!!」
真っ赤になる七瀬。
なんであんな真っ赤になっているのか分からないが。
俺はその会話に苦笑する。
それから周りを見渡す。
確かに太宰治、森鴎外、芥川龍之介などが置かれている。
読書部の様であった。
「...?」
その太宰治は...小説の厚さがかなり薄い。
手に取って中身を読むと...女の子同士がイチャイチャする百合物語が挟まっている。
これが...太宰?
太宰???