17、閉ざされた扉
「いや...私、ドラえ〇んじゃないよ。仁さん」
「そうは言ってもお前しか助けを求めれない」
俺は先程の木山そして山下の話を聞いてから八鹿えもんに助けを求めた。
当然だが冷たい視線を感じた。
八鹿えもんそんな事を言わないでくれ。
「はぁ。まったく仁さんは」
「...正直、身の回りで起こっている事だしなぁ」
「気持ちは分からんでもないけど...限度があるよ」
「ああ。ついなんか引き受けてしまった」
「全く仁さんは。そういう所に惚れたのもあるけど」
「ありがたいけどそれは言わなくて良い」
俺はそう言いながら少しだけ赤くなって反応する。
すると八鹿は「まあいいや。...それでどうするの。仁さんは」と切り出してくる。
俺は「...どうしようもないんだよな。...だけどみんなお世話になっている人達だからさ。だからどうにかしたいなって」と切り出す。
「優しすぎるよねぇ。仁さんは」
「まあそれは重々承知だ」
「そっか。アハハ」
「...八鹿ならどうする。この状況」
「うーん。...女子の味方になるかも」
「つまり同性で味方になると」
「そういう事かな」
俺は少しだけ考えながら旅館の周りを歩く。
すると「やあ」と声がした。
背後を見ると風呂上りっぽい...緑先輩が居た。
髪が濡れている。
「君達も入ってきたらどうだい?旅館温泉は気持ちが良いよ」
「そうですね。また後で検討します」
「うんうん。この旅館温泉はアイスがサービスであるから良いね」
「美味しいですか?」
「バニラが美味だね」
緑先輩は笑顔になる。
そういや眼鏡かけてねぇなこの人。
眼鏡が無いと色っぽい感じが...と思っていると背後からつねられた。
俺は痛みに「おい」と八鹿に耳打ちした。
八鹿は目を細めている。
「ふんだ。えっち」
「...ゴメンって」
そんな会話を聞いていた緑先輩が「おや。私の身体に性的興奮を抱いたのかい?」と言ってくる。
俺は「え、い、いや」と否定をする。
八鹿が「行くよ。仁さん」と俺を引きずる。
緑先輩は「気にしなくても君の彼氏は取らないから。八鹿さん」とニコッとする。
え。
「え?分かるんですか?八鹿が俺に惚れているの」
「そりゃ義兄妹にしては常軌を逸している気がするからね。でもそれも良いんじゃないかな。血が繋がってなければ結婚も出来るしね」
「...いやまあそうなんですけど」
「それとも何か問題かい?」
「いや...緑先輩は直球過ぎます」
緑先輩という人には隠し事が出来ないな。
そう思いながら俺は苦笑する。
すると緑先輩は「それで八鹿さん。君は...彼が好きなんだよね。...もうキスはしたのかい?」と言ってくる。
なんという事を聞くんだ。
「はい。キスもしました」
「ほほう。それは興味深いな」
「緑先輩。もう良いですか...恥ずかしいですって」
「待て待て」
そんな感じでふざけながら話を聞いていると八鹿が少しだけ神妙な顔をした。
それから「その。緑さん」と聞く。
緑先輩は「ん?なんだい?」と八鹿に向く。
八鹿は「...好きなタイプってあります?」と聞いた。
俺は驚く。
「ん?それは私に惚れているのかい?君は」
「いや。違います。...だけど聞いてみたくて」
「知的な感じや...本を愛する人が好きかな」
「そうなんですね」
八鹿はニコニコしながら話を聞く。
俺はそんな八鹿を、すげぇな...、と思いながら見ていた。
そして八鹿は緑先輩から情報を聞いてから「例えばそうですね。仁さんはどうですか?」と聞く。
余計な事を。
「うん?仁かい?そうだねぇ。仁くんは結構好きかな。でもお付き合いする根性は無いよ。だって彼は君もそうだけど...なな...じゃなかった。とにかく好きなんだからね」
「?」
ななとは...七瀬?
まさか彼女が俺を好いていると?
まさかな。
そう思いながら俺は苦笑しながら居ると「八鹿さん」と緑先輩が声を発した。
「八鹿さんは...仁くんを大切にしてくれるかな」
「はい。彼は世界で一番好きです」
「そうか。...安心だね」
「...緑さん」
「ん?なにかな」
「...もう束縛されなくて良いんですよ。自由で」
その言葉に見開いた緑先輩。
それからフッという感じを見せながら「それはどういう意味かな」と聞く。
八鹿は「...皆さんから聞きました。...散々な人生だったって」と言う。
緑先輩は「私の事はどうでも良いんだよ」と苦笑い。
「それは...」
「私を好きになってくれる人は居ないしね」
そして緑先輩は肩を竦めて「せっかく温まったから冷えそうだ。...じゃあまた」と切り出す。
今は夏なのにそれはない、と思いつつも引き留める事が出来なかった。
それから八鹿を見る。
「...大変な...人生だったんだね」
「ああ」
八鹿は「...彼女を救えるかな」と言ってくる。
俺は「...分からんな。だけどあの人は俺の恩人の1人になりつつある。だから救ってあげたいのもある」と言う。
八鹿は俯いた。
「一宮勇人も許せないけど。...この世界もなんだか複雑に許せない」
「彼女は過ちを行った。だが...それと今とは別だと思っているんだが...うまくいかないな。この世界は」
「...私は緑さんの世界が開くのを見届けたい」
「同感だ」
それから八鹿は緑先輩が登って行った階段を見ながらギュッと拳を握る。
俺はそんな八鹿の姿を見ながら空を見上げた。
どうすっかな。
そうなった以上は。