16、トライアングラー
現時点で日付は進み。
7月30日となった。
夏休みに突入した俺達は今、列車に乗って移動している。
近所に海水浴場がある。
そこに部員で向かっている。
「緑先輩」
「うん。なんだい?仁くん」
「...俺、このまま遊んでいて良いと思います?そんな事を聞いてもどうしようもないですけど」
「正直に聞き返すけど君に出来る事はあるかい?今現在」
緑先輩はお菓子を食べながら俺をジッと見てくる。
俺は首を振りながら差し出されたパッキーを食べる。
チョコの甘みが口に広がる中で俺は苦い味だった。
緑先輩はそんな俺に「だろう?」と笑顔になる。
「...それを考えると今は休むべきだ」
「ですかね」
「私みたいに後悔したくなければ」
「...ですね」
それから俺は横を見る。
そこに何故か八鹿が居る。
何故八鹿が居るかといえば誘われたのだ。
それで居るのだが。
今現在、七瀬と山下や木山とババ抜きをしている。
「君さ」
「...はい?」
「荷物を抱えすぎだ」
「...荷物...重荷って事ですか」
「そうだな。今の君は米俵を抱えている様に見える」
「...」
「いつか破滅するぞ」
そう言いながらパッキーを俺の口に突っ込んでくる緑先輩。
俺は「恋人じゃないんですから」と言う。
緑先輩は「だな」とニヤニヤしながら笑みを浮かべた。
すると瀬本がお手洗いから戻って来た。
「瀬本さん」
「あ、はい」
「ポッキーゲームしない?」
「あ、はい...はい?」
驚く瀬本。
ジョークにせよ動揺しているからな。
そう思いながら俺は苦笑しながら外を見る。
それから揺れる電車内を見渡した。
もう直ぐ着くかもな。
☆
それから少しだけ経ってから電車は海のある駅に着いた。
そして俺達は伸びをしながら各々準備をする。
俺達は歩いてから旅館を目指した。
その途中で七瀬が「先輩」と耳打ちしてきた。
俺は「ああ。どうした」と返事をする。
「後で時間ありますか」
「...時間?時間なら沢山あるが。どうするんだ?」
「いえ。...その。もし良かったら...2人だけで抜け駆けデートしたくて」
「...お前な...まあ良いけど」
そして荷物を運びながら俺達は女子と男子で別れている部屋を案内される。
山下が俺に挨拶をした。
「宜しくな」という感じで、だ。
俺は頭を下げてから「ああ。こちらこそ」と柔和になる。
それから俺達は部屋に入った。
「...凄いな。目の前が海か」
「そうだな。確かに」
「...海は好きか?」
「海か?海はまあまあだな」
「...実は俺、この旅行中に告白したい相手が居る」
「...え?」
俺は衝撃を受けながら山下を見る。
山下は「...それは緑先輩だ」と言う。
俺はかなりの衝撃を受けた。
沈黙する俺。
しかしその告白は。
「分かってる。失敗するだろう。彼女は大人過ぎるから」
「お前...それが分かっているのに告白するのか」
「ああ。当たって砕けろっていうことわざもあるだろ?」
「あるけど...だがもう勝敗は決まっているだろ」
「でも俺はそんな彼女に惚れたんだ」
その言葉に俺は「...そうか」と言った。
それから「山下。もし良かったら俺も協力しようか」と告げる。
山下は「いや。...まあ1人でやってみたいのもあるんだ。協力には感謝しているけどな」と話した。
俺はその姿に「分かった」と返事をした。
「だけど協力してほしい事があったら言ってくれ」
「分かってる」
それから山下は「ちょっと温泉見てくる。どんな感じか」と言った。
俺はそんな山下を見送ってから奥の襖を開ける。
そして空を見上げた。
深呼吸をした。
暑いな。
そうしていると入り口のドアがノックされた。
「はい?」
「あの。木山です」
「木山?」
まさかの事に俺はドアを開ける。
木山が立っていた。
少しだけおどおどした感じで、だ。
いつもの木山だ。
どうしたのだろうか。
「木山。どうしたんだ?」
「...長谷さん。貴方にしか相談出来ない事なんです」
「は?俺にしか相談出来ない?」
「今、山下先輩、居ませんよね」
「ああ。居ないが...山下が居ると駄目なのか?」
「駄目ですね。私、山下先輩が好きなんです」
その言葉に衝撃を受ける俺。
「それで...その。協力をしてほしいんです」と顔を必死になって上げてくる木山。
俺は「...」と詰まる。
困った。
「...そうなんだな。どこが好きなんだ。山下の」
「彼は頼りになるんです。...前々から。だから...惹かれていって」
「...分かった。俺に出来る事があったら協力はする。だけど全部は協力出来ない」
「分かります。出来るだけでいいんです」
「俺にも都合があるから」
都合なんて嘘ばっかりだな。
逃げている。
そう思いながら「...」とまた沈黙しながら、参ったな、と思う。
結ばれるのは1人だけど...まさか木山が山下を好きで山下は緑先輩が好き。
これは参ったな。
「木山は俺にどうしてほしいんだ?」
「もし良かったら2人きりになるきっかけを作ってほしいです。男子チームに...その。長谷先輩に」
「...そうか。分かった。協力はするよ」
それから俺は考えてから少しだけ困惑しながらも笑みを浮かべた。
だけど...協力ばかりじゃ厳しいな。
困った時の八鹿えもんに相談するか。
そう思いながら俺は木山を見た。