15、決意
☆
一宮勇人はどこに居るかも分からないが。
これ以上奴に好き勝手にされても困るよな。
考えながら俺は翌日を迎える。
それから玄関で八鹿を見る。
「行って来る」
「うん。仁さん」
「...お前の愛は十分に伝わった。...感謝してる」
「だね」
「...だけど決めれない」
「うん。だろうね。仁さんらしく。仁さんが決めて」
それから俺は八鹿に手を差し出す。
その手を握手した。
八鹿はニコッと笑みを浮かべながら「仁さん。行ってらっしゃい」と言う。
俺は「ああ」と柔和な顔をしてから表に出る。
それから学校に登校しようとした。
その時だった。
「先輩」
「...七瀬か。おはよう」
「はい。おはようございます」
七瀬が居た。
俺は七瀬に挨拶をしてから笑みを浮かべる。
すると七瀬は「何もなかったですか」と聞いてくる。
恐らく瀬本の事だろう。
「瀬本は...もう大丈夫だ」
「...でも...」
「彼女はもう過ちを犯さない」
「でも私は...信頼出来ないです」
「気持ちは分かる」
そう話して歩き出す。
それから登校していると「やあ」と声がした。
顔を上げると...前髪、髪の毛をバッサリ切っている緑先輩が居た。
え?
可愛い姿になっていた。
「えと。その姿どうしたんですか?」
「決めたんだよ」
「...何をですか?」
「瀬本さんが変わると決めたんなら私も変わらないとねって」
「...昨日、何を話したんですか?」
「ん?...私の過去話」
「え?」
「君達にも説明しようか」
それから緑先輩から全ての真実を聞く。
俺は愕然としながら七瀬と話を聞いていた。
そして最後に緑先輩は「だから私は精神科医になるんだ」と笑みを浮かべる。
俺達は「そうなんですね」と返事をする。
「彼女が変われば良いなって思って色々と話をしたよ」
「...でも彼女は変わらないって思います」
「それはどうかな。彼女はかつての彼女じゃないよ」
「...それはどういう意味ですか?」
「彼女は守るべきものを見つけた」
「...!」
俺は驚きながら居ると緑先輩が背後を見る。
「そうだろう?瀬本さん」と聞いた。
影から瀬本が顔を見せる。
それから複雑そうな顔で緑先輩と俺達を見る。
「仁」
「...なんだ」
「私、決めた。一宮勇人を倒す。反逆する」
「...お前...」
「私、目が覚めた」
「目が覚めたってのは」
「お爺ちゃんに接して...状況を考えた」
それから唇を噛む瀬本。
俺は「...そうか」と言いながら七瀬を見る。
七瀬は一歩目の前に歩み出した。
それから瀬本をじっと見る。
「...信頼して良いですか」
「...私はもう同じ過ちはしないよ。決めたんだ。倒すって」
「...」
ジッと瀬本の目を見る七瀬。
それから「...そうですね。以前と目の光が違います」と言った。
そして笑みを浮かべて肩を竦める。
「...分かりました」
「七瀬?」
「先輩。以前と目の色が違います。彼女に賭けても大丈夫だと思います」
「七瀬さん...」
「裏切りは無いって思います」
その様子に「私も参加するよ」と緑先輩が言う。
それから「一宮勇人は...止めた方が良い」と切り出した。
俺は「緑先輩...」と呟く。
緑先輩は「彼を止めきれなかったのもあるから」と苦笑した。
「止めきれなかったっていうのは?」
「彼は...通っていた塾の小学生の下級生だったのを思い出した」
「え?」
「私は関わってから1か月で辞めたよ。...だけど当時から彼は一番を目指す様な性格は変わらなかった。彼の暴走を止めれるのは私も必要だ」
「...しかし緑先輩。これ危険が伴いますよ」
「ここまで巻き添えにされてはもう危険もクソも無いだろう。アハハ」
それから緑先輩は苦笑する。
俺はその顔を見ながら「...歩きながら話しましょうか」と歩き出した。
そして俺は瀬本を見る。
瀬本は俺を見ながら「仁」と言う。
「なんだ。瀬本」
「私の事は...認めなくて良いから」
「認めるとか認めないとか以前に俺はお前をまだ心底から信頼した訳じゃないから。不穏な動きは見せない方が良い」
「ありがとう。その間柄が良いから」
「...爺さんは元気か」
「うん。...お爺ちゃんは相変わらずだよ。末期っていうのが信じられないけど」
「...そうか」
そう返事をしながら俺は前を見る。
そして坂を超えてから学校にやって来る。
すると「ところで」と緑先輩が切り出した。
「部員の諸君。もし良かったらだけど今度海に行かないかい」
「海っすか?」
「そうだ。...まあ山下君達にも声をかけるが...どうかな」
「海。良いかもですね」
「まあ今度3連休だから親睦会という事で」
「...ですね」
緑先輩に「部費ですか?」と聞く。
すると「まあね。...でもこれも活動の一環だから」と笑顔になる。
俺は苦笑しながら居ると「弥子」と声がした。
顔を向けるとそこに男性が居た。
というか...この人。
「生徒会の会長。御剣帝くん。何の用だい?」
「何の用か分かるだろう。...部員全員で海に行くという話を聞いたんだが」
「ああ。でも部費から出すからな」
「...」
巌の様なその先輩は俺達を一瞥した。
それから「...弥子。部費を使いすぎるな。それと家庭事情は大丈夫なのか」と聞く。
その言葉に緑先輩はニヤッとしながら「部費は大丈夫だ。それにあんなものは家族じゃない」と苦笑して薄ら目で答える。
俺は「...」となりながら見ていると「...まあそれならそれでも良いが」と言ってから俺達を見る。
「彼の事は知っているかな」
「知っています。現生徒会長です」
「だね。そして私の中学時代からの幼馴染だ」
「え」
それは初耳だ。
そう思いながら緑先輩を見る。
すると「初めまして。部員の諸君。改めて。御剣帝だ」と言ってくる。
そして笑みを浮かべる。
「...弥子が君達に迷惑をかけてないか」
「い、いえ」
「そうか。なら良いが。...じゃあ弥子。あまり生徒会に迷惑をかけるなよ」
そして御剣先輩は律儀に頭を下げて去って行く。
俺はその姿を見送ってから緑先輩を見る。
緑先輩は「全く。生徒会も厳しいね」と苦笑い。
いやまあそれは仕方がないんではなかろうか。
俺達は苦笑した。