13、空を見上げて
☆
何を話しているのかは定かではない。
俺は少し気になりながらも首を振った。
それから歩いて帰宅をする。
八鹿が迎えに来てくれた。
俺は八鹿を見る。
「おかえりなさい。お兄ちゃん」
「ああ。ただいま。八鹿」
「どうしたの?」
「?...どういう意味だ?」
「いや。お兄ちゃんの顔。悩んでいる様な顔だから」
「...分かるのか」
「分かるよ。だって私は妹だから」
その言葉に俺は「...実はな。緑さんっていう女性の先輩と瀬本が接触してな」と説明する。
八鹿は見開いた。
それから俺を心配げに見てくる。
「それ...大丈夫なの?」
「緑先輩だから大丈夫だとは思う。彼女はまあ謎めいているけどな」
「...そうなんだね」
「ああ」
八鹿はそれでも不安そうな顔をする。
俺はその言葉に八鹿に言う。
「大丈夫だ」と。
「彼女は謎だけど瀬本に気圧される程の人じゃない」
「...なら良いけど...」
俺は八鹿の頭に触れた。
すると八鹿はビクッとなって後退りした。
俺は「え?」となる。
八鹿は「と、突然触らないで」と話した。
「え?しかし前からしているじゃないか」
「そうだけど。いや。まあそうなんだけど。だけど駄目」
「?」
意味不明なまま歩き出す俺。
すると黙っていた八鹿が「ね。お兄ちゃん」と言った。
俺は「ああ」と返事する。
八鹿は「私とキスしてって言ったら出来る?」とき...は!?
「八鹿!?」
「答えて」
「い、いや。馬鹿な。血が繋がっているんだぞ」
「良いから」
「...そりゃお前さんは大切だが」
すると八鹿がニヤッと魅惑的な笑みを浮かべた。
それから俺の胸ぐらを掴んでから一気に背伸びした。
そして仰天する俺の唇に自らの唇を合わせた。
それはまさしくキスだった。
な、に!?
「何をしてんだお前!?」
「私ね。市役所行ってきたんだ」
「市役所?なんで?」
「戸籍謄本を見たい為に」
「!」
俺は八鹿を見る。
八鹿は「その結果だけど私とお兄ちゃんは血が繋がってないの」と笑みを浮かべた。
俺は唖然としながら「嘘だろ」と呟く。
それから八鹿は「私、お兄ちゃんとは血が繋がってないから異性として少し前から好きなんだ」と笑みを浮かべる。
「ば、馬鹿な...」
「愛をようやっと伝えれた」
「...俺はお前を妹としてしか見れないんだが...」
「その概念は私が打ち壊すよ」
「...マジに俺が好きなのか?」
「うん。大好きだよ。おに..じゃなかった。仁さん」
それから八鹿は俺を柔和な顔で見上げてから俺にゆっくり寄り添って来る。
そしてハグをしてきた。
俺はそんな姿に「...」となにも言えなくなる。
すると八鹿は「でも」と切り出した。
「?」
「私は確かに仁さんは好きだけど。返事を今求めてはいないよ」
「...え?」
「私達にはやるべき事があるよね。それを考えると返事なんか聞いている場合じゃないって思うし」
「...一宮の事か」
「倒さないと彼を。じゃないと安心出来ない」
「...まあな。確かにその通りだ」
「だから仁さん。彼を倒すよ。必ず」
その八鹿の目からハイライトが消えた。
俺はそんな八鹿のほっぺを挟む。
それからジッと見据えた。
八鹿は目をパチクリしながら「へ?」となる。
「八鹿。落ち着いて」
「え?お、落ち着いているけど」
「まあそうかもしれないが。お前の顔が怖い」
「あ...そ、そうかな」
「ああ。だから落ち着け」
「う、うん」
俺は八鹿から手を離した。
それから八鹿の頭を撫でてから「俺なんかを好きになってくれてありがとうな」と笑みを浮かべた。
そして「妹として大好きだ」と八鹿に告げる。
すると八鹿はかぁっと赤くなった。
「も、もう」
「お前がやったんだからな?最初に」
「確かにそうだけどさ。私に対して...もう!」
「はは」
それから俺は八鹿に対して笑みを浮かべる。
そして俺は空を見上げてから「なあ。八鹿」と呟いた。
すると八鹿は「うん?」と俺を見る。
俺は顔を八鹿に向ける。
「お前に返事が今は出来ない」
「だろうね。期待はしてないよ」
「だが」
「だが?」
「...俺は...いつかお前に告白の返事を必ずする」
「...待ってるよ」
「この告白は...無駄にはしない」
俺はそう八鹿に告げてからオレンジ色に光るアスファルトを歩き出した。
それから帰宅する。
すると...何故か家の前に瀬本が居た。
なに!?
☆
「瀬本...」
八鹿が眉を顰めてから警戒する。
瀬本は申し訳なさそうな顔をしていたが。
やがて顔を上げてから「...話があるの」と言った。
俺は「話とは?」と聞く。
すると瀬本は「...性病にかかったみたい」と告白した。
「...梅毒とかか」
「性器の病気かな」
「ある程度は予想はしていたが。それをなんでいきなり俺に伝えた」
「...私は包み隠さず貴方に伝えるって言ったから」
「だがそれは...」
「私は間違いを犯した」
そう答えながら俺を見る。
それから「私は現状を変えたらこの町から出て行く」と話してから俺を見る。
俺は「...現状ってのはつまり一宮の事か」と聞く。
こくんと頷く瀬本。
「反省している」
「...」
「...つもりだから。だからこそそれなりに罪は償いたい」
「全てが終わってから去って下さい」
「...私は暫く武者修行をしないと駄目だと思う」
「だろうな」
そして瀬本は目線を横にしながら「私、祖父の事も心配だから」と切り出した。
俺は顔を上げる。
それから涙を拭う瀬本を見る。
「許さない事も多いけどそれに気付けたお前だけは褒めてやるよ」
「だね。それだけだから」
瀬本はゆっくり頭を下げた。
それから去る為に動き出した。
その背に「瀬本」と声を掛けた。
瀬本は此方を向く。
「...瀬本。お前が変わる事を祈る」
「うん」
「頑張れ。その面はな」
「...ありがとう」
それから瀬本は去って行った。
八鹿が俺に聞いてくる。
「これで良かったの?」と。
俺は「さあな」と答えた。
なにが正解でなにが不正解か。
そんなもの人生の中では分からないしな。