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4.拾われた王子様の誓い

冒頭部分(**~**)はヒナ視点です。



 事件は、リヒトが店の外へゴミを捨てに行っている間に起きた。


「君は私にとって真実の愛を捧げるべき相手だ」


 きれいな直角でモナートはおじぎをして、ヒナへ左手を差し伸べた。


「えっ?」

「どうか、結婚を前提に我が国へ来てくれないか」

「ごめんなさい。わたしはこの店から離れるつもりはありません」


 ぽかん、と口を開けたモナート。

 どうやらヒナの反応は予想外だったらしい。


「そんなことはないだろう。君は新しい世界を見てみたいと思わないのかい?」


 彼が次にとった行動は、ヒナの両肩を掴むことだった。

 きゃっ、とヒナは小さく声を上げた。


「ここにいれば魔石道具の修理でいろんな世界を見られます。不満はありませんし、毎日、とても楽しいですよ?」


 だから離してください、とヒナは抵抗した。

 しかし。


「だとしたら無理やりにでも連れて行く。君はまだ若い。外の世界を知らないだけだ。我が国に来れば。考えも変わるはず」

「いいえ、変わりません」


 モナートは紳士然としていたが、意志の固さは手の力からも伝わってきていた。

 ヒナも渡り合おうとなんとか虚勢を張るものの、足は震えていた。


(困りました。どうすれば分かってもらえるんでしょう……)


 手元に何かが当たって、視線だけを下げる。


『僕を使って!』


 魔石が、ヒナを呼んでいた。


『目くらましくらいならできるから、その隙に逃げて』


 火と風の力がミックスされた珍しい魔石だ。

 ヒナは感触を頼りに、握りしめる。


「何を持っているんだ」

「きゃっ」


 驚いたことで、ころころと床に落ちる魔石。

 ヒナに動揺が浮かぶ。


 がんっ!

 そのとき、扉を蹴り破って店内へ突入してきたのはリヒトだった――





 リヒトはモナートを睨みつけた。


「ついにしっぽを出したな、この悪党め。人がゴミ出しに行っている隙に」

「あああ、悪党だなんてそんな。私は正当に愛の告白を」

「モナートは()()のくせに、白を切るつもりか?」


 するとモナートが目を丸くした。予想外の切り口だったらしい。


「モナート・フォン・リュッケは出自ゆえ、幼い頃に放逐されたのは事実だ。ただし、リュッケ王国の片隅へではなく……隣国、トゥルヌソル王国に」


 がっ、とリヒトは己の髪の毛をしっかりとかき上げた。

 露わになったのは、生え際の見事な金色。

 言動の意味を理解したモナートは真っ青になった。


「ままま、まさか」

「そのペンダントがどうして濁っているか分かるか。正当な持ち主から離れてしまったからだよ」


 胸元を指差されたモナートは、今度は顔を赤くした。

 唇をわなわなと震わせて、何も言うことができない。


「……やっぱり、これは元々リヒトのものだったんですね」


 モナートから距離を取って、ヒナは向き合う。


「教えてください、モナートさん。どうしてこんなことをしたんですか」

「わわわ、私は何も知らない!」

「知らない訳がないだろう。あんたのことは調べさせてもらった。リュッケ王国では有名な()()らしいな」


 外国にも商流のあるミュラーに頼んで取り寄せてもらった資料は、羊皮紙3枚。

 そこには、目の前の男性についての情報が載っていた。


「今、その義賊はペンダントをとある腐った金持ちから奪って行方知れずになっているともっぱらの噂だ」

「……」

「さて、どうする? このまま予定通り、おれはあんたを警邏(けいら)に突き出すことだってできるんだ」

「待ってください」


 何故だか割って入ったのはヒナだった。


「モナートさんは、このペンダントを本来の持ち主であるリヒトへ届けに来ただけなんでしょう? ねっ?」

「「は?」」


 リヒトとモナートの声が重なる。


「だって義賊なんでしょう? 義賊っていうことは、悪い人から盗んだものを、貧しい人に分け与えたり、本来の持ち主に届けるのが仕事なんですよね」

「ヒナ。いきなり何を言い出すんだ――」

「ははははは!」


 突然モナートは大きな笑い声を上げた。笑いすぎて涙が目尻に浮かんでいる。

 気弱な印象はすっかりと消え失せていた。


「降参だ。君を連れていけばいいビジネスになると思っていたが、止めた止めた!」

「え……?」

「最初はこのペンダントを修復してもらうだけの予定だったが、本来の持ち主の元へ戻そうとしたという案を採用しよう」


 話し方も、堂々としたものに変わったモナート。

 ペンダントを外すとテーブルの上に置いた。

 ずっと下がっていた眉尻は上がり、ばちっと決めるのは鮮やかなウインク。


「心底気に入ったよ、ヒナ嬢。もし君がピンチに陥ったときは、助けに参上しよう」

「待てっ!」


(呪文詠唱が間に合わない!)


 ぱぁんっ!

 派手な光と音にリヒトがヒナを庇うのと同じタイミングで、忽然とモナートは姿を消した。


「あいつめ……」

「リヒト。苦しいです」

「す、すまん」


 リヒトはヒナを抱きしめていた両手をぱっと離す。

 ヒナは瞳を潤ませて言った。


「でも、抱きしめられるのは悪くないです」

「……!?」


 うろたえるリヒトに背を向けて、ヒナはペンダントを手に取る。


「本当の名前、モナートっていうんですね……」

「ん? あぁ。ちゃんと話したことはなかったか」


(むしろ、捨てた名前だ。今の今まで忘れていたくらいには)


 今まで通りでいいんだ、とリヒトが言おうとしたとき。


「おめでとうございます、リヒト。お母さんの形見、取り戻せましたね」


 ヒナが笑顔で振り返った。

 リヒトは、ヒナからペンダントを受け取る。

 

「まぁ、そうだな。呪いはかかっているが」


 しゅるしゅる。

 すると、待っていたかのように大量の魔力がリヒトからペンダントへと流れ込んでいく。


「「!?」」


 ふわり。

 空中に、リヒトとよく似た女性の幻が現れる……。




 ――モナート。わたしの愛し子。会えてよかった――




 微笑みを浮かべた彼女はリヒトへと耳打ちした。


「……」


 目を開けたリヒト。

 雫が床へ落ちるのと同時に、言葉も零れた。


「呪いじゃ、なかったのか」


 みるみるうちにペンダントの表面が美しい乳白色へと変わる。

 同時に女性の幻も薄くなり、ふわっと消え失せた。

 かちり。

 リヒトは脇に爪を引っかけた。中に隠されていたのは、女性をもう少し若くした絵。


「すごい……」


 ヒナが感嘆を漏らす。


「やるよ」

「えっ? お母さんの形見なんですよね?」

「取り戻してくれたのはヒナだ。それに、勉強になると思う。最初の質問の答え。これの声が聞こえなかったのは、魔石だったからじゃない」


 答えは、魔法でできたペンダントだったから。

 効能は呪いではなく、加護。

 描かれた女性は穏やかな微笑みを浮かべている。


「魔石と魔法の違いを知る、いい教材だ」

「……分かりました」


 珍しく、折れたヒナ。

 教材用と言われれば受け取らざるを得ないのだ。


「一人前の修理士となれるように、がんばります!」

「おぅ。期待してる」


 リヒトは口元にやわらかな笑みを浮かべた。


『これは愛する人から受け取ったペンダントなの。あなたも、愛する人に贈ってあげて』


 母の幻がくれた言葉を、思い出しながら。





「まーた安請け合いして」

「……だって、ここをこうしたら直るって訴えてくるんですよ」


 リヒトの溜め息に、ヒナは頬を膨らませた。

 テーブルの上にはぐにゃりと歪んだ無属性の魔石。

 魔石の声は聞こえても技術が足りなかったようだ。


「文句があるなら転職したらどうですか? リヒトなら大手から引っ張りだこですよ」

「俺はどこへも行かない」


 いつになく真剣な表情の断定。

 ぴたりとヒナの動きが止まる。


「ヒナが一人前になるまでは。そう、グランさんと約束したから」

「あっ、そ、そうですよねー。ははは」


 彼女とその父親に拾われた王子にとって、恩義は言葉では語りつくせない。

 真の名を久しぶりに思い出したことで、リヒトは思い出す。


 昼だったのか、夜だったのか。

 晴れていたのか雨だったかすら覚えていないというのに。

 唯一。

 記憶の底で、今も自分自身を温めつづけてくれているのは。




『どこかけがしてるんですか? だいじょうぶ?』




 すべてを失い、ぼろぼろになって。

 見知らぬ地へ辿り着いた自分へ差し伸べられた、小さな手。

 小さくて、強い、手。


(一生をかけて守る。そう誓ったんだ)


 それは、グランに対してではない。

 自分自身に対しての誓い。


「……リヒト?」

「さて、修理の続きだ。今日中には終わらせるぞ」

「はいっ!」


 カランコロン♪

 ベルが鳴り、扉が開く。

 ヒナは笑顔を来客に向ける。


「いらっしゃいませ! お困りごとは、何ですか?」


 ツインテールが、ふわりと軽やかに揺れた。

 


最後までお読みいただきありがとうございました。

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[良い点] 魔石の声が聞ける才能に魔法を使った修理。 夢のある設定でわくわくしました。 タイトルだけ見ると隣国の王子様と結ばれるのかなと思ったのですが、実際に本文読んでみるとリヒトさんが魅力的で、これ…
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