第二話「千変万化の暗刃」
刃物という道具に関し、人が抱くイメージは千差万別だろう。それは人に迫る危機を切り開く希望の象徴であるかもしれない。あるいは日常に寄り添う、なくてはならない相棒であるかもしれない。あるいは……悪意や強欲、怨嗟により人命や財産を奪う残酷の象徴にさえなりうるのである。ともあれ、この不気味な友人は、人類文明とともにあり続けたのだ。
今回はそんな刃物を手に闇に潜む少女の物語である。かつて身を置いた恐ろしい集団の逸話とともに語られるその刃物がなんであるかを当てていただこう。無論、これもまた我々にはなじみ深いものだ。あなたたちの中にも、この刃物の扱いに長けた器用な人物は少なからずいると思われる。
「千変万化の暗刃」
「ふふふ……」
暗い部屋の中、私はお気に入りの刃物を手に不敵な笑みを浮かべる。
この刃物の扱いを練習し始めたのは、私がまだ3歳の頃であったか。当時はどこかもわからぬ山の奥、今はもうない集団にあれやこれやと教え込まれた。この集団は常に敵対者の流血とともにあった。敵も戦力に任せて私たちに歯向かってきたが、銃、罠、ナイフで殺しては、余すところなくバラす。公権力も何のその、無敵の集団のはずだった。
「時代の流れか……」
私たちの集団は、なわばりにしていた山村ごとなくなった。本部にしていた屋敷の取り壊しの際に持ち出した刃物が、今ここにある。刃物といっても、これの危険性を世の大半の人間は軽視する。大剣の重量、太刀の切れ味、ナイフの敏捷。暗殺にしても、正面戦闘にしても、ほかの刃物は各々の戦場があるが、まさかこれを正念場にもっていこうという者はいない。実に愚かしい。
この刃物はほかの連中とは一味も二味も違う。熱を加えたり、特殊な工具を使うとかを無しに、千変万化、変幻自在に操れるのだ。ナイフは太刀になれないし、太刀は銃にならないし、ワイヤーを刃物にするには相応の技量が必要だ。しかしこいつは違う。指をちょいちょい動かすだけで、刀槍などお手の物、それを握る兵士にだってなるのだ。それでいて縁の切れ味はもの知らぬ幼子にさえ容赦なく襲い掛かる。
この千変万化の刃の扱いを身に着けた私たち「集団」は今も身を潜めている。山奥のそれがなくなっても、今や集団に歯向かう者がいなくなろうとも、私たちは今も、人々の群れに紛れてここにいる。それを刀に、ナイフに、戦車に、ミサイルに作り替える技術も隠し持っている。だのに平凡に飼いならされた匹夫どもは私たちを単なる田舎からの上京者としてしか扱わない。この刃物を存在しえぬ巨竜に作り替えてなお、せいぜいけん玉やメンコがうまい子供に向けるような安い賞賛しか飛んでこない。実に愚かしいことに……。
(完)
いかがだろう。このあらゆる兵器どころか、存在しないようなものさえ自在に生み出せてしまう刃物。こんなものが身近に、よりにもよって3歳の幼児に当たり前のように与えられ、扱いを学ぶ。これは何も物語の中に存在した敵対者を殺める危険組織の話に限った話でもないし、なにより彼女の身の置いた集団も、その素性は決して非合法で危険な存在ではない。そのうえで、彼女が操る刃物の正体を当てていただこう。模範解答は第三問のあとがきにて掲載する。
第一問の模範解答:信号機
横断歩道に存在する。赤い光がともっているときに踏み込んだ主人公の少年は落命したのだ。