第一問「一本足の支配者」
さて、先ほどの呪いの絵の例題で感覚はつかめただろうか。つかめていなくとも出題自体は行うわけだが。
今回は夕暮れに立ちはだかる奇妙な立ち姿の怪異について語ろう。わが国でも「黄昏時」といえば「逢魔が時」と呼ばれ数々の胡乱な者どもとの遭遇が多く発生する時間である。幼少期の怖い妖怪伝承なんかにもおなじみの時間に、この度の物語の主人公はそれに出会ってしまったのだ。
それでは、この物語の怪異「一本足」の正体も当ててもらうとしようか。
「一本足の支配者たち」
俺は同じクラスの同級生と待ち合わせをしているコンビニに急いでいた。なんということはない日のはずだったが、俺はテストの不出来を先生に叱られていたのでずいぶん遅れそうだった。
そんな急ぎ道の途中に、決まって奴らは現れる。
夕日の影に不気味な黒い一本足、ぬらりと立って首だけ曲げる。変な位置に名札を付けるやつもいる。俺たちの学校の生徒のふりでもしているのか、ろくでもないことだ。
目が2つ3つの奴らは、いわゆるオッドアイというやつなのだろう。不気味に違う色の目をいつだってどれか光らせる。こんな不気味な生き物がいてたまるか。
ただ不気味なだけならまだいいさ。俺が気に食わないのは大人も子供もみんな、奴らの目の色を恭しくうかがうこと。「そうすれば安全だ」なんて世迷言を言いやがる。同じ口で奴らは「おかしな権力者には盲従せず、自己の頭で考えることを大切にしろ」というのだ。ダブルスタンダードもいいところだ。
俺は急いでいるんだ、こんなおっかない見た目で何も言わない、機嫌がいいときは歌うたうくらいしかしない狂った化け物の顔色を窺って、ありがたがるような奴ではない。
「死んでしまうぞ!おとなしくしろ!」うるさい!
俺は背後から伸びた黒い腕を振りほどいて、赤く目を光らせにらみつけるやつらのテリトリーに踏み込んだ。
それから大きな、アジアゾウの鳴き声のような音が轟いて……
その次の日から、何もかもが変わってしまった。
朝、母ちゃんは俺を起こしてくれなくなった。代わりに黒塗りのでかい箱に手を合わせる。母ちゃんは変な宗教にはまったようだ。とんでもないことだ。
昼、学校で出席は俺の名前を飛ばすようになった。俺の席に花瓶が置かれるようになった。こんな嫌がらせを泣きながらコンビニで待ち合わせたはずの友人がするようになった。奴は自分から人を馬鹿にしたり殴ったりするような奴じゃないことは俺が一番よくわかっている。友人にこれを命じている奴がいるはずだ。
夕方、いつもの道に花や俺の小さなころ気に入っていたゲーム機が置いてある。こんなところに勝手に捨てやがって。最近クラスでも成績の悪い奴は親からゲームの禁止を言い渡されるが、俺の家では直近のテストが悪かったからと捨てられるのか。とんでもない親を持ってしまったとため息しかない。
夜、自称霊感の強い高校生の姉ちゃんがオカルト部の活動から帰ってくる。ここ最近の両親が急に子供を無視するろくでなしになってしまった中でも、姉ちゃんだけは別だ。
ずいぶん子供っぽい遊びだが、だるまさんが転んだで遊んでくれる。
一本足のせいで、姉以外がみなおかしくなったのだ。
こんな話が、あるものか。
(完)
さて、自らの機嫌を損ねた少年の生活を何もかも変えた、この怪異。我々も遭遇しない日はないような存在なのだが、わかるだろうか。
例によってこちらも第二問のあとがきにて模範解答を示そう。
例題の模範解答:「アニメ」
その他映画、ゲーム、動画サイトなど「映像を用いた表現を行うもの」を想像していた方はおめでとうございます。正解です。