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俺を好きな幼なじみがポジティブすぎる

作者: 底花

・告白を催促するヒロイン

「そういえば(れい)そろそろしないの?」


 高校に入ってはじめての終業式が終わり帰路に着いている最中、一緒に帰っていた幼なじみの(あさひ)がいきなりそう質問してきた。


「何をだ」


 全く思い当たる節がない。夏休み始まったばかりで何をするというのか。


「え~、私に言わせるの?」


「いいからとっとと言え」


 そもそもお前から聞いてきたんだろうが。


「告白だよ。コ・ク・ハ・ク」


「誰にだよ」


 自分の心に確認してみたが今のところ俺に想い人はいない。コイツは俺が誰に告白すると思っているのだろう。


「誰ってそんなの私に決まってるじゃん」


「は?」


 本当に何を言っているんだこのアホは。いつも突拍子もない事を言っているが今日は特に脈絡がない。


「なんで俺がお前に告白するんだよ」


「え? だって怜、私のこと好きでしょ?」


 その絶対的な自信はどこから来るんだ。1ミリも俺が旭を嫌いだと思っていない。


「嫌いじゃないけどそれはラブというよりライクだ」


「どういうこと?」


 コイツが馬鹿だったことを忘れていた。もう少し分かりやすく言うなら……。


「好きは好きでも恋愛的な意味じゃないということだ」


「難しいこと言うね怜。好きなんだから付き合えばいいじゃん」


 出来るだけ噛み砕いて伝えたつもりだったが旭にはまだ難しかったようだ。


「だからそういう意味の好きじゃないんだよ。というかなんでお前は俺に告白させたいんだ」


「だってもう高校生になったしそろそろ怜と恋人になりたいなと思って」


「お前の中で俺とお前が恋人になるのは既定路線なのか?」


「きていろせん? よく分からないけど怜と恋人になりたいってずっと思ってたよ」


 旭がそんな事を昔から考えていたなんて初耳なんだが。いつも自分の欲望に忠実に動いて未来についてなんて全然考えていないと思っていた。


「お前は俺を好きなのか?」


「好きじゃなきゃ告白してほしいなんて思わないよ」


「……好きって恋愛的な意味だぞ」


 旭が首を傾げる。さっきからそこまで難しい言葉を使っていないと思うのだが。


「多分そうじゃないかな?」


 多分ってなんだ多分って。そこはちょっと自信ないのかよ。


「とにかく私は怜と恋人になりたいの。だから早く告白して」


「そんな催促聞いたことないぞ。というか恋人になりたいならお前から言えばいいだろ」


 告白されて俺が了解するかは別の話だが。


「分かってないな怜は。告白は男の子の方から言ってほしいと思うのが女の子ってものなの」


「知らん。何度も言うが俺のお前への好きは恋人にしたいとかそういう方向性じゃない」


「じゃあどういう好きなの?」


 その質問シンプルだが答えにくいな。さてどう返すか。


「俺の好きは友達とか家族とかそういう人に向けての好きだ。恋人への好きとなんとなく違うことは分かるだろ?」


「家族に向けての好きがあるなら恋人になってもいいんじゃない? 最終的に恋人になった後は結婚して家族になるんだし」


 ああ言えばこう言う。いつもに増してめんどくさいなコイツ。というか今結構凄い事を言われた気がするんだが。


「お前、俺と結婚するつもりなのか?」


「うん、だからそろそろ恋人になっておきたいなって思ったの」


 旭にとって恋人とは中間地点に過ぎないらしい。思ったより旭が将来について考えていて素直に驚く。


「だが俺はお前と恋人になるつもりはないからお前の計画は破綻したな」


「え~、なんで私と付き合ってくれないの? いいところいっぱいあるのに」


「例えば?」


「明るい!」


 自信満々だなおい。でも確かにコイツくらい明るい奴は探しても中々いるものではない。


「他には?」


「可愛い!」


「自分で言うな」


 軽く旭にチョップする。ダメージはほぼないはずだが旭は痛いなぁと言ってチョップされた額をおさえている。笑っているので痛がるフリだろう。まあそれはさておき旭が可愛いと言うのはあながち嘘というわけでもない。幼なじみの贔屓目抜きにしても旭の顔は整っている部類に入ると思う。実際、男子の中では旭の事を明るく可愛いので良いと思っている輩もいると聞く。


「後は?」


 なんかずっと質問を繰り返していると少し意地悪している気になる。だが長所が多くあると言ったからにはもう1つくらいは出してもらいたい。旭は少し悩んだ素振りを見せた後ニヤリと笑った。


「教えるからちょっと耳貸して」


 この顔は悪戯をしようと考えている時の顔だ。嫌な予感はしたが何をされるか予想がつかなかったので渋々言われた通り耳を旭の方に近づいた。


「私、おっぱい大きいよ」


「なっ」


 俺は旭から飛び退いた。いきなり何を言い出すんだコイツは。


「私、他の子よりも大きいと思わない?」


 無意識に旭の胸部に目がいく。他の女子については知らないが旭が立派なお胸様をお持ちであることは改めて一目見ただけでよく分かった。


「俺が巨乳派だとは限らないだろ」


「怜のパソコンにあるエッチな動画みんな胸が大きい人じゃん」


「なんで知ってるんだ」


 なぜ何重にもロックがかかっている俺のパソコンの奥底にある秘密のコレクションを知っているのか。普通に発狂しそうなんだが。


「それはナイショ。あ、恋人になってからは使わないでね」


「お前と恋人になる未来は永劫ないから気にしなくていいな」


 もう男として人に知られたくない秘密トップを知られ自棄になってきている自覚はある。それはそれとして旭の話を聞いてまだ付き合いたいと思っていないのも事実だ。


「まだそんなこと言うの。だったら少し想像してみてよ」


「何を?」


「私が他の人と付き合った時のこと」


 旭は少し真剣な表情になった。その顔を見て俺は旭劇場が始めることを確信するのだった。


「怜が私に告白することなく1年が過ぎた」


 はじめからいきなり時間が飛んだな。高2になった俺たちの話か。


「私の心は怜から少しずつ離れていき他の人が付け入る隙が生まれてしまった」


 これは知らない男が現れて旭がソイツと付き合う展開だな。確かに少しモヤモヤするかもしれない。


「でも私は隙が生まれて気づくの。やっぱり怜が必要なんだって」


 あれ、風向き変わったな? 早く出てこい旭を俺から奪い去る男。


「そうして私は怜を襲って2人は末永く仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし」


「何がめでたしめでたしだ。他の男と付き合ってないし」


 とんだクソ脚本だった。何一つめでたくない。なんなら俺襲われているし。


「最初は他の人と付き合う展開にしようと思ったよ。でもよく考えたら私が怜以外と付き合うって嘘でもありえないと思って没にしました」


 没にしましたじゃないが。真面目に聞いていた俺の時間を返せ。


「結局何が言いたかったんだ」


「怜って私を好きじゃないって言うけど私が他の人と付き合ったら絶対後悔するよねって話」


「ならはじめからそう言え」


 でも確かに旭劇場を聞いていた時、旭と他の奴が付き合う想像をして少しモヤモヤしたのは事実だ。


「ほら告白しようよ。こんな明るくて可愛くて怜が大好きな女の子もう現れないよ?」


「断言するな。まだ人生長いんだから出会えるかもしれないだろ」


「そんなの待ってたらおじいちゃんになっちゃうよ。私とならすぐに恋人になれるよ。早くカップルになってリア充の仲間入りしよう!」


 旭が親指を立てウインクしてくる。なんだろう、無性にイラッとする。


「新手の詐欺みたいな誘い方するな。それに別にリア充になりたいわけじゃない」


「またまたそんな強がり言っちゃって~。夏だよ? 海にプール、お祭りを彼女と行きたくない?」


「付き合わなかったとしてもお前が俺を無理やり連れていくだろ」


 受験勉強をしていた去年ですら息抜きだといって色々な場所に連れていかれたのだ。何のしがらみもない今年にコイツが動かないわけがない。


「それはそうだけどさ、幼なじみと行くのと彼女と行くのだと全然違うと思うよ」


「どちらにせよお前と行くから変わらないだろ」


「いいや、違うね。つぶあんとこしあんくらい違う。彼女になった旭ちゃんは魅力更に増し増しですよ」


 俺はあまりあんこの種類気にしないので具体的にどれくらい違うのか分からないが旭は自信ありげだ。


「そうか良かったな」


「そう、だから怜早く付き合おう!」


「それはお前からの告白か」


「違う、いや違くないけど怜からも言って。好きだ愛してる旭。お前を一生離さないって」


「言えるか」


 コイツの思っている告白はどうなっているのか。そんな台詞言ったら恥ずかしくて悶絶する。


「もう怜は本当に強情だね。観念してもいいんだよ」


「強情なのはお前だろ。そろそろお前の家に着くし時間切れだ諦めろ」


「え~、まだ話は終わってないよ。私の家で続きしよ」


 旭はまだ俺とのお付き合いを諦めないようだ。今日は早く学校が終わり時間にもまだ余裕がある。


「しょうがないな。夕食までには帰るからな」


「やった、そういう私の言うこと聞いてくれるところも好き」


 旭が俺に抱き着いてくる。慌てて周囲を見渡すが幸い人はいなかった。


「暑苦しい早く離せ。人に見られたらどうするんだ。とっとと家に入るぞ」


「はーい」


 こうして俺は旭と共に旭の家に向かうことになった。




 旭の家に入ると旭のお母さんの果歩(かほ)さんが迎えてくれた。


「旭おかえりなさい。あら、怜君も一緒?」


「ただいま、そうだよ」


「お邪魔します」


「怜君少し大きくなったかしら」


「前来てから1週間も経ってないので背は伸びてないと思います」


 俺と旭が遊ぶ時は旭が俺の家に来ることが多いが夜遅くなると俺が旭を家まで送る。そのため、送った際に果歩さんと会うこともよくあることだ。


「それで告白は旭の告白は上手くいった?」


 いきなり凄い爆弾発言するのはやめていただきたい。これも遺伝なのだろうか。


「あの、えっと……」


「お母さん、私からじゃなくて怜の方から告白してもらうの」


 俺が返答に困っていると旭が横から口出ししてくる。


「だからしないって言ってるだろ」


「あらあら、面白い事になっているわね。私はキッチンにいるから後は2人でごゆっくり」


 それだけ言うと果歩さんはキッチンに消えていった。


「もうお母さんったら。怜行こ」


「ああ」


 そして俺は旭に連れられ旭の部屋へと歩いて行った。




 旭の部屋に到着した。旭がクッションを用意し座るように促してくるので言われるがままに座る。


「それで告……」


「その前にお前家族に告白について話したのか」


「話したよ?」


 旭がなんでもないかのように答える。


「具体的になんて言った」


「私、怜のこと好きだし怜も私のこと好きだと思うから告白してもらってくるねって」


「……それでご両親の反応は」


「お母さんは青春ねって言ってて、お父さんは怖い顔した後に怜君ならいいって言ってちょっと泣いてたよ」


 だから果歩さんはさっきあんなこと言ってたのか。というか旭のお父さんにもう会いたくない。あまり会う機会はないが次会ったら絶対めんどくさいことになる。


「怜のお母さんは若いっていいわねって言ってて、お父さんは息子を頼むって言ってたよ」


「ちょっと待った。なんで俺の親にも確認してるんだ」


「え? 挨拶は大事かなって」


 なんで先に両親に挨拶してるんだ。コイツの事だから無意識だと思うが外堀を埋められている。


「……まあいい。それで告白についてだけど」


「してくれるの!」


 旭の表情がパァと明るくなる。別に元から暗い顔していたわけではないが。


「さっきまでの話聞いてたか? 俺はお前を彼女にしたいわけじゃない。お前が俺を好きだろうとそれは変わらない」


「告白してくれないの……」


 今度は旭の表情がシュンと暗くなる。なんだか罪悪感が湧くのでその顔は出来ればやめてほしい。少しの間沈黙が続いた後、旭が何か閃いたのか再び笑顔に戻った。その笑みはどことなく艶やかだ。


「なんだその笑顔は」


「告白してくれないのは私が怜を好きだってまだ伝わってないからだと思うんだよね。なら好きだってもっと教えてあげればいいんだよ」


 そう言うと旭は俺に抱き着きその顔を俺の耳の近くに寄せてきた。


「なんだかんだ言って私のわがまま聞いてくれるところが好き、優しいところが好き、あんまり見せない笑顔が好き、素直じゃないところも好きあとは……」


「ちょっと待て。分かったからとりあえず離れろ」


 旭から距離をとる。旭は余裕ありげにまだ笑っている。今日はいつもに増して旭のペースだ。


「顔真っ赤になってる可愛い。こんなに怜のこと好きなの私だけだと思うよ。だからね付き合おう怜」


 旭は確かに可愛いしちょっといや大分馬鹿だけど明るく何より俺を好いてくれている。俺をここまで好きだと言ってくれる女の子がこの先現れるだろうか。


「……お前は俺でいいのか」


「怜以外に付き合いたいと思う人はいないよ」


 屈託のない笑顔で旭が答える。後は俺がどう返すかだがもう返事は決まっていた。


「……正直、今になってもお前に恋愛感情はないがそれでもお前以上に大切な奴が出来るとは思えない」


「つまり?」


「俺と付き合ってくれ」


「うん!」


 旭が俺の方に飛び込んでくる。俺は咄嗟の事で支えきれず旭に押し倒された。


「ありがとう嬉しい。ずっと幸せにするね」


 旭がギュッと俺を抱きしめる。それは結婚のプロポーズの時に言う台詞ではないだろうか。こうして俺と旭は10年以上続いた幼なじみという関係から恋人という新たな関係に変わった。これから俺たちがどうなっていくのかは分からないがまた旭に引っ張られていくのだろうとなんとなく思っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 旭の怜君大好き感がよく分かるいちゃいちゃ感が楽しかったです。
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