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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第肆章 異界突入
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肆之拾壱 対策

 私の問いに雪子学校長は少し考えてから「わかった。試してみたまえ」と許可をくれた。

 短く頷いた私はすぐに分身に向かって、出現させた時と同じように右の手の平をかざす。

 分身に対して、私は頭の中で『狐の姿』に変われと念じた。

 すると、消し去ると同じように、体が光って紐状に解け始める。

 紐状の光る物体へと、解けた分身の体は徐々に変化していき、一部が光を失って宙に消え、残った一部が狐の姿を形成するように集まり出した。

 やがて、光の紐は銀の毛並みへと変化し、分身の人間から狐への変化が終わりを迎える。

 その過程を見届けた私の胸の中にはやり遂げた達成感があった。

 だが、その達成感は雪子学校長の「ダメだ、卯木くん」という言葉でかき消える。

「えっ!?」

 慌てて私は自分の体を確認するが、雪子学校長からの「あー、そうじゃない。こっちだ」との声で視線を向けると、その手の中から紐状に解けて消えていくスマホ目に入った。

 その光景に、私は「えっ?」と声を漏らすことしかできない。

 一方、スマホの方はその間も、光る紐へと変わり続け、端から宙に溶けて消えていた。

 スマホを消すことなんて考えもしなかったのに、起きてしまった出来事に、私が戸惑っていると、雪子学校長が一つの考えを示してくれる。

「君の様子から判断して、スマホを維持出来なくなったと言うよりは、君の認識の中でスマホが、狐の持つモノではないという意識があるからだろうな」

 そういう風に言われると、確かにと思えた。

 狐はスマホを持ち歩かない。

 それは当たり前のことなんだけど、まさかその意識のせいで、出現させたスマホが消えるとは思わなかった。

「どう……すれば?」

 まったく対策が思い付かなかったので、縋る思いで雪子学校長に尋ねると、とても明快な答えが返ってくる。

「単純に、もう一人分身を出現させられないかね?」

「……えーと……」

 無意識に、いや……同調して体を動かせたり、感覚を共有出来たことから、分身は一人しか出現させられないという認識があったけど、雪子学校長の言葉はそれを一瞬で吹き飛ばすような発言だった。

 出来るか、出来ないかで考えてみると、恐ろしく簡単に『できそう』という感覚が湧いてくる。

 私はあっさりと解決してしまいそうな状況に、やるせなさを感じて一つ長めの溜め息を零してしまった。

 それから改めて雪子学校長に「できそうです」と伝える。

「では、試してみてくれ」

 雪子学校長の言葉に、私は無言で頷いた。


 まず私は、二体目の分身を生み出す前段階として、狐姿となった分身の能力を確かめるために、意識を集中した。

 狐の分身と軽い同調をしてみるが、等身大の分身と違って、ベッドのクッションや薄手の毛布に触れてみても、その感覚は上手く伝わってこない。

 一方で、感覚と違って体を動かしたいという意識はより強く反映された。

 その場で跳ねるようにイメージすればその通りに跳ね、イメージを変えるだけでその高さも簡単に調整出来る。

 ベッド、壁、天井と、ジャンプを繰り返シテ飛び回る姿をイメージすれば、狐姿となった分身はイメージ通りに、その軽業を決めた。

「人の姿と狐の姿では感覚の共有が弱まって、その反面イメージ通りに行動させられる様になってます」

 私の報告に「これなら、君のスマホのアプリと連動させれば最高の斥候に成り得るな」と雪子学校長は、驚きの表情で頷く。

 確かに、私の分身で先に状況を把握出来るようになれば、より安全を確保出来るかも知れないと、より一層自分の分身に対する期待が高まった。

 ならばこそ、早く検証を進めたい。

 だが、私はここで踏み止まって、大きく息を吸い込んだ。

 それから、細く長く息を吐き出す。

「どうしたのかね?」

 私の突然の深呼吸に、雪子学校長が怪訝そうな顔を向けてきた。

 対して私は「いま、勢いに任せて検証を進めてしまいたくなったので、気持ちを落ち着けたところです」とありのままを伝える。

 すると、雪子学校長はホッとしたように表情を緩めて「良い傾向だ」と、私の行動を肯定してくれた。

 それだけでもの凄く嬉しくなってしまったが、また浮かれてしまいそうだったので、慌てて頭を振って気持ちを立て直す。

 それから、もう一度だけ深めの深呼吸をして気持ちを落ち着けた私は、雪子学校長に許可を求めた。

「それでは、二体目の分身を出現させてみます」

「ああ、わかった。もし手に負えなくなったら、私が君の時間を巻き戻す。自分一人でどうにかしようとはせずに、私を頼れ!」

 とても心強く力強い雪子学校長の言葉に、私は「はい!」と返事を返す。

 いざとなれば雪子学校長も手を貸してくれるという安心感が、私の中の上手くいくというイメージを強めてくれた。

 狐姿の分身を操作して、私の肩に乗せ、空いたベッドに右手の平を向ける。

 目を閉じた私は、これまで数回繰り返してきた分身を出現させるための集中を開始した。

 全身から熱を伴った力が右手に集まり、手の平からベッドへ向かっていく。

 私の手を離れた光は、手の平から放たれ紐へと変化し、それが私の体に巻き付くようにして形をなしていく姿が、目を閉じて黒一色だった私の視界に映し出された。

 目を開けていない私がその光景を確認出来ているのは、狐の分身が見ているからであろう。

 どうなっているのだろうと思った時に、無意識に同調してしまったんだと思うが、このまま狐の分身の視覚に同調していて大丈夫か少し不安になってしまった。

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