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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第肆章 異界突入
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肆之捌 異界netTV

「いかいねっとてれび……ね」

 雪子学校長はスマホから顔を上げると、じっと私を見た。

 明らかにその目が私に『どうする?』と聞いている。

 当然、試す以外の選択肢はないが、一応二人で決めたルールがあるので、そこを破るのはいけないと私は考えた。

「ちなみに、料金は?」

「無料となっているね」

 雪子学校長は、多少ぎこちない手つきでスマホを操作して、アプリの詳細から該当箇所を示す。

「誰かに迷惑を掛ける可能性が低そうなので……」

 私がそう伝えると、スマホを操作するためにピンと伸ばされていた雪子学校長の人差し指が『異界netTV』のアイコンをタップした。

 直後、スマホの画面一杯に表示されたのは白一色の画面で、画面の一番上に『接続する視界を選択してください』の文字と、花子さんを初めとした突入メンバーの名前がずらりと縦に並んでいる。

「これは……」

 名前のリストを見た雪子学校長が目を細めたのに対して、私は思ったままを言葉にした。

「選んだ人の視界を映し出すことが出来る……のでしょうか?」

「その可能性は高そうだが、接続することで、悪影響……最悪の場合こちらに視界を奪われる可能性がある」

 雪子学校長にそう指摘されて、私はまたも好奇心だけでミスを犯す寸前だったことに気が付く。

 確かに、試してみたい気持ちはあるものの、不用意に行動を起こすことで、今まさに異界で頑張っている皆の足を引っ張るどころか、致命的な問題を引き起こしたかも知れないのだ。

 好奇心を抑えようと誓ってすぐに、それを守れないという自分の愚かさに、嫌悪感がもの凄い。

 それでもやらずに済んだのだからと、気持ちを無理矢理切り替えて、スマホ画面に視線を向けると、名簿の最後の名前に気が付いた。

「雪子学校長、最後に私たちの名前と、私の分身という表記がありますよ」

「ふむ……しかも名前の色が『神世界』の花子達と、我々では違うな」

 雪子学校長の指摘通り、こちらに残っている私達と分身、三人の名前の色は黒、『神世界』の花子さん達六人はグレーで名前が表記されている。

「名前の色が違うのは、私たちと花子さん達はカテゴリが違うって事の表れだと思うんですが……」

 私の言葉に雪子学校長は「カテゴリ?」と首を捻った。

「えーと、考えられるのは……居る世界が違うことを示しているとか、このアプリで視界を借りれる相手かどうかとか……」

 雪子学校長は、私の拙い説明に軽く頷いて「なるほど、我々と花子達の状況の違いで、線引きされてるということだな」と尋ねてくる。

「はい」

 私が頷いたところで、雪子学校長の視線は自然と『卯木凛花(分身)』に向かった。

「いいか?」

 そう尋ねてきた雪子学校長に無言で頷く。

「……名前をタップするとメニュー……選択肢が出てきたな」

「『接続するか』『キャンセル』の二択ですね」

 私が表示された選択肢を読み上げた直後、雪子学校長はすぐにキャンセルボタンを押してメニューを閉じた。

 更にそこから間を置かず、今度は自分の名前をタップする。

 分身の時と同様のメニューが現れ、雪子学校長はすぐにキャンセルで再びメニューを閉じた。

「この選択段階では違和感は無かった」

 そう報告する雪子学校長に「確認が必要とは言え、いきなり自分の名前を選択するのはどうかと思います」と苦言を呈する。

「すまんすまん。だが、これで一つ検証を終えられたと考えよう」

「……はい」

 確かに名前を選んだ直後にアプリが動き出さないこと、接続せずにキャンセルすれば、名簿に戻れることは確認出来た。

 アプリであれば当たり前の事かも知れないが、そもそもこの私の分身術の延長で出現させたスマホが、本当にスマホなのかもわからない現状で、一つ一つ検証していくのは正しいはずである。

 むしろ、キャンセルご自分の名前を選択した雪子学校長の行動の方が迂闊なのだ。

「雪子学校長は、皆の柱なんですから、検証は私が主体で行います」

 生意気なことを言っている自覚をしつつも、何かがあってからは遅いのだという思いを込めて雪子学校長を見る。

 すると、雪子学校長は少し考えた後で「好奇心を窘められるとは、立場が逆転してしまったな」と悪戯っぽく笑って見せた。


「それでは、試してみてくれ」

 スマホを手渡された私は、分身の名前の上に人差し指を置いて、雪子学校長に確認の視線を向けた。

 雪子学校長が頷いたのを確認し、私は分身を選択し接続を選ぶと、画面中央に横長の長方形が出現する。

 現れた長方形の中は黒一色で、スマホを盾持ちから横持ちに替えると、長方形は全画面表示に切り替わった。

 だが、それ以上の変化は無い。

「機能していない……というか、見せかけなのでしょうか、このアプリは……」

 私の呟きに対して、雪子学校長は少し間を開けてから私の名前を呼んだ。

「……卯木くん」

「はい?」

 首を傾げる私に対して、今にも噴き出しそうな顔で雪子学校長は「思うのだが」と口にする。

 なんだか馬鹿にされているような気がして少し不快感を感じながらも「はい」と頷いて、続きを求めた。

 すると、雪子学校長は咳払いをして分身を指さす。

「目を閉じているから、視界が黒一色と言うことでは無いかね?」

 その指摘に分身を見た私は思わず「あっ」と声を上げてしまった。

 直後に、体全身へと猛烈な勢いで熱が走り体が火照る。

 そんな私に対して、私の分身は涼しげな顔でベッドに横たわっていた。

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