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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第肆章 異界突入
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肆之弐 食堂で朝食を

 一旦花子さんの部屋に戻ると、既に彼女の姿は無かった。

『凛花さんへ

 おはようございます。

 朝食の準備をしていますので、着替え終わったら、凛花さんも食道にお越しください。

 花子』

 入り口すぐに置かれた書き置きに目を通した私は、雪子学校長から受け取った真新しい制服を手に、部屋へ上がる。

 ちなみに、昨日まで着ていた制服は、汗を掻いて汚れてしまったのもあるけど、分身の洋服の再現度を確認するために、雪子学校長が持って行ってしまった。

 なので、手元には新しい制服があるのだけど、着るには少しやることがある。

 スーツの後ろ、布同士の分かれ目などで、型崩れを防止するためなどに付けられた糸、いわゆるしつけ糸の取り外しだ。

 制服のスカートには、プリーツというひだヒダがあって、この型崩れを防止するために、白い糸が一周していて、これを外さないといけない。

 糸自体は太めで多少緩いので、はさみで切って引き抜いていけば良いのだけど、静電気で張り付いたりするので、意外と気が抜け無かった。

 もちろんはさみを使うので、スカート自体の生地を切らないように気をつけないといけない。

 制服自体、自分で買った物ならもう少し気楽に扱えるのだけど、自治体からの支給品だと言われているので、それが妙なプレッシャーになっていた。

 ともかく可能な限り慎重にスカートのしつけ糸にはさみを入れて、玉結びになっている端っこから、引っ張るようにして、糸を抜いていく。

 作業自体はそれほど時間が掛からなかったが、変に気を遣ったからか、少し疲れてしまった。

 ブレザーの方もしつけ糸が無いかを確認して、取り外した糸をごみ箱に入れてから、私は手早く制服に着替える。

 そうして、花子さんの部屋を後にして、食堂へと向かった。


 食堂に足を踏み入れると、最初に私に気付いた志緒さんが「あ、リンちゃん、おはよう」と声を掛けてくれた。

「志緒さん、おはよう」

 そう返した直後に、舞花さんがやってきて「リンちゃん、一緒に座ろう!」と手を取る。

 私は舞花さんの行動に笑みを浮かべつつ「いいですよ」と返してから、更に挨拶の言葉を掛けた。

「あと、おはよう、舞花さん」

 自分が挨拶を交わしていないことに気付いたのか、少し照れた様子で「あ、おはよう」と返事をくれる。

 思わず頭を撫でてしまいそうだったけど、未だ凛華としては会って間もないし、念のためやめておいた。

 舞花さんに連れられて空いてる席にやってくると、既に向かいの席では結花さんが焼いたトーストに、一回分のブルーベリージャムが入った容器からスプーンで掬ったジャムを塗っている。

 こちらに視線が向いたので、私は「結花さん、おはよう」と微笑みかけた。

 すると、結花さんは「パンはトースターで焼くと良いわ。ジャムが何種類か、バターもあそこに置いてあるわよ」と指さしながら簡潔に教えてくれる。

「あ、ありがとう、結花さん」

 率先して教えてくれたことにお礼を言うと、結花さんは自分の今し方ジャムを塗ったばかりのトーストに齧り付いた。

「新人さんに教えてあげるのは、先輩の役目だわ……あと、おはよう」

 結花さんの言葉になんだか嬉しくなってしまった私は、その言葉に乗ってみる。

「先輩が優しいと助かります。結花先輩」

 私の言葉に、結花さんは少し驚いた表情を見せてから「ま、まあ、先輩だしね」と視線を逸らしてしまった。

 そんな微笑ましいやりとりに、ほくほくしていると、舞花さんが私の手をひっぱっる。

「どうしました、舞花さん」

 少し不満げに、頬が膨らんでいる舞花さんの様子から、何を考えたのか想像した私は「えーと」と口にしつつ掛ける言葉を見繕った。

 方針が決まったところで、微笑みかけながら舞花さんに「それじゃあ、トースターの使い方を教えてくれますか、舞花()()」と声を掛ける。

 すると、効果てきめんだったようで、舞花さんは満面の笑みを浮かべつつ「リンちゃんの先輩として教えてあげるー」と返してくれた。

「はい、お願いします」


 朝の食事は基本的に洋食スタイルらしく、イメージ的にはビジネスホテルの朝食な感じだった。

 ただ、料理は作り置きというわけでは無く、花子さんが私たちの食べっぷりやリクエストなどを元に、料理を追加してくれる。

 パンだけでも、トーストにクロワッサン、バターロールと品数が多いし、ジャムやバターなどの品揃えも豊富だ。

 スクランブルエッグやウィンナー、サラダなどもきっちりと花子さんが過不足無く用意してくれる。

 飲み物も、水、お茶、ジュース、牛乳と品数が多かった。

 時に驚いたのが『牛乳』で、この山奥の学校まで近くの農家さんが朝採れを持ってきてくれるらしい。

 あと、調味料、ケチャップ、マヨネーズなどは、花子さんお手製だったりするので、食事の最中に興味が湧いた私は今度作り方を習うことにした。

 本棟は個人的に教えて貰おうと考えていたのだけど、他の子達も参加したいと言うことで、家庭科の調理実習としてやる方向で雪子学校長に花子さんが話を通してくれるらしい。

 ちなみに、和食が好きな東雲先輩は、ご飯と焼き海苔に佃煮海苔という海苔づくしの朝食を摂っていて、一人の空間を造り上げていた。

 自分以外女子という状況故に仕方ないのかも知れないけど、今度は私もご飯にして混ざろうかと思っている。

 そして、朝がとても弱い那美さんは、深く椅子に座っていて、誰かが口の前に食事を運ぶと目を閉じたまま食べるを繰り返していた。

 小動物を飼育している気分になるからか、志緒さんだけで無く、舞花さん、結花さん、花子さんと、皆で那美さんにご飯をあげる。

 もちろん好奇心に勝てなかった私も、ヨーグルトを掬って、那美さんに食べさせてしまったのだけど、気分を害していなければ良いなと思った。


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