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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第肆章 異界突入
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肆之壱 朝のお願い

「制服はそこの新しいモノを使ってくれたまえ」

 起き上がってすぐ寝ぼけた頭に、そんな雪子学校長からの指示が飛んできた。

 しっかり回っていない頭で、周囲に視線を巡らしてから、ここが雪子学校長の私室であることを思い出す。

 昨晩は分身の実験中に『同調』しすぎてしまって、問題を起こしてしまった。

 一応、花子さんの接触が切っ掛けだったので、距離を置こうと言うことになったのだけど、昨日の夜最後に一緒にお風呂に浸かった感じだと、関係性はおかしくなっていると思う……いや、思いたい。

 思考が自分の願望に流れてしまったところで、私は頭を振ってベッドから出ることにした。

 すると、ベッドの上でお尻を視点に体を回転させたところで、雪子学校長から声が掛かる。

「卯木くんは寝ている時に、あまり動かないのだね。ワンピース状の寝間着や浴衣を着ていると、裾が捲り上がってしまう者もいるが、君は平気そうで何よりだ」

「そう……ですか? 整えてくれていたのかと思っていました」

 私、というか京一の子供の頃は、良く母親に寝相が悪いと言われていたので、少し意外だった。

「花子は知らないが、私はそんなことはしないよ。もし君の寝相が悪くても、他の子供達と寝る時は気をつけたまえと忠告するくらいだよ」

 雪子学校長にそういわれて、私は「子供達……」と驚き交じりに繰り返す。

「君が個室に移れば、お誘いが掛かるだろうからね。寝相が良いのは悪いことじゃない」

「えっと、その、他の子の部屋に泊まりに行ったり招いたりしても良いのですか?」

「まあ、ここは外からは隔絶されているからね。互いに部屋を行き来したり、泊まりに行くことまでは禁じていないよ」

 雪子学校長の苦笑交じりの言葉に、私は子供達の置かれた状況の過酷さに、似たような表情を浮かべた。

 彼、彼女たちが、この学校で『神格姿』を得て戦うことになった背景は、未だ知らない。

 だが、世の災害を祓うために、危険に立ち向かっているのだ。

 にも関わらず、一般の小中学生と変わらない生活を、この山奥の学校でするのは難しい。

 ハメを外さない範囲であれば交流の一環として認めるのも頷けるところだ。

「まあ、一応君は大人だからね。体に引き摺られることもあるかも知れないが、ちゃんと面倒を見てあげたまえ」

 雪子学校長の言葉に私は「はい。お任せください!」と胸を叩いて答える。

 そんな私の返しに雪子学校長は少し間を開けてから「ところで、朝から頼みがあるんだが、構わないかな?」と切り出してきた。

「それは、もちろん、私に出来ることであれば……」

 雪子学校長は私の返しに頷き「花子の部屋に戻る前に、この部屋に分身を出現させてくれ」と言う。

 昨日、失敗したばかりなので、その要請にはすぐに判断を下せなかった。

 そんな私の戸惑いを見透かしているのであろう雪子学校長は「まず、同調しなければ大丈夫だ」と断言してくる。

「もちろん、君が好奇心を制御出来ればの話だがね」

「で、できます」

「では、頼むよ」

 完全に雪子学校長の手の平の上だが、そもそも昨日の実験も中途半端に終わってしまっているし、それを進めるために必要だからだとわかっているので、断るつもりはそもそも無かった。

「もう、始めて良いですか?」

 私がそう尋ねると、雪子学校長は「ああ。一応衣装は昨晩と同じく制服姿にして欲しい」と告げてきたので、頷きで応える。

 昨日の要領を思い出しつつ、目を閉じて意識を集中し始めたところで、雪子学校長の「先に言っておくが……」という声が耳に届いた。

 話が始まるなら、分身を出すのを言ったん止めた方が良いなと考えて、集中を切ってから雪子学校長に振り返る。

「なんですか?」

「服を脱がせてしまうことになるので、そこは了承して欲しい」

「なっ!?」

 思わず目を丸くしてしまった私に、雪子学校長は「再現度を確かめなければならないだろう」ともっともなことを言ってきた。

 確かに分身がどの程度私を再現出来ているのかは、知っておく必要がある。

 それに頼もしかった雪子学校長の昨日の振る舞いを思えば、任せられると思えた。

 というより、自分で自分の分身の服を脱がすことを想像すると、自分でやりたいとは思えない。

 少し申し訳ない気もするけど、やってくれるのなら雪子学校長に任せる方が良いような気もしてきた。

「……雪子学校長に、お任せするので、よろしくお願いします」

 いろいろと考えた結論として、任せきってしまおうと、私は雪子学校長に頭を下げる。

 対して雪子学校長は笑顔で「録画はしておくから、自分が……自分の分身が何をされたかは、後で確認出来るようにしておくので、楽しみにしてくれたまえ」と言い放った。

 余りに意地の悪い内容に、一度ジト目を向けたものの、その程度で雪子学校長の笑顔が引っ込むことは無く、結局ため息を漏らした私が折れる。

「では、行きます」

 私はそう宣言してから昨晩と同じように、分身を出現させるべく右手に意識を集中させた。

 体全体から右手の平に流れる熱を含んだ力の流れが、手の平の上で渦巻き、ゆっくりと人形(ひとがた)を作り始める。

 昨日の失敗を活かして、最初から制服姿をイメージすると、裸では無く最初から服を着た状態で『分身』は姿を現わした。

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