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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之肆拾壱 告白

「風邪を引かないようにさっさと湯に浸かりたまえ」

 ある程度体を拭き終えた雪子学校長にそういわれて、私も花子さんも床に座り込んだままだったことに今更気が付いた。

「あ、えーーと」

 私が上手く次を思考出来ずにいると、先に再起動した花子さんが立ち上がりつつこちらに手を伸ばしてくる。

 優しい手つきで私の体を支え立ち上がらせてくれた花子さんは「それじゃあ、先にお湯に浸かっていてください」と微笑んで背中を圧してきた。

 二歩程背中を圧されたところで、パタリと浴室の扉が閉まる。

 その場で後ろを振り返れば、脱衣所と浴室を隔てる曇りガラスの向こうで、花子さんが服を脱ぎ始めたのが見えた。

 なんだかそれを観察するのも悪い気がして、私は風呂桶をつかみ取ると、浴槽のお湯を掬って体に掛ける。

 もし髪の毛をタオルで結い上げていなかったら、頭の上からお湯を被ったかも知れないが、今更洗い直すのも気が乗らなかったので、肩から流すに留めた。


 私は脱衣場に背を向けるようにして浴槽に浸かり、体全体を包み込む温かさをを味わいながら私は体を伸ばした。

 体が子供に戻ったせいか、疲労感やだるさはあんまり感じなくなっていたが、それでも体を伸ばすと思わず「んーーーっ」と声が漏れてしまう。

 そんな風にくつろいでいると、ガラリと浴室の扉が開かれた。

「凛花さん、お邪魔します」

「は、はい」

 花子さんに返事をした私の声は妙に上擦っていて、その自分の声が妙に恥ずかしい。

 カコンと音を立てて置いた椅子に、花子さんが腰を下ろした。

 なんとなく気まずくて視線を逸らしてしまった私だが、花子さんはそれを気にした素振りも見せずに、シャワーからお湯を出し始める。

 手の平に当ててシャワーの温度確認をした後、花子さんはシャワーヘッドを壁の器具に掛けて、頭を洗い出した。

 そのタイミングで花子さんに視線を向ける。

 すると、私の振り返りに合わせるように花子さんが「凛花さん、申し訳ありませんでした」と謝罪の言葉を口にする。

 私としてはいきなり謝罪が来るとは思っていなかったので「なんのことですか?」と返してしまった。

 すると、花子さんは頭を洗う手を止めて、顔を上げてこちらに振り向く。

「私、燥いでしまって、凛花さんを危険な目に遭わせてしまいました。言い訳になるのはわかっていますけど、凛花さんを傷つけようと思っていたわけじゃないんです」

 今にも泣き出しそうな花子さんの顔を頭に降り注ぐシャワーのお湯が伝い落ちていた。

 もしかしたら、涙を隠しているのかも知れない。

 雪子学校長が距離を置いてくれたお陰で、私は大分冷静になれたと思うし、特訓場にいた時は、正直花子さんに苦手意識を感じていた。

 でも、今はといえば、苦手意識もないし、もし泣いているのなら泣き止んで欲しい。

 凛花の体になってから、いや、京一の頃から一番面倒を見てくれているのは花子さんだし、その関係が壊れてしまうのは、嫌だと思ってしまった。

 だから私は「花子さんの謝罪を受け入れます。そのかわり、今後は今回の件を気にしないでください」と伝える。

 直後、花子さんの表情が安堵で緩んだ。

 私はそんな花子さんの安心しきった顔を見続けるのが、恥ずかしくなってしまって、頭に浮かんだことを元に口を開く。

「そ、そもそも、花子さんの行動の切っ掛けが、私の能力かも知れないですし、そう考えると、花子さんを責めるのもおかしいというか、何というか……」

 段々と自分の声が小さくなっているのを自覚しながら、そこまで話したところで、花子さんから「凛花さんの能力ですか?」という声が挟まってきて、ドキリと心臓が高鳴った。

 雪子学校長から指摘された『誘惑』の能力が、私にあるのかどうかはまだわからないけど、もしあって花子さんがその影響を受けたのなら、彼女の方が被害者といえる。

 とてつもなく後ろめたい気持ちで、でも、隠しておくことも出来ないので、私は素直に雪子学校長に指摘された『誘惑』について、説明することにした。


 話自体はそれなりに長くなりそうなので、花子さんには先に体を洗って貰って、その間に私は話の内容を頭の中でまとめることにした。

 花子さんが私の横に入ったところで、頭の中でまとめた内容に従って話をしていく。

 自分自身ですら確信を得ていない話であること、花子さんにしても、子供達にしても、必要以上に好意的に接してくれていると感じていることを強めに説明した。

 それから、皆の行為の根っこが、私の魅力となると首を傾げざるを得ないが、神格姿を得て体得した『誘惑』の能力だというのならとても頷ける話であることも付け加える。

 私なりの主張を言い終えたところで花子さんは「なるほど、それでですか……」と呟いた。

 花子さんが口にした言葉から『誘惑』の影響を感じる節があったのだろうと感じ取った私の体は、硬直してしまう。

 そんな私に向かった花子さんは笑みを浮かべると「凛花さん」と私の名前を呼んだ。

「は、はい」

「今のお話を聞いても、凛花さんに対する思いは変わりません……いえ、自分に不利になる情報であっても、真面目に伝える真摯な態度は取っても素晴らしいなと思って、より好きになってしまいました」

 にこりと微笑みながら、きっぱりと言いきるものだから、私は何も考えられなくなってしまう。

 浴槽から飛び出て逃げ出す程の力は湧かず、ぶくぶくと息を吐き出しながらお湯の中に顔を隠すしか出来なかった。

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