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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之肆拾 消去

 雪子学校長は大人姿のままだったが、二人で入っても浴槽にはそれなりの余裕があった。

 子供姿の雪子学校長となら、もっと余裕はあると思うが、いざという時に私を支えるために大人の姿を保ってくれている。

 いざという時に助けて貰えるという実感がとても心強かった。

 目を閉じて、意識を集中する。

 実際に『分身』を消すのは初めての挑戦なので、どうすれば良いか、わかっているわけでは無かった。

「ともかく、やってみます」

 私の言葉に、雪子学校長は「気負うことは無い。現状分身が存在していることで、君に負荷が掛かっているわけではなさそうだからな」と言いながら、頭を撫でてくれる。

 子供扱いが恥ずかしい……けど、正直なところ、とても安心出来た。


 まずは分身を出した時の手順を思い出すことにした。

 出した時の流れを逆再生すれば、解除出来ると安直に考えたのだけど、思い返してみると出来そうに無い。

 右手に意識を集中したら、そこに力が流れ込んで『分身』が出現した。

 逆再生するとすると、もう一度手の上に『分身』を乗せることになる。

 イメージで分身の重さは変わるので、出来なくは無いだろうけど、まず問題点として、近くに分身は居ないのだ。

 所在確認のために意識を同調させることも考えたけど、直前暴走してしまったばかりで同調は危険だし、何より雪子学校長が許可してくれたのは『分身』を消すことでまででしかない。

 確信を持ってこれだと言える手段が思い付かなかったので、私はただ念じてみることに決めた。

 目を閉じて、深めの呼吸を繰り返す。

 そのうちに体に力が行き渡ったような感覚があったので、私は『分身』が消えるイメージを頭に描いた。

 私の形に合わせて、ぐるぐると巻かれていた紐が緩み、解れて、形を失っていく姿が脳裏に浮かぶ。

 それに合わせて、体の外側から、私の中へと力が流れ込んでくるような感覚が走った。

 やがて、その力の流れも緩やかに減っていき、私を象っていた紐が完全に消え去る。

 それが分身の解除を告げるものだったかはわからなかったが、体の方は一つの達成感と供に「ふぅ」と深い息が自然と零れ出た。


「上手くいったかね?」

 こちらに真剣な目を向けた雪子学校長が、そう問いかけてきた。

 私は素直に「出来たような気がします……断言出来るような確実なモノではないですが、そんな感覚がありました」と感じたままを伝える。

 すると、雪子学校長は表情を緩めて、フッと笑った。

 それから「なら結果はすぐにわかるだろう」と意味深な言葉を口にする。

 私は雪子学校長が何を言いたいのかわからず、首を傾げたのだけど、その直後、もの凄い音を立てて部屋の入り口の扉が開かれた。

「へっ!?」

 思わずお湯の中に鼻まで顔を付けてしまったところで、花子さんの声が響く。

「凛花さん、無事ですか!? 大丈夫ですか!? 何かありましたかっ!!!」

 声がとても急いていて、花子さんが凄く心配してくれているのが、その声だけで感じ取れた。

 だけど、驚いてしまった私は、心臓がバクバクしてしまって、返事がすぐに出来ない。

 そんな私に代わって、雪子学校長がゆっくりと花子さんに向かって声を張り上げた。

「今は浴室だ。卯木くんに変わりは無い!」

 直後、ドタトタと、床を書ける音が響いた後で、浴室の扉が勢いよく開け放たれる。

「凛花さん!」

 私の名前を呼びながら浴室を見渡した花子さんと視線が交わった。

 直後、へなへなと力が抜けてしまった花子さんは、両膝に手を置て体を支えると、大きく息を吐き出す。

 心から心配してくれたとわかる花子さんの姿に、私は申し訳なさと嬉しさを感じつつ、その名前を呼んだ。

「……花子さん」

 直後、浴室の入り口にもたれかかるようにして、花子さんはずるずると床に座り込む。

「は、花子さん!?」

 その姿に慌てた私は、浴槽を飛び出して、そのまま花子さんに駆け寄る。

 花子さんの肩に手を置いて揺すりながら「大丈夫ですか、花子さん?」と私は声を掛けた。

 私の声にゆっくりと顔を上げた花古参の顔は今にも泣き出しそうで、その表情を見ただけでキュッと心が締め付けられてしまう。

「……花子さん」

 私がその名前を呼ぶと花子さんは小さく頷いてから「安心しました」と大きな溜め息を零した。

「と、特訓場から運んでいた途中で、手の中から凛花さんの分身が消えてしまって……もしかして、何かあったのかと、私不安に思って……」

 花子さんの実感のこもった言葉に、私はただ分身を消すことだけしか考えていなかったと、自分の思慮の浅さを痛感して申し訳なくなる。

「花子さん、心配掛けてごめんなさい」

 申し訳ない気持ちで胸が一杯になった私は、花子さんにそう告げながら、ポタポタと体から落ちる水滴が立てる水音にようやく意識が向いた。

 慌てて湯船から跳びでしてきたせいで、私の腕を伝った水が花子さんの服を濡らしてしまっている。

「あ、は、花子さん、ごめんなさい! 服が濡れちゃってますね!」

 慌てて花子さんから手を退けるが、それ以上はどうしようもなく、私はその場でオロオロするしか無かった。

 そんな私を見た花子さんは目を瞬かせた後で吹き出す。

「……はぁ、良いですよ。私も一緒にお風呂入りますから」

「え?」

 私が声を上げると、湯船から雪子学校長が上がる音がした。

 振り返ると、そこには子供姿になった雪子学校長立っていて、私たちを見ながら「選手交代だな。花子の服は私が用意してやろう」と笑みを浮かべる。

 そのまま私の横をジャンプで通り抜けると、雪子学校長は手慣れた手つきでバスタオルで体を拭きだした。

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