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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之参拾漆 進化

「じゃあ、このスポイトで君の手に水を掛ける。君自身と分身、どちらの感覚か、判断してみてくれ」

 そう言って雪子学校長は大きめのスポイトを手に取った。

 私と分身の手は設置された洗面器の上にあって、掛けられた水は手を伝って洗面器に戻る。

 事前に花子さんが自分の手で試した感じでは、空の洗面器よりも水を張った今の状態の方が音が立たなかったらしいので、この形がベストだそうだ。

「えっと、それじゃあ、アイマスクしますね」

 大人用のそれなりに大きなアイマスクを付けると、視界が黒一色に塗りつぶされる。

 ピタリと顔にフィットしたアイマスクは、飛行機の機内などでも安眠出来るように、光の遮断には定評があるものらしく、まったく光を感じなかった。

「洗面器の上に誘導しますね」

 花子さんの声が聞こえた後、肘置きに置いた腕が調整され、手首が椅子の外に向かって垂れ下がる。

「よし、では準備が出来たら言ってくれ」

 雪子学校長の言葉に「はい」と答えてから、背もたれに体を預ける。

 軽く息を吐き出してから『分身』の感覚と『同調』することを脳裏で繰り返した。

 強く念じていたせいで経過した時間はわからないけど、ふと、体の感覚が二重になる。

 私は感覚を確かめるために軽く右足を持ち上げると、太ももに掛かったスカートの裾が肌の上を滑る感覚と、まったく動かずそこにある感覚が重なって感じられた。

 その事で同調の成功を確信した私は、なるべく感覚が重なるように右足を降ろして、微調整をした後で「同調しました」と雪子学校長に報告する。

「わかった。それでは始めよう」

「はい。おねえちゃん」

 雪子学校長の言葉に、花子さんが答えたのを聞いて、私は体に力が入りすぎて動かないように気をつけながら、意識だけを右手に集中させた。


 ポタポタと手の甲に水滴が落ちる感覚がし始めた。

 水滴は三滴だったので、すでに肌に水滴が落ちる感覚は無いが、代わりにじわりと広がる感覚がある。

 問題はこの感覚が、現時点では私自身が感じているのか、分身が感じているのか判断がつかないことだ。

 仮に手を動かして見て、水の広がりに変化が出たら私で、出なかったら分身という見分けは出来るだろう。

 実際スカートの感覚で違いがわかっているので、現時点ではその手法を試す意味が無かった。

 となると、別のアプローチで判別する手段を考える。

 分身の感覚に同調して読み取ろうと意識することで、同調のオンオフが出来ているので、瞬間的にオフにして、感覚が消えるか道かで判断は出来るはずだ。

 この方法なら体を動かす必要は無いし、意識の切り替えだけなので、どちらが感じ取れるかという実験には成功出来る。

 だが、感覚を同調するのには時間が掛った。

 解除自体はすぐに出来るかも知れないけど、再度繋ぐ必要がある時には、再接続の時間は単純にロスになる。

 同調した状態で、分身の感覚か、否かが認識出来れば、それが理想であるのは間違いなかった。

 となれば、私の目指すところは自然と決まる。

 分身の感じた感触かどうかわかるようになれと、私は頭の中で強く念じた。

 けど、これまでの術や分身作成の時とは違い手の甲に感じる水の感覚の感じ方に変化は起こらない。

 そこで私は、自分の念じ方が『分身の感じた感触とわかるように』だったことから、水を掛けられ他のが私自身では無いかと考えた。

「あの、私か分身、今水を掛けたのと違う相手の手に水を掛けて貰っても良いですか?」

「わかった」

 私の言葉に雪子学校長が答え、僅かな間を開けてから()()()()()水が掛けられる。

「こ、今度は最初に掛けた方の手に!」

 成功したという実感で気が急いて、少し噛み気味になってしまったが、それでも()()()()水が掛けられた。

「わかりました! 最初と最後が私、二回目が分身ですね!」

 少し気恥ずかしいが、自分でわかる程、私の声は明らかに弾んでいる。

 対して、雪子学校長が「正解だ。自信と分身の感覚の違いを認識出来る様だね」と評してくれた。

 そんな評価を嬉しく思い噛みしめていると、急に強烈な感覚が走る。

「はっへっ!? あっはっ、ちょっ!」

 分身の体がくすぐられているのがわかっているのに、私はくすぐったさで思考が出来なくなっていた。

 体をくすぐられてしまっているせいで、どうすれば良いのかが思い浮かばない。

 抵抗しようにも、私の体ではなく、分身の体なので、抵抗のしようが無いと諦めかけた瞬間、一つの考えが頭に閃いた。

『分身の体を動かして遅行すれば良い!』

 そう思った瞬間、私の考えに従うように分身の体が動く。

 視界に捉えた花子さんの手から逃れるようにその手を両手で押さえて、私の分身は椅子から立ち上がった。

 私の分身が驚いたことに驚いた様子で手を止めた花子さんが、ゆっくりと分身の私と目を合わせる。

「わ、私の想像通り、窮地に追い込まれたことで、分身を動かす技術も覚醒したようですね!」

 爽やかに微笑みを交えて放たれた花子さんの言葉に、私は分身の体を介して疑いの目を向けた。

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