終之拾弐 二年後
東雲先輩が緋馬織から転校していって、二回目の春がやってきた。
中学に進学することになった私は、真新しいセーラー服を着て入学式に向かうことになっている。
「リンちゃん、可愛いねぇ」
そう言ってさっきから私を撮影してくれているのは、私のお婆ちゃんだ。
月子先生……お母さんの娘になって二年の間に、私の寒極は大きく変わっている。
まず、卯木凛花は、緋馬織凛花となり、今は林田凛花になった。
簡単に言うと、もう一人の私である林田先生……林田京一と月子お母さんが結婚したのである。
結果、私にはお爺ちゃん、お婆ちゃんが、出来たのだけど……まあ、元の両親なので少し複雑だ。
正直なことを言えば、疎遠にならなかった事は嬉しいし、娘が欲しかったお婆ちゃん……元お母さんに、もの凄く可愛がって貰っている。
血が繋がってないはずなのに、自分たちによく似ていると、孫馬鹿を発症してしまった元両親には、真実は言えないので、なんとも言えない気持ちになるけど、正直、心地良いので、身勝手だなって思いながらも甘えてしまった。
ちなみに、月子お母さんと京一お父さんは、かなり、いや、相当仲が良い。
自分のことだったので自覚が無かったのだけど、私……というか、林田京一が教授にベタ惚れだったというのは、誰が見ても一目瞭然だったと、結婚式に来てくれた元のゼミ仲間からこっそり教えて貰った時には、恥ずかしさで死ぬかと思った。
そんなわけで、私は意外だったけど、セミ仲間の見解では時間の問題だったらしい。
東雲先輩とのことでも、同じような評価を那美ちゃんを筆頭に、皆から指摘されているので、恋愛に関しては全く客観視できていなかったみたいだ。
私の進学する中学校が、緋馬織の外になったのはいろいろと事情があるのだけど、その一つがこの二年の間で開発した白色簡易鳥居の実証実験だ。
那美ちゃんの暴走原因だった弓越の子達を助けるときに出現させた白い鳥居の簡易版で、遠隔地からでも神世界に繋がり活性化した黒境に繋がるように生み出した道具で、私が緋馬織にいなくても、作戦に参加できるかの実証実験を兼ねて、遠隔地……林田家で生活して確かめることになったのである。
ちなみに、京一として使っていた部屋に一年間お世話になることになっているのだけど、最早、当時の面影は無くなってしまっていた。
土壁に畳敷きの古い和室だった今日一の部屋は、フローリングに淡いクリーム色に可愛らしい模様の描かれた壁紙の洋室に変貌を遂げている。
家具類の変化も大きくて、押し入れは棚を外され、ウォークインクローゼットに生まれ変わり、布団の代わりに、白を基調とした可愛いベッドが、落書きと堀後が刻まれた机は、ベッドと同じく白を基調とした可愛い学習机に入れ替えられた。
やり過ぎじゃ無いかなと思ったのだけど、京一お父さんは気にしてないようだし、お爺ちゃん、お婆ちゃんもやりきった顔をしていたので、私は嬉しいと素直に受け入れて、大事に使わせて貰っている。
既に遊びに来ている舞花ちゃん初め、緋馬織メンバーにも好評でうらやましがられたのがくすぐったかった。
「凛花、そろそろ時間だから……そ、その、お義母さんも、そろそろいいでしょうか?」
月子お母さんの言葉に、カメラで連写していた元母が我に返って「そんな時間なのね!?」と驚く。
まだ月子お母さんとお婆ちゃんは少しぎこちないところがあるけど、でも、お互いに気を遣い合っているだけで、二人とも楽しそうに見えるので、きっと慣れの問題だ。
こっちで私が暮らすことで、月子お母さんも顔を出す機会が増えるから、自然と慣れて行くと思う。
そんなことを考えながら二人を見ていると、車を運転して元父がやってきた。
「リンちゃん、月子さん、すぐ乗りなさい。ワシが送っていくぞ!」
鼻息粗く宣言したお爺ちゃんに、京一お父さんが「父さん、僕もいるんですが」と苦笑する。
「お前は、走ってきても良いぞ!」
親指を立てて無茶を言うお爺ちゃんに、京一お父さんは「後部座席で、凛華と乗りますので」と笑顔で切り返した。
「馬鹿め、リンちゃんは助手席だ!」
そう切り替えしたお爺ちゃんと京一お父さんがにらみ合うが、月子お母さんが「あら、お義父さん。凛花は私と後ろに伸させて貰います。京一君は助手席にどうぞ」と言うなり私の手を引く。
私を先に乗せてから、バタンと扉を閉めた月子お母さんは容赦なく「京一君、置いていくよ」と言い放った。
「それも有りだな」
同意する悪ノリお爺ちゃんに、京一お父さんが「娘の晴れの日に三河内父親はいませんよ」といって助手席に乗り込む。
お留守番のお婆ちゃんに「写真よろしくね」と見送られ、私たちは入学式へ出発した。
入学式を、終え、初回の授業も無事終えた私は、剣道部の部室の前に立っていた。
意を決して扉を開く。
「失礼します。入部希望なんですけど!」
私の声に、少し驚いた表情で部室内にいた一人の男子生徒がこちらに振り返った。
彼は、苦笑を浮かべてから「こっちは男子剣道部だから、女子は隣の部屋だ」と教えてくれる。
私は首を左右に振って「いえ、私男子部のマネージャー志望なんで」と返した。
さらに「私がマネージャーしちゃ駄目ですか、部長さん」と上目で迂回で聞いてみる。
私が部長さんと呼んだ彼は少し困った顔を浮かべて考える素振りを見せた。
それから部長さんは真面目な顔で「個人的には嬉しいんだが……凛花を独り占めできないのが、ちょっと受け入れがたい」と言い切る。
思わず全身から彼我で層なほど恥ずかしくなった私は、歩み寄って部長さんの……久しぶりに触れる彼のお腹に拳を当ててぐりぐりとねじり込んだ。
「じゃあ、入部しません」
私がそう言うと、部長さんは「その方が安心だ。お前は可愛すぎる」と照れも無く言い放つ。
「ちょっと、なんか、手慣れてませんか!? 東雲先輩!!」
完全に弄ばれていることに腹が立った私は強めの口調で、不満を訴えた。
「手慣れてなんかいない」
そう言って首を振った東雲先輩は「ただいつも、凛花のことは考えてるから、こういうことを言ったらどう返そうかっていうシミュレーションは常にしている」とどこか誇らしげに言う。
私は「それ、聞きようによってはかなり気持ち悪いと思うんですけど?」とジト目で返した。
東雲先輩は気にした素振りも見せずに「凛花が、嫌じゃ無ければ、それでいい」と屈託無く笑う。
私は大きく溜め息を吐き出してから、肩を落として「嫌じゃ無いですけど……」と言うと東雲先輩は「良かった」と口にして一歩後ろに下がった。
何で距離を取ったのかと思っていると、東雲先輩は私の足下から頭へと視線を動かして「制服に合ってる。俺が今まで見た生徒の中で、凛花が抜群に可愛い」と照れも無く言い放つ。
「先輩も格好いいですよ、剣道着!」
半分自棄になりながらそう返すと、東雲先輩は意外にも動揺を見せた。
それから「あ、ありがとうな……その、凛花に、好きな人に褒められるってこんなに気持ちの良いことなんだな」としみじみというので、もの凄く恥ずかしくなってしまう。
そんな中、私もお礼を言っていないことを思い出して「私も嬉しいです! 東雲せんぱ……雅人君に褒めて貰えて」と返した。
それから、私たちは……。
放課後カミカクシ、最後までお付き合いくださってありがとうございました。
ここから先、いろいろ思い付くことはあるのですが、読者の皆様に委ねようかと思い、ここを区切りとさせていただきました。
長くも短い一時をお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。
読者の皆様がいてくださったお陰で完結まで辿り着けたと思っています。
では、また別の機会にお会いできれば幸いです。




