参之参拾陸 同調
「服を脱がすわけですから、映ってしまうのは仕方ないので、私たち以外が見ないようにカットするのが良いかと思います」
真面目な顔で言う花子さんに、私は曖昧に頷いた。
けど、私が確認したいのは『デリケートな部分』がどこで、花子さんがどこまで脱がすつもりかの方だけど、それは知りたいのに口に出せない。
頭の中では確認作業が必要で、やっておかなければならないとわかっているからこそなのだけど、一方でもの凄く恥ずかしいことをされる気がして全力で止めたいという気持ちもあった。
冷静に考えれば、既に一緒にお風呂にも入っているし、花子さんにはいろいろ見られている上に、今から検分されるのは私の分身であって、私ではない。
にも拘わらず、心臓は痛い程ドキドキするし、体はもの凄く熱くなっていた。
そんな訳のわからない心境の私の前で、花子さんが『分身』の膝に手を触れて、そのまま脚の上を足先へと滑らせる。
私が触られているわけではないのに、花子さんが辿ったのと同じ軌道で指が触れる感触が脚に走った。
慌てた私は頭の中で『アレは違う、私じゃ無い!』と言い聞かせると、脚に感じていた花子さんの指らしき感触は消え去る。
その感覚の変化に驚きつつ、自分の脚に視線向けた私の頭に一つの考えが浮かんだ。
私はその仮説を確認するために、目を閉じて意識を集中する。
思い描くのは『分身』の感じている『感触』だ。
すると、意識を集中させた直後、右足の靴下に指が入ってきて、履き口のゴムが引っ張られる感覚はする。
そのままゆっくりと靴下が下ろされていく感覚を感じながら目を開ければ、私が感じているのと同じ位置まで靴下を下げられている分身の姿が目に入った。
どうやら、意識を向けるだけで、私は分身の感じている感触を認識出来るのは間違いない。
これは応用出来る事が多いのでは無いかと、報告を兼ねて雪子学校長へ声を掛けようとした瞬間、私は「ひゃあっ」と声を上げてうずくまることになった。
「ど、どうしました、凛花さん!」
私の突然の声に、花子さんが心配そうな顔をして声を掛けてくれる。
心配してくれている以上、かなり恥ずかしいけど、理由を伝えないわけにもいかないので、目を閉じて理由を口にした。
「その、分身の感覚とリンク出来るかも知れないと思って意識を向けてたら……その脚をくすぐられた感覚がっはぅっ!」
話の途中で、さっき感じたのと同じくすぐったさと、体から力が抜ける感覚が全身に広がる。
「あー、なるほど、これは完全に同調してますね」
靴下を脱がされた分身の足首を持ち上げながら、花子さんが真面目な顔でそう呟いた。
直後、花子さんの口元に笑みが浮かんだので、危機を感じた私は即座に『分身』の『感覚』を切り離すことを意識する。
私の危機察知が正しかったように、視線の先には『分身』の足裏をくすぐる花子さんの姿があった。
本人では無いとは言え、姿形がそっくり私の『分身』をくすぐられていると思うと、なんだかくすぐったい感じはするが、直前の同調していた時と比べれば、錯覚レベルに過ぎない。
こうして難を逃れた私に、唇を尖らせた花子さんが「同調を切ってしまったんですね」と不満げに言ってきた。
「花子さん、これは実験なんですよ?」
なんだか違う目的に突っ走っていきそうな花子さんに、私はやんわり釘を刺す。
が、花子さんは私よりも上手だった。
「そうですね。実験ですから、他の部分の感覚も確かめましょう」
「へ?」
「首筋や脇の下、脇腹、どの程度感じ取れるのかを確認しておかないと……後は距離ですね。分身ちゃんが視界にいなくても感じられるのか、別の部屋にいたらどうか、調べることはたくさんですね」
「えっ!?」
花子さんがウキウキと言葉を重ねる度に、私は血の気が引いていくのを感じ、助けを求める為に雪子学校長に視線を向ける。
だが、雪子学校長は首を左右に振って「確かに調べておく必要はある」と口にした。
雪子学校長が、助け船を出してくれないことが確定した瞬間、私はその場に崩れ落ちる。
そんな私の頭に降ってきたのは楽しそうな花子さんの声だった。
「これはカメラがたくさん要りますね、ちょっと持ってきますから、待っていてくださいね!」
「着替えましたけど……」
花子さんの言葉に従って、私は自分がさっき持ってきた制服に身を包んだ。
これは花子さんから提案された新たな実験の下準備で、要は『分身』と同じ服装になる必要があるらしい。
「じゃあ次はここに座ってください」
そう言って花子さんは、マッサージチェアを指さした。
これは花子さんが持ってきたモノで、私の『分身』が既に座らされている。
「あの、花子さん、実験の内容を聞いても良いですか?」
実験の詳細の説明無く着替えて欲しいと言われて着替えただけなので、少し不安を感じつつ改めて内容を確認することにした。
「簡単に言うと、自分と分身、どちらの感覚か見分けがつくかの実験ですね」
そう言って二つの洗面器に花子さんは水を注ぐ。
注ぎ終えた花子さんは、私と分身の横に設置された小さなテーブルにそれぞれ洗面器を置いた。
「まず、目隠しをして貰って、私とお姉ちゃんで、凛花さんと分身ちゃんのどちらかの手に水を掛けます。その時の感覚で、凛花さんがどちらの手に水がかかったか認識出来るかの実験です」
「な、なるほど……それで、何故、制服を?」
「分身ちゃんを着替えさせるより、凛花さんに着替えて貰った方が楽だからですね」
答えになっていない花子さんの答えを前に、私は目を瞬かせる。
すると、花子さんは「着ている服を同じにして、条件を揃えることで、手の感覚以外の判断要素を減らすためですよ」と説明を足してくれた。




