表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
終章 進取果敢
807/814

終之伍 決着

 画面を覆い尽くした砂煙が薄れていくと、黒い人型が地面に突き刺さっている姿が映し出された。

 その足下、お椀状にえぐれた地面の周辺には何も無い。

 私の分身の残骸も、東雲先輩の姿も無かった。

 大丈夫だとは聞いていても、その姿を見るまでは安心できない。

 別のヴァイアの視線をザッピングのように切り替えていくと 奇妙なことに気が付いた。

「これ、場所を間違えた?」

 半信半疑……いや、二信八疑のような気分で口にした言葉には、自分でもわかるほど大きな戸惑いが滲んでいる。

 それも仕方が無かった。

 なぜなら、ドローンからだと思われるかなり上空からの映像には、転がったままの私の分身と、そこから距離を置いた場所にクレーターを作り出した黒い人型の姿が映し出されている。

 確かに私の分身に落下したと思ったのに、黒い人型がクレーターを作ったのは別の場所で、何が起こったのかが全く理解できなかった。

 そんな私に、月子先生が「蜃気楼というものをご存じかな?」と、なんだか勝ち誇ったような顔で声を掛けてくる。

「光の屈折現象ですよね?」

 そう返した私に頷いた月子先生は「舞花さん達の頑張りで空気がかなり冷えていたからね。結花さんと協力してね」と視線を動画の流れ続けているタブレットに誘導しながら言った。

「でも、そんな、簡単に蜃気楼なんて……」

 私の分身と黒い人型の着地の位置がずれたのは、人為的に作り出された蜃気楼によって目標値点を誤ったからだというのはなんとなくわからなくは無いけど、如何に結花ちゃんが穂イノオのエキスパートだからといって、一瞬で都合良く蜃気楼を生み出せるとは思えない。

 そんな私の疑問に、リンリン様が『そこで、こやつの出番というわけじゃ』と言う。

 意味もわからず目を瞬かせていると結花ちゃんと並び立つ月子先生の姿があった。

『蜃気楼の原理を応用して実像をブレさせたところに、精神操作の能力を重ねたのじゃ』

 リンリン様の説明を聞いて視線を月子先生に向けると「もちろん、私だけの力じゃ無いよ」と笑みを浮かべる。

「剣持さん、栗橋さん、それに舞花さん、結花さん。皆の協力があって、ようやく、できたことなんだよ」

 月子先生は更に「力を合わせれば意外とどうにかなるものだよ」と言い加えた。

 その言葉になんだか胸がジンと熱くなる。

 一方で、その輪の中に自分が入っていなかったことが少し……嫌、だいぶ悔しかった。

『主様』

 リンリン様の声がなんだか落ち込んで聞こえる。

 けど、その先をリンリン様が言う前に、私は視界が揺れるほど、月子先生に頭を撫でられた。

「皆がこうして協力できる状況に辿り着けたのは、君の頑張りが合ってこそだ。そんな拗ねた顔をするんじゃない」

 いつもとは違う少し荒っぽい言葉で月子先生にそう言われて、不本意ながら少し気持ちが明るくなる。

 あまりのタイミングの良さに、何か気持ちが明るくなるような暗示でも掛けたんじゃ無いかという疑心も沸いては来たけど、野暮だなと思って口に出すのは止めた。

 例えそうでも、私を励ましてくれたことには変わりないし、それが嬉しい。

 私はそう思って、心の中で、心配してくれたのであろうリンリン様にも感謝を伝えた。

『べ、別にわらわは、な、何もしておらぬのじゃ……』

 普段、済ましている事が多いリンリン様の動揺が、可愛いなと思ってしまう。

『よすのじゃ』

 少し声が低くなった気がしたので、嫌われたくないので、リンリン様のことを考えるのを止めた。

 すると、リンリン様が『それよりも主様、ついに決着の時じゃ』と強めの声で言う。

 視線を動画に戻すと、ダメージを受け無かったはずの私の分身がエネルギーの光に変わっていくところだった。

「え、なんで?」

 思わず声に出してしまった私に、月子先生が「大丈夫だ」と柔らかな口調で私の頭に手を置きながら声を掛けてくれる。

 次いで、リンリン様が『主様の分身をエネルギーに変えたのは、あの侍娘じゃ』と説明してくれた。

 頭の中で『侍娘って、東雲先輩ですよね!?』と考えると、リンリン様は即座に『うむ』と肯定する。

 術が解けてしまったわけでも無く、その上、東雲先輩がエネルギーに変換しているなら意識もある……つまり無事なのだと理解した私の中に、何が起こるのかワクワクした気持ちが湧いてきた。


 エネルギーの光へと変わった私の分身は、幾本の光の筋となって、その中心に現れた人物、東雲先輩の周りを円筒を形成するように回転し始めた。

 巫女装束の様な白い上衣と赤い袴姿の東雲先輩に光の筋の先端が触れる。

 直後、触れた部位に光が留まり、金色の武者鎧のパーツへと変わっていった。

 ややあって、全身を覆い尽くすように出現したパーツが実体化したことで、東雲先輩は鎧武者の姿となる。

 羽衣を纏った姿とは違う凜々しい姿に、観ているだけの私の心臓はもの凄くドキドキしていた。

 背中に背負った長い一刀を抜き放ち、グッと重心を落とした東雲先輩は、次の瞬間画面から姿を消す。

 直後、巨大な黒い人型の周囲に幾筋もの光の線が現れ、その線で切り分けられた黒い人型は、虚空に散っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ