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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第弐拾章 苛烈氷界
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弐拾之肆拾弐 焦燥

 空間に残った黒い人型のなごりである黒い塊を、ほんの数歩で迫った東雲先輩が真横に両断した。

 その瞬間、私は勝利を確信したのだけど、東雲先輩の手は止まらない。

 もの凄い速度で刀を振るい、黒い人型の名残は、時と共に細かな欠片へと切り刻まれていった。

 細切れにされるうちに、崩れ去って宙空に消えていく。

 その残骸の全てが宙に消えたところで、チンという高い音を立てて、東雲先輩が背中に背負った鞘に、振られ続けられていた一振りが納められた。

 五つの首から変わった人型と獣型を全て打ち倒せたことにホッとしながら、球状に私を覆っていた氷の障壁を解除する。

 が、その直後、目の前が赤一色に染まった。

「えっ!?」

 何が起こったかわからなかったけど、少なくとも歓迎すべき状況じゃ無いと思い、私は即座に氷の障壁を張り直す。

 その直後、身体を衝撃が襲った。

 出現させたばかりの氷の障壁に身体が押し付けられているのだと気付くとほぼ同時に、障壁の外が水で満ちている事に気付く。

 それを観た私の頭に蘇ったのは、大量の水が降り注いできた光景だった。

 思い返せば、洪水を引き起こした水の球の出現はリンリン様が教えてくれたものの、どの首が行使した術なのかを確認していない。

 もしかしたら六番目がいたかもしれないと気付いた。

 直後、そんな考察などどうでも良くなる光景が目に入る。

 障壁の向こう側、土を飲み込んだことで見通しが悪い水の中に、木の葉のように翻弄される東雲先輩の姿だった。


「東雲先輩っ!」

 思わず氷の障壁にへばりついた私は、なんとか助けなきゃとエネルギーを送り込もうとしたのに、まるで反応が無かった。

 もみくちゃにされている東雲先輩の姿に、身体から急激に血の気が引いてきて、障壁にもたれかかったまま、自分の腕で身体を支えることも出来ない。

 早くどうにかしなきゃという焦りで胸が一杯になってしまって、それをどうやって行動に繋げば良いのかが、さっぱりわからなくなってしまった。

 そんな私に鋭い声が降ってくる。

『主様、分身をエネルギーに戻して、侍を障壁で包み込むのじゃ!』

 示された自分の取るべき行動を、私は何の吟味も躊躇も無く実行に移した。


 石記を分身から解放して元の体に戻ると同時に、3Dモデルのよく見える視界を手に入れた。

 世界には第6の存在と思しき、個人と行って差し支えないサイズの黒い人型が存在している。

 洪水を巻き起こしたのが誰かは掌握したが、今はそれよりも東雲先輩を助ける時だ。

 巨大な人型に注意しつつ、私の分身を解いて生み出したエネルギーを、巨大な人影よりも先にマークしていた東雲先輩に纏わせる。

 全身を包み込むようにしてエネルギーを纏わせて、そこから風船に空気を送るようにして、エネルギーと東雲先輩の身体の間の空間を押し広げて球状の障壁を構築する。

 ほとんど初めて試すことだったけど、全てが思い通りに進んだ。

 球状の障壁の底部に寝転がる形になった東雲先輩は、濁流に揉まれていたせいで、パワーアップ状態も解除され、普段の格好に戻ってしまっていて、その身に纏う衣装はかなりの量の水を含んだ上に、かなりの箇所が破れ、ボロボロになってしまっている。

 それでも、東雲先輩の身体には、傷や青あざ、骨折といった見てわかるような傷は無かった。

 神格姿だから、そういった生身の肉体のように怪我としてダメージが現れないのかもしれない。

 身動き一つしない東雲先輩に不安を感じながらも、私は状況の変化に気が付いた。

 いつの間にか、障壁で防いでいる周囲の水に変化が生まれ始めている。

 大きな人型を中心に、周囲へと満たされていた水が大きく回転をし始め、その勢いが刻一刻と増していたのだ。

 何もしなければ、障壁を割られ、再び濁流の中に東雲先輩を攫われかねないという直感に従って、障壁の強度と厚みを増す。

 同時に、元凶を叩かねばいけないという思いで、対処法を考えた私は声を張った。

「何度もすみません、林田先生! 力を貸してください!!」

 私の言葉に、林田先生から「もちろんです!」と力強い声と共に肩に触れる感触が伝わってくる。

 直後、那美ちゃんの魔法を思い浮かべながら、東雲先輩を包み込む障壁をより大きく、より強くするイメージを思い描いた。

 背後で「ぐっ」と痛みを堪える林田先生の呻き声が聞こえてくる。

 思わず林田先生に「ごめんなさいっ」と謝罪の言葉を口にした私に「い、い……から、つ、続け……てくださいっ!」という強めの言葉が返ってきた。

 林田先生も心配ではあるものの、ここで立ち止まることも、後戻りすることも、状況を悪くすると自分に言い聞かせて、私は更に力を引きで出す。

 そのお陰で、必要なエネルギーを集め切った。

「がん、ばってくだ……さい……」

 掠れ声でそう口にした直後、林田先生の手が私の肩から離れる。

 力を振り絞ってくれた林田先生に、労いの言葉を掛ける間も惜しんで、私は黙ったまま、集めたエネルギーを変換して、東雲先輩を護りつつ戦えるイメージを具現化した。

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