弐拾之肆拾壱 発動
那美ちゃんの姿じゃ無くて、自分の姿で、東雲先輩の助けになりたいと思った。
すぐに、自分が何故そんなことを考えたのか、すぐに理由が思い付かない。
人の姿を借りるのは、良いことじゃない気がするし、エネルギーを渡した後も東雲先輩のサポートをしたいのだ。
なら、動き回ることもあるし、使うなら自分の身体の方が良いに決まっている。
そう考えて、私は、だから、自分の姿にと思ったのだと理解した。
自分自身、自分の考えがよくわからなかったけど、どうやら直感的に、自分に合った状態、今後の立ち回りに必要なものを欲していたらしい。
衣装が本来の那美ちゃんの神格姿とは違ったものの、魔法は使えた。
それなら、姿が本来の私になっても使える。
私はその確信を胸に、那美ちゃんから、私へと容姿を改めた。
全身を光が覆い、身体がほんの少し、ほんの少しだけ小さくなる。
ぶかぶかの服では脱げないまでも、はだけてしまって動きを阻害するかもしれないので、魔女服も自分サイズに改めた。
これまでの具現化が役に立っているのだろうけど、どれもこれもスムーズに進めることに成功する。
3Dモデルから自分の容姿を確認する魔法を発動して、那美ちゃんから、狐人間では無い黒髪の卯木凛花に容姿が改まったのを確認した私は、改めて土魔法の準備に入った。
私が魔法で攻撃するイメージを抱いたからか、これまで反応らしい反応は見せていなかった黒い人型に変化が出た。
これまでは腕の先を伸ばすように出現させた刀状の部位で東雲先輩と切り結んでいたのだけど、急にその切っ先を私に向ける。
直後、刀状の部位だけがこちらに向かって伸び……いや、飛んできた。
ともかく防がねばと思い氷の障壁を展開仕様とするも、それよりも先に東雲先輩の一振りが、飛来してきた刀状の部位を弾き飛ばしてくれる。
「凛花、大丈夫か!?」
短いけどはっきりと聞こえる東雲先輩の声に、何故か口元が緩んでしまった。
緩んでしまった口元に手を当てて、そんなことをしている場合じゃ無いと、気持ちを立て直した私は、返事をしなければと考えて「だいじょうぶれすっ」と上擦った声を出してしまう。
もの凄く恥ずかしくて、分身の身体の筈なのに彼我で層なほど頬が熱くなってしまった。
一方、東雲先輩は「俺の後ろから離れるな」と口にして黒い人型に切っ先を向けて、刀を構え直した。
耳に届く東雲先輩の声を聞くだけで、強く鼓動を刻む心臓に、分身の身体は内蔵まで再現しているんだなと、変なことに気が付く。
『主様、集中じゃ!』
突如として、頭の上からリンリン様の声と前足と思われる一撃が振ってきた。
感触も声も少し遠いことで、本体の方に声と前足が放たれたのだと理解すると共に、確かに余計なことを考えている場合じゃ無かったと、気持ちを引き締める。
まずは、東雲先輩に護られているだけで無く、足を引っ張らないように、背中に翼を生やした。
魔女なら魔法のホウキとかの方が良いかもしれないけど、一度具現化して空を飛んだ経験があるので、私には翼の方が向いている。
身体が浮くことで、機動力も反応速度も上がるし、結果的に東雲先輩に掛ける負担も減るはずだ。
そう考えて、私は未だ出来る事があるなと気付く。
常に氷の障壁を展開しておけば、緊急時にも、身を守れると考えて、追加で球状の障壁を私の分身の身体を包み込むように展開した。
出来るだけの防御力を振り込んで、東雲先輩の邪魔になら無い状態を確保した私は続けて、土の魔法を放つ。
「東雲先輩! 土の魔法を使ってみます!」
私の言葉に対して、東雲先輩は「何があっても、俺が活かしてみせる! 好きなようにやってみろ!」と返しつつ、前傾姿勢を取ると、いつでも飛び出せるように腰を落とした。
東雲先輩の言葉で、やる気がもの凄い勢いで溢れ出してくるのを実感した私は、絶対に役に立つという決心と共に、土の魔法を解き放つ。
気持ちが乗ったせいか、三つだけだった筈の土魔法の種として出現させたエネルギー球が、6、12、24と倍々に増えていき、100近くに増えたエネルギー球は半球状に黒い人型を囲むように展開した。
直後、一斉に黒い人型に向けて、エネルギー球から具現化した円錐状の岩が出現し、その身を貫かんと迫る。
既に刀状の部位を切り離しているからか、あるいは数が多すぎてなぎ払っても仕方が無いと判断したのか、黒い人型は膝を抱えるようにして小さく身体を丸めた。
黒い人型に向けてはなった土魔法は容赦なくその身体を穿っていく。
放った円錐状の岩が邪魔で、黒い人型の姿を直接見ることは出来ない……はずだったのだけど、何故か、私の頭には、円錐の突起部分が黒い人型を削っていくイメージが浮かんでいた。
確信があるわけじゃ無いけど、透明も看破できたこの世界に具現化させた『新たな目』が現状を伝えてくれているのだと思う。
放った土魔法が効果を失うと、出現していた百近い円錐状の岩全てが消え去って、その空間には野球のボールほどに小さくなってしまった黒い人型の残骸だけが残された。




