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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之参拾伍 分析開始

「それでは、次の実験に移りましょう」

 花子さんがそう言いながら、ガラガラとベッドを転がしてきた。

 なんとなく嫌な予感を覚えつつ、私は「ベッドをどうするんですか?」と花子さんに尋ねる。

「まずは、凛花さんの分身ちゃんを寝かせられるかの実験ですね」

 そう言われて思い出すのは、ベッドに寝転がる皆の姿だ。

 私の分身は未だ膝を抱えた姿勢で固まっていて、関節を動かせるのかもわからない。

 もしも、固まったまま動かせないのなら、横たわった状態で出現さセルコとも考えないといけないのかと思っているうちに、花子さんはベッドをセットして、その上に私の分身を座らせた。

 直後、くるりとこちらを見た花子さんは、満面の笑みを浮かべて質問をぶつけてくる。

「自分でやりますか? それとも、私に任せてくれますか?」

「えっ」

 その質問は予想していなかったわけでは無いのに、私は答えを返せなかった。

「恥ずかしいでしょうし、私に任せて貰って良いですよ?」

「えっあ……」

 花子さんの『恥ずかしい』という言葉に反応してしまったからだが急激に火照る。

「凛花さん、どうしますか?」

 ぐいっと顔を近づけてきた笑顔の花子さんに圧されて、私は一歩後ろに下がりつつ、どうにか「お願いしましゅ!」と返した。

 すると、花子さんは声を弾ませて「お任せくださいっ!」と口にすると、その場でくるりとベッドに向き直る。

「さて、始めます!」

 花子さんがそう宣言すると、雪子学校長が「録画はしているのか?」と質問を飛ばしてきた。

「もちろん録画中です。お姉ちゃん!」

 その発言に、私は慌てて「録画するんですか!?」と慌てる。

 が、返ってきた雪子学校長の言葉は田鹿にと納得せざるを得ないものだった。

「肉眼で見ていては気付かない部分を再確認するために録画は不可欠だ。例えば、肉眼で見ると人間に見えていても、機械……カメラには映らない可能性もあるからな」

「……な、なるほど……」

 私が自分を納得させる意味も込めて深く頷く。

 そんな私の目の前で、花子さんは膝を抱える私の分身の腕を解き始めた。


 腕を解かれ、膝を伸ばされた私の分身は、手足を伸ばした状態でベッドに横たわっていた。

「動かしてみた感覚では、普通に関節で動きますし、腕や足にもちゃんと弾力がありました」

 花子さんの報告に頷きながら、雪子学校長は「他には?」と更なる情報を求める。

「ちょっと、失礼します」

「へ?」

 急にこちらに振り向いた花子さんが、私の前でしゃがみ込むと、突然、太ももに触れてきた。

「へっ!?」

 驚きの声を上げてしまった私を完全スルーして立ち上がった花子さんは「肌の感触は実物と変わりません。体温は本物の凛花さんの方がやや低いですが……マネキンだと思って触れれば、肌は硬質、体温は無いと感じるかも知れません」と報告をあげる。

「この見た目だからな。作り物と思う者はいないだろう……この分身をベッドで寝かしておけば、本物を目にでもしない限り、偽物とも思われまい」

 真面目な会話を交わす二人に、放置された私は、なんとも言えない居心地の悪さを感じていた。

 ただの確認作業に過剰に反応してしまった自分が恥ずかしい。

 そんな私に、花子さんが「凛花さん良いですか?」と声を掛けてきた。

「は、はひ。なんですか?」

 声が上擦ってしまったことで、恥ずかしさが上乗せになったモノの、どうにか言い切る。

「お部屋に戻って、制服を持ってきて貰って良いですか?」

 花子さんの言葉が予想外だったことで、急に頭が冷えたのか、私は自分でも驚く程普通に返すことが出来た。

「え? 制服ですか?」

 対して花子さんは、軽く頷きながら「今から着ているモノが、どの程度再現されているのか確認したいので、実物を持ってきて欲しいんです」と理由を教えてくれる。

「なるほど、それじゃあ、早速、持ってきますね」

 私は花子さんに笑顔で応えると、すぐに自室に戻ろうと踵を返した。

 すると、花子さんが「あっ」と口にしたので、私は足を止めて振り返る。

「どうしました? 未だ何か、ありますか?」

「もし、下着とか着替えていて、未だ洗濯していないなら、それも持ってきて貰って良いですか?」

 花子さんの発言に、私は思考と動きを停止させた。


「持って……きました」

 籠に入った制服を花子さんに手渡すと、私が離れていた間に準備したのであろう机の上に、テキパキと並べ始めた。

「凛花さんは畳み方が綺麗ですね。皆にも教えて挙げてくださいね」

「は、はい」

 机の上に、ブレザー、ブラウス、スカートと籠に入れていたモノを並べた花子さんは「下着は替えてないんですか?」と尋ねてくる。

「皆でお風呂に入った時に替えたので……」

「じゃあ、今干していますね」

 私の返しに軽く頷くと、花子さんはベッドの分身の前へと移動した。

「あ、服を脱がしますけど、大丈夫ですか?」

 花子さんにそう尋ねられて、私は何故か声を出せず、こくこくと頷くことで答える。

「大丈夫ですよ、凛花さん。デリケートな部分が録画されてしまった場合、バッチリカットしますから」

「へ? デリケート!?」

 思わず聞き返してしまった私の声は高く裏返ってしまっていた。

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