弐拾之参拾肆 連携
炎の槍が当たった部分が次々と穴を穿ち、青い獣は時間経過と共に原型を失っていっていた。
思わず息を呑んだところで、結花ちゃんの声が響く。
『舞花、止め!』
『うん! 任せて、お姉ちゃん!』
結花ちゃんの呼応して空高く舞い上がった舞花ちゃんは、青い獣の真上から槍を抱え込むようにして急降下を開始した。
炎の槍によって身体のほとんどを削り取られた青い獣の中心に、ピンポイントで狙いを絞った舞花ちゃんの抱えた槍が突き刺さる。
直後、槍が突き刺さった場所から外側に青い獣が弾け、細々に分裂した。
脳内のイメージ越しとは言え、霧散していく種の姿を見て、私は思わず「やった……」と口にする。
それが聞こえたのであろう林田先生が「状況が好転したんですね?」と聞いてきた。
私は「はい」と答えてから、舞花ちゃんと結花ちゃんのコンビが分裂した『種』の一つを消し去ったことを伝える。
林田先生はモニターを確認して、ステラの視界に、白い槍を地面に突き刺した舞花ちゃんの姿を見つけたと報告してくれた。
『主様、双子ならば、透明のヤツも始末できるのでは無いか?』
リンリン様の言葉に、私は「そうですね」と同意した。
「でも、どう伝えましょう?」
私の言葉に林田先生が「二人に近いのは、ステラ君の視界ですよね? 伝えて貰ってはどうです?」とサラリと提案してくれる。
いつの間にか、私よりも状況に馴染んでいるような林田先生の発言に、少しもやっとしたが、今はそんなことを考えている状況じゃないので、リンリン様に「ステラに伝えて貰えるようにお願いできますか?」と聞いてみた。
『リンちゃん見えてるー?』
私はモニターで直接確認は出来ないけど、3Dモデルの立ち位置から判断するに、ステラに向かって舞花ちゃんが手を振っているようだ。
「舞花ちゃんが手を振ってくれてますね」
ウソにならないように気をつけながら、そう答えると、舞花ちゃんは『それじゃあ、お姉ちゃんとやっつけてくるね!』と口にしてくるりと踵を返す。
舞花ちゃんの振り向いた先に立っていた結花ちゃんは『透明のヤツは、金行の力を持ってるなら、ユイの出番ってワケね』と軽く笑みを浮かべた。
その結花ちゃんの手には、先ほど舞花ちゃんが振るった純白の槍と似た造形の炎の槍が握られている。
『マイ、あの氷の球、パカッと上下に分けて、あ、中のヤツは逃がしちゃ駄目ね』
サラリととんでもないことを言い放つ結花ちゃんに、舞花ちゃんが『お姉ちゃん、あれ、氷の玉だからね!? ガチャガチャの入れ物じゃ無いんだよ!?』と声を裏返らせた。
私もそんな無茶振りされたら取り乱すだろうから、舞花ちゃんの心情はなんとなくわかる。
流石にフォローしないとダメじゃないかと考えた時には、既に結花ちゃんの次の言葉は解き放たれてしまっていた。
『マイならできるって信じてる』
それだけ言って、結花ちゃんは手にした槍を身体を捻って故事に抱えるように腰を落として構えを取る。
舞花ちゃんが思わずと言った感じで『そんな言い方、ズルイよ!』と抗議の声を上げた。
逸れでも結花ちゃんは変わらない。
ただ黙したまま、自らが一撃を放つタイミングを待つ姿勢を崩さない上に、一言も発そうとはいなかった。
私も思わず舞花ちゃんに同情して、ズルイと思ってしまう。
一方、舞花ちゃんは『お姉ちゃんめ、お姉ちゃんめ、お姉ちゃんめ』と呪文のように繰り返した後で、大きく溜め息を吐き出した。
『リンちゃん、あの氷の球に力を使うけど、嫌な気配とか予感がしたら教えてね!』
大きな声でそう口にした舞花ちゃんに、私は慌てて「わ、わかりました!」と返す。
舞花ちゃんはバッと両手を広げた状態で、透明を封じ込めている氷の球の方に腕を伸ばした。
氷の球に舞花ちゃんが手を伸ばしてしばらく経つと、私の身体に痺れが走った。
身体が動かなくなるような強烈なものではない。
けど、私の中に誰か別の人が入ってきたというのが感じ取れた。
状況から考えて、氷の球に力を使うと宣言していた舞花ちゃんじゃないかと思う。
自分の意思とは違う意思が、エネルギーを動かす感覚がして、違和感がもの凄かった。
けど、言われたような『嫌さ』は無かったので、黙って身を任せる。
すると、舞花ちゃんが『お姉ちゃん、開けるよ!』と声を張り上げ、結花ちゃんが即座に『いつでも!』と返した。
直後、氷の球が中心でマップ立ちに割れ、それぞれが上下に僅かに動いた。
ほんの数センチ程度の隙間が氷の球に生じた瞬間、たった一歩で間合いをつめた結花ちゃんが、その横を擦り抜ける。
氷の球を抜けた向こうで、ピタリと動きを止めた結花ちゃんは、いつの間に振り抜いたのか、炎の槍をなぎ払い終えた姿勢を取っていた。
一方、ほんの少しの隙間しか無かった氷の球の中心、閉じ込めていた透明の人型が炎に包まれている。
その光景にぎょっとしていると、炎の槍が通り抜けたであろう隙間が閉じられ元の球体へ戻った。
舞花ちゃんは疲れの滲んだ『はぁ~』という長い溜め息を吐き出し、その場にしゃがみ込む。
『マイ、お疲れ:』
振り返りながら舞花ちゃんに声を掛けた結花ちゃんの視線の先、氷の球の中の炎は透明な人型を焼き尽くしたのか、スゥッと消えていった。




