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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第弐拾章 苛烈氷界
785/814

弐拾之弐拾伍 分裂

 志緒ちゃんの放ったハンマーの一撃は、氷で作られていたらしい障壁を立った一撃で細かな破片へと粉砕して見せた。

 思わず「すごい」と私が口にした瞬間には、状況はもう次のステップに移っている。

 ドローンが円形で捉える映像には、障壁が壊れたタイミングで結花ちゃんが放ったと思われる巨大な五つの炎の球と、東雲先輩が放ったと思われる地面に水平な軌道で弧を描く炎の斬撃が同時に、『種』が変化したと思われる五つの水球に向けて放たれたのが映し出されていた。

 直後、着弾した炎の球と弧を描く炎の斬撃が轟音と共に巨大な火柱を上げる。

 赤とオレンジの混じった猛烈な光が辺りに放たれた。

 目をくらませるほどの強烈な光の中で、志緒ちゃんの声が響く。

『散開っ!」

 それを聞いたのとほぼ同時に、全員がそれぞれ別方向に飛んでその場を離れた。

 直後、技を放った結花ちゃんと東雲先輩の立っていた地面が大きくへこむ。

 その瞬間には、何が起きたのかわからなかったが、お盆状にへこんだ地面の中心に現れた人影を見て、私は直感的にそれがやったのだと理解した。

 へこんだ地面の中心に立つ人影は、文字通り影が立体化したような紫の混じった黒い表皮で覆われたマネキンのような姿をしている。

 それが結花ちゃんと東雲先輩の立っていた場所に、一体ずつ、合計二体存在していた。

 ここからは推測だけど、アレは頭が変貌した何かでは無いかと思う。

 色が紫がかった黒なのも、水行の力が強かった『種』が変化したものだからに違いなかった。

 ここまで考えて、私の中に、頭は五つあったのに、現れた人型が二つなのは何故かという疑問が浮かぶ。

 単純に算数で考えれば残り三つ人型がいて当然なのにその姿が見えないのは、東雲先輩と結花ちゃんの攻撃で壊せたからだろうかと思いもしたが、現実はそこまで甘くなかった。

『あうっ!』

 苦痛の籠もった声が響いた直後、閃光と爆発が収まりかけていた結花ちゃんと東雲先輩の炎攻撃の着弾点付近から、ネコスーツ姿の志緒ちゃんが飛び出してくる。

 自分で飛んだわけではなく、吹き飛ばされたことがその『く』の字に曲がった姿から見て取れた。

 直後、空中で、忽然と現れた忍者姿の花ちゃんが、志緒ちゃんの身体を受け止める。

 助かったと思ったのも束の間、未だ晴れきっていない爆発の立てた土埃の中から電撃が空中で静止する形になってしまった志緒ちゃんと花ちゃんに迫った。

 目を覆いたかったけど、ちゃんと見なければいけないと自分の気持ちを奮い立たせて、電撃が二人に当たる瞬間を見る。

 だが、幸いにも、電撃は二人に着弾する直前に、空中に出現した氷の障壁によって阻まれた。

「舞花ちゃん!」

 二人を救ってくれただろう人物の名を呼んだ私の声はかなり弾んでいたと思う。

 けど、直後の衝撃的な光景に、その気持ちは一瞬で消え失せてしまった。

 志緒ちゃんと花ちゃんを護るために張られた氷の障壁が、新たに土煙の中から飛んできた人影の放ったハンマーで砕かれてしまったのである。

「そ、そんな……」

 一瞬で新たに現れた黒い人型の振るったハンマーが、私の作ったものだと感じ取った私は、あまりの絶望感に目の前が暗くなった。

 そんな私の肩に手を置いた林田先生が「あれは、僕達が出したヤツですよね?」と尋ねてくる。

「た、たぶん」

 どうにか声を絞り出して答えた私に、林田先生は「消せませんかね?」ととんでもないことを言い出した。

 けど、出来るかどうかを考えてみれば、私の中に出来るという確信が生まれる。

 その事実に動揺しかけたものの、出来るならやるしか無い状況で、私の行動は一つしか無かった。

「出来そうです。やってみます!」

 私はそう宣言してから手を組む。

 そのまま念じる前に、リンリン様に「もし、ハンマーを消えたら、私たちが消したことを伝えてください」と混乱が生じないように伝達をお願いした。

『うむ』

 リンリン様の了承の言葉を受けて目を閉じた私は、出現したハンマーが消えるように念じる。

 が、全く手応えが無かった。

「リンリン様、ハンマーに変化は?」

『変化無しじゃ』

 リンリン様の即答を聞いた私は、遠隔だから効果が無いのか、消えろと念じただけなのがダメなのか、考えてみる。

 ただ、遠隔でダメなら、そもそも対応のしようが無いので、イメージが足りなかったと仮定してアプローチを変えて挑むことにした。

 単純にハンマーそのものを消そうとした結果、反応が無かったのなら、他の具現化物のようにエネルギーに戻るようにすれば形を失うのでは無いかと思い付く。

 浮かんだのなら即実施とばかりに、私は頭の中で、まずはハンマーの全体像を思い浮かべた。

 直後、グッと身体全体に重さがのしかかるような感覚が走る。

「うっ……」

 思わず声を漏らすとすかさず、林田先生が私の身体を抱き留め支えてくれた。

「大丈夫ですか、卯木さん。僕の力が必要ならいつでも吸ってください!」

 真剣な口調でそう言ってくれた林田先生に「助かります」とだけ返して、意識を頭に浮かんだハンマーに集中させる。

 最初に試したときとは違う身体の反応が、一歩進めたと私に確信させてくれ、気持ちがもの凄く前向きになっていた。

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