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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第弐拾章 苛烈氷界
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弐拾之弐拾壱 立て直し

「月子先生、お願いします」

 地面に転がる、私と林田先生を見下ろしながら、月子先生は「まったく」と溜め息を吐きながらも、具現化したばかりの大幣を受け取ってくれた。

「使い方は?」

 大幣を手にした月子先生にそう問われて、私は「振れば良いと思います」と返す。

 更に「祝詞(のりと)は?」と聞かれて、固まってしまった。

 祝詞とは、神職が儀式などの際に、神様に奏上する言葉というか、文章のことで、仏教で言うところのお経のようなもので、儀式には欠かせないものだけど、私の頭からは完全に抜け落ちてしまっていた事に今更ながら気付く。

 私の表情や反応の薄さから、その事に気付いたらしい月子先生は「……私流にやってみるよ」と苦笑を浮かべて、大幣を両手でしっかりと手にして白い鳥居に向かって行った。


 林田先生に支えられ椅子に座ったところで、モニターには、崩れた那美ちゃんの球魂を手にした志緒ちゃんとその横に立つ大幣を手にした月子先生の姿が映し出されていた。

 二人の足下には那美ちゃんの身体が寝かされていて、花ちゃんが様子を見ている。

 状況を立て直している間も、種を放置できるわけではないので、既に東雲先輩、舞花ちゃん、結花ちゃんの三人は、白い鳥居の世界から封印されていた黒境の神世界に戻り、警戒を強めながらも、攻撃せずに様子を覗っている状態だ。

 雪子学校長は連れ出してきて、地面に寝かされている弓越の生徒達に付いて様子を見ている。

 シャッと大幣の紙垂が触れ合い音を立てた。

 柄の先端を握り、頭の上に大幣を掲げた月子先生がゆっくりと左右に振り始める。

『かけまくも~かしこき~ひめおりのひめ……』

 月子先生が祝詞だと思しき言葉を口にし始めると、大幣自体が光を薄らと纏い始めた。

 更に祝詞が進み、左右を行き来する大幣から、鱗粉のように細かな粒子がこぼれ落ちる。

 ふわふわと舞い落ちる光る粒子が、ゆっくりと宙を舞い、志緒ちゃんの手の中にある那美ちゃんの球魂に向かって翔んでいった。

 それを見て、私と林田先生で具現化した大幣が、効果を発揮してくれそうなことにホッとしてしまう。

 けど、未だ結果が出たわけじゃ無いと、頭を振って気持ちを引き締め直して祈った。


 手を組んで、ひたすらに那美ちゃんの回復を祈っていると、モニターから志緒ちゃんの『リンちゃん、そのまま祈ってて!』という声が聞こえてきた。

 私は志緒ちゃんの言葉に反応しかけたものの、続けてと言われたのに中断するわけには行かないと思い直して、瞼に力を込める。

「りん……」

 林田先生が何かを言いかけたけど、即座にリンリン様が『黙っておれ』とストップを掛けた。

 二人のやりとり自体はとても気になったけど、今は集中すべきと考えてリンリン様は止めたんだろうと考え、私は祈りに集中する。

 治れ、治れ、治れと頭の中で何度も念じた。


 祈り始めてどれくらい立ったか自分でもわからなくなった頃、頭になれた重みが掛かり『主様』と呼びかける声と共に、前足が振り下ろされた。

 それが状況が変わった……祈りを中断してもいい合図だと判断した私は目を開く。

 即座に気になっていた那美ちゃんの様子を見るために、モニターに視線を向けた。

 視線を向けたモニターの中では、月子先生が替わらず大幣を振り、祝詞を奏上している。

 こぼれ落ちた光は先ほどまで同様に宙を漂って、志緒ちゃんの手の中の那美ちゃんの球魂に纏わり付いていた。

 その那美ちゃんの球魂は、先ほどまでと違って、輝きと完全な球体の形を取り戻していた。

「り、リンリン様!」

 思わず声を上げた私に『うむ。恐らく、肉体に宿せば大丈夫なはずじゃ』とリンリン様は力強く答えてくれる。

 即座に、私は「志緒ちゃん!」と呼びかけていた。

 私の声Kが届いたからか、オリジン経由で既に伝わっていたのかはわからないけど、志緒ちゃんは静かに、ゆっくりと横たわる那美ちゃんの身体の胸元、心臓の位置で両手を左右に開いて球魂を着地させる。

 那美ちゃんの身体の上に着地した球魂は、そこから水中に沈むかのようにゆっくりと身体の中に沈み込んでいった。

 球魂が身体の中に完全に入り込み輝きが胸元から消え去る。

 そこから長く感じる数秒間を挟んで、寝ていた那美ちゃんが目を開いた。

『なっちゃん、わかる?』

 誰よりも早く、そばにいた志緒ちゃんが声を掛ける。

 だが、那美ちゃんからの反応はすぐに無かった。

 目を開けただけで意識が戻らないかもしれない……直前に見た沢山の機会の中でただ眠り続けていた弓越の子達の姿が頭に浮かんで、不安が時間経過と共に大きくなっていく。

 もっと間近で那美ちゃんの様子を見たいと思ったのが、リンリン様経由でオリジンに伝わったのか、那美ちゃんの顔がズームされた。

 すると、そのタイミングでゆっくりとだけど、瞳が動き出す。

 意識はあるのだとホッとしたところで、那美ちゃんの口が『みんなは? 弓越の子達は?』と掠れた声で質問を口にした。

 最初に心配して尋ねるのが、自分では無く、弓越の子達な事に、なんとなく大丈夫そうだと確信する。

 一方、那美ちゃんの様子を確認していた花ちゃんは『雪子姉さんが、様子を見ててくれています……無事、こちらの世界に連れ出せましたよ』と告げた。

 それを聞いて安堵の表情を見せる那美ちゃんの鼻を強く摘まんで『後でお説教ですからね。那美ちゃん』と花ちゃんは氷点下の気配を纏って宣言する。

『わ、わかったわ』

 震え声で那美ちゃんが同意した直後、花ちゃんはまるで別人のような明るい口調に変えて『しーちゃんは、皆のサポートに戻ってください』と志緒ちゃんに告げた。

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