弐拾之弐拾 出番
志緒ちゃんの手に乗せられた球体ですらなくなってしまったそれが、那美ちゃんの現状だとはどうしても信じることが出来なかった。
でも、私の役目は、いざという時に、皆を助けるものを生み出すことだし、そのためには怯えて目を逸らすわけにはいかないと気持ちを奮い立たせる。
そんな私に、林田先生が「大丈夫ですか?」と声を掛けてきた。
元々は私だったのだから、思考回路も似ていて、考えが予測出来ているのかもしれない。
それならば林田先生に対して、他の人たちのように、変に意地を張る必要は無いのだと思えた。
だから、自分に正直になれたのかもしれない。
「正直怖いです。目を逸らしたいです。でも、那美ちゃんは友達だから、助けたいです。そのために、出来る事を見つけたいです」
一度口を開くと次々と言葉があふれ出てきた。
好き勝手をして、無茶ばかりして、自分を省みない那美ちゃんが許せない。
一方で、皆を救いたくて、自分なりの精一杯を繰り返しただけなのもわかってしまうのがもどかしかった。
それと不謹慎かもしれないけど、わかってしまうこと……那美ちゃんの考えが共感できることが少しだけ嬉しい。
状況をまるで理解していないかのような自分の中の感情の起りを実感して、急にストンと気持ちが落ち着いてしまった。
「……卯木さん?」
私の様子が急に変わったことで、林田先生が心配そうな表情で声を掛けてくる。
林田先生を見返しながら「私、那美ちゃんを助けたいです」と気付けば口にしていた。
「そ、そうですね。そうしましょう」
動揺と共に、もの凄く気遣っているのがわかる林田先生の変なリアクションに、思わず噴き出してしまう。
それがより林田先生の困惑を強めてしまい、申し訳ないなと思ったけど、巻き込まれて貰うことにした。
「リンリン様、那美ちゃんを『魔除けの鈴』でパワーアップさせられないかな?」
思い付いたアイデアを即座にリンリン様にぶつけてみた。
椅子に座った私の膝の上に、頭の上から移動して、目を合わせたリンリン様は『言い難いが……』と返答を渋る。
「難しいって事だね」
私が踏み込んだことで、リンリン様は先を口にする気になってくれたようで『器が崩れてしまっているゆえ、如何に力を注ぎ込んでも……』と頷きながら先を口にしてくれた。
本当に言い難そうにしているのは、私の心情をおもんばかってくれているんだろう。
そう思うとき使いが嬉しくて、無意識にリンリン様の頭を撫でていた。
『ぬ、主様』
リンリン様に声を掛けられて、那美ちゃんを助けるために現実逃避をしている場合じゃ無いと私は我に返る。
ここで林田先生に「住まないが、少し説明をして貰って良いだろうか」と声を掛けられた。
私は自分の考えを整理する意味を含めて、皆をパワーアップさせる事が出来る『魔除けの鈴』を使えば、形を崩してしまった那美ちゃんの球魂を回復させられるんじゃ無いかと考えたものの、器そのものが壊れていて難しいとリンリン様が説明してくれたことを伝える。
加えて『魔除けの鈴』が、元々は『澱』っていう危ないものを遠ざけて皆を護るためのもので、その清める力が『神格姿』を強化したのは偶然の産物だったことも説明した。
林田先生は「なるほど」と顎に手を当てて頷くと、少し考えてから「改造できないかな、その鈴の効果」と言う。
「改造ですか?」
「その……那美さんの球魂? それが元に戻るような……」
林田先生の言葉を聞いた瞬間、私は直感で、自分の役目がそれなのだと思った。
早速、私よりも知識のあるリンリン様に「できるかな?」と聞いてみる。
リンリン様は『ふむ』と言ったん口にしてから『改造は止めた方が良いの』と続けた。
「……そう」
私が発した言葉には、自分でも驚くほどの落胆が滲んでしまっている。
リンリン様は頭の上でやっているように前足でポンポンと私の膝を叩いた。
『新たに生み出した方が良いと言うだけじゃ、主様』
「え?」
今度は間抜けな声が勝手に口から飛び出す。
『球魂を、器を癒やせる、修復できる道具じゃ……主様、思い描いてみるのじゃ』
私はリンリン様に言われるままに目を閉じた。
那美ちゃんを助けたいと思いながら、癒やすための道具を生み出したいと念じる。
すると、頭の中にどこからか、シャッシャッと何かの音が響きだした。
それが私の目指すものだと確信して、より強く具現化したいと願う。
音がより強くなり、私の心の中のイメージに、右に左に動く物体が浮かび始めた。
『これって……』
浮かび上がってきたものが何かを見定めようとしたところで、リンリン様が『大幣のようじゃな』と言う。
途端に、私の頭の中のイメージが一気に固まった。
「おおぬさというと、神社で宮司さんが使う道具の、あれかい?」
林田先生の問い掛けに「はい」と答える。
「私のイメージに浮かび上がったのは、長い棒に、紙で出来た沢山の紙垂がくくりつけられたもので、お祓いとかで見かけるものです」
私はそこまで言ってから視線を林田先生に向けた。
バッチリ視線が重なった林田先生が、戸惑うように瞬きをする。
そんな林田先生に「協力してくれますか?」と伝えると、直ぐに頷きで応えてくれた。




