弐拾之拾伍 突撃
誰も発言すること無く、しばらく時間が過ぎたところで、舞花ちゃんが『思ったんだけど』と口を開いた。
状況を打開する閃きかもしれないという期待から、全員の目が一斉に舞花ちゃんに向かう。
一方視線を向けられた舞花ちゃんは、まるでプレッシャーを感じていないような素振りで、平然と自分の考えを口にした。
『今の問題は、綾音ちゃんが『停止』を解除したときに、『遮断』残ってるせいで、舞花達が手助けできないって事だよね?』
すぐに、東雲先輩が『そうだな』と頷く。
『じゃあ、綾音ちゃんが『停止』を解除するタイミングに合わせて『遮断』を解除すればいいと思うんだ』
実にその通り名舞花ちゃんの意見だけど、それをするための前提が整っていないのが問題だった。
期待に届かなかった舞花ちゃんの考えに対して、那美ちゃんが『どうやってタイミングを合わせるの? 乙女ちゃんとは会話できてないのに』と強めの口調で返す。
けど、舞花ちゃんは棘のある那美ちゃんの言葉に、またも平然と『だから、遮断、壊しちゃうのはどうかな?』と言い出した。
川西さんと意思疎通が取れてしまったせいで、皆が皆、協力して貰うという前提で考えてしまっていたことに気付いて愕然とする中、舞花ちゃんは『多分だけど、リンちゃんなら、そういうの作れちゃうんじゃ無い?』とモニター越しに私に問い掛けてくる。
不意打ち気味に名前を呼ばれた私は、何も考える余裕もなかったのが幸いして、すぐに答えを頭に描くことが出来た。
「できそう……です」
そう口にした私の頭の中には、『遮断』の効果範囲の境界となっているドームをたたき割る大きなハンマーの姿が浮かんでいる。
林田先生と協力すれば、これを具現化出来るという確信を持って、私は背後を振り返った。
「な、なかなか、重量が……あったな……」
肩を上下させ、ぜいぜいと粗い呼吸をしながら、林田先生はそう感想を漏らした。
境界ドームを破壊するハンマーの具現化は想像以上に簡単に終わったのだけど、これがもの凄く重い上に大きな物体になってしまったのである。
恐らく、神格姿であれば、身体が強化されているので、軽々と運べたかもしれないけど、生身にはかなり無理があった。
パワーアップ状態になっている皆なら、現実世界にも神格姿で出てこれたのだけど、実体を維持するのにもの凄くエネルギーを消耗してしまう。
これまでの積み重ねでオリジンが、ハンマーの受け取りに誰かがこちらに戻ってくるのを推奨しなかったので、台車に乗せて白い鳥居を潜らせる事になった。
そこで林田先生が、男は自分だけだし、これまで活躍らしい活躍も出来ていないからと、名乗り出たのである。
一応、白い鳥居の前まで皆で運んだ後で、台車に乗せたので、一人で挑んだのは最後の一押しだけだったのだけど、かなり大変だったようだ。
それでも、宣言通り一人でやり遂げたことに、私は拍手を贈る。
白い鳥居の神世界で、志緒ちゃんが片手でハンマーを持ち上げて移動させたことは、気付いてないふりで、私は拍手を続けた。
タイミングを合わせて、ハンマーを打ち込む役目は那美ちゃんが務めることになった。
当初は東雲先輩が名乗り出ていたのだけど、川西さんとタイミングが合わせられるのは自分だという那美ちゃんの方がふさわしいと判断し譲る形になったのである。
もちろん、タイミングだけが理由では無く、遮断を破壊して『種』の動きを牽制する場合、舞花ちゃんと結花ちゃん、那美ちゃんでは物理的な攻撃力が乏しいのも大きかった。
ハンマーを振るった後に『種』に対処するのと、最初から『種』に集中しているのでは、明らかに後者の方が問題が起きにくい。
そう考えると、東雲先輩の手を空けておくのは重要と言えた。
魔女姿の那美ちゃんは、自らの身長ほど長い柄に、身体を丸めた姿よりも大きいであろう柱状の金属塊が取り付けられた巨大なハンマーを、軽々と振るって、構えを取った。
左手で握ったハンマーの柄を肩に乗せて、歌舞伎の見得のように、右手を前に出してバランスを取った那美ちゃんは、真剣な表情で目の前の『遮断』の境界であるドームを睨む。
『皆、綾音ちゃんのタイミングに合わせて、動くから、そのつもりでお願いっ!!』
那美ちゃんの声に、皆が口々に返事をしていった。
『舞花はいつでも大丈夫だよ!』
『那美のタイミングで、はじめて良いぞ!』
まずは舞花ちゃんと東雲先輩が返事をして、少し遅れて結花ちゃんが『準備完了しているわ』と言う。
最後に、志緒ちゃんが『オリジン、ドローン、ヴァイア、皆準備完了だよ!』と報告を上げた。
皆からの答えを聞いた那美ちゃんは大きく頷くと『綾音ちゃん!』と声を張る。
そこから数秒経ったところで、那美ちゃんが空高く飛び上がった。
背中に背負う格好になっていたハンマーの金属塊が、大きく弧を描いて、境界ドームの頂点へと向けて振り下ろされる。
ハンマーとドームが接触する寸前、停止が解除されたことを突如動き出した『種』が自らの動きで示した。




