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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第弐拾章 苛烈氷界
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弐拾之拾参 嘆息

 私が途中で止めてしまいそうになったものの、力の提供者である林田先生と、その力を支え、魔除けの鈴として行使ししてくれるリンリン様の言葉もあって、私は十分だと思うエネルギーを送り込むことが出来た。

 脳裏に流れる準備完了という文字列に、いち早くリンリン様と林田先生を負担から解放したくて叫ぶ。

「必要なエネルギーが溜まったみたいです! リンリン様、お願いします!!」

 私の思いが声より先に届いているのもあってか、リンリン様は即座に『任せておくのじゃ!!』と呼応してくれた。

 それを聞いて目を開いたわts医は、想像よりも大きくなっていた『魔除けの鈴』の為のエネルギーに目が点になる。

 同時に、それを支えてくれていたリンリン様にも、そのエネルギーを捻出してくれた林田先生にも、申し訳ない気持ちと感謝の気持ちが沸き起こった。

『主様、感謝だけで十分じゃ!』

 モニター越しにリンリン様の声が響く。

 更にリンリン様が『皆、魔除けの鈴を放つのじゃ、身構えるのじゃ!』と呼びかけると、東雲先輩を始め、封印された神世界にいる皆が、一層警戒度を上げた。

 直後、リンリン様の上にプールされていたエネルギーの塊が強烈な閃光を放ち始める。

 高く住んだ鈴の音が幾重にも重なるように響くと智雄に、閃光を受け止めたカメラ映像を映すモニターは白一色に塗りつぶされた。


 光の強さに目を閉じてしまった私の耳に、那美ちゃんの「みんなっ!」という歓喜の籠もった声が届いた。

 それだけで、皆の姿を取り戻せたんだと確信して、早くその姿を見たくて目を強く擦る。

 どうにか光の影響を拭い取れた私は、カメラの一つが捉える少女五人の姿を目にした。

「な、那美ちゃん、アレって!」

 興奮が隠せず、躓きながらも、どうにかそう口にすることに成功した私に振り返らず那美ちゃんは「ええ。ええ」と何度も同じ声を繰り返す。

 一オンの繰り返しだったその言葉は、でも、那美ちゃんの感情を強く含んでいて、喜びが目を見なくても、表情を窺わなくても伝わってくる声だった。

 弓越の皆を取り戻せたんだとわかり、心から良かったと胸を撫で下ろしたところで、大事なことを忘れていることに気付く。

「そ、そうだ、種、種は!?」

 弓越の皆が自らを犠牲にしてようやく動きを止めた『種』は脅威の存在であり、神世界の主である為、穢れと違い弱体化どころか、強化されてしまう可能性が言われていた。

 身体を弓越の皆が取り戻せたのは素直に嬉しいけど、『種』が強くなってしまっては、倒すのに皆に負担を強いることになってしまう。

 私の祈りが効果を発揮していれば良いと思いながら『種』を映し出しているモニターを探した。

 志緒ちゃんか、オリジンの指示でだと思うけど、上空から全体像を撮影しているモニター映像を見つけたところで『今のところ『種』に変化はなさそうね』という報告がされる。

 続けて志緒ちゃんは『弓越の皆も、神格姿を取り戻したけど、動けはしないみたい』と情報を追加してくれた。


「未だ、身体を取り戻せただけなのに……」

 那美ちゃんの呟きに対して、志緒ちゃんから『言い難いんだけど』という反応がされた。

 続く言葉がいい言葉では無いのが明らかなだけに「……教えて」と続く言葉を求める那美ちゃんの声は固い。

 志緒ちゃんは躊躇いからか、少し間を開けてから続きを口にした。

『弓越の子達、意識を取り戻せているかはわからない……その……姿だけかも、知れない……』

 口にされた内容に、志緒ちゃんが言うのを躊躇った理由がわかる。

 確かに那美ちゃんに伝えるのは酷かもしれないと思った。

 けど、当の本人である那美ちゃんは、後ろを振り返って、雪子学校長に「雪子先生、私に行かせてください。私なら、あの子達の心の声を聞けます!」と訴える。

 遅れて振り返った私が目にした雪子学校長は、真剣な目で那美ちゃんを見ていた。

 ややあって、那美ちゃんが「誓います……だから、お願いします」と口にして頭を下げる。

 端から見れば奇怪なやりとりだった。

 推測でしか無いけど、恐らく、雪子学校長が許可する条件を頭に浮かべて、それを読み取った那美ちゃんが受け入れた上でお願いしたんだと思う。

 雪子学校長が言葉にしなかったのは、内容を聞かせたくなった……際どい内容なのか、それとも残酷な交換条件なのかはわからないが、そこは間違いないはずだ。

 でも、那美ちゃんは躊躇いなく承諾できるぐらいに加工後が決まっているんだと思う。

 雪子学校長は大きく溜め息を吐き出してから、鋭い目を那美ちゃんに向けて「私の責任の下に許可する……くれぐれも自己犠牲に走らんでくれ給えよ」と告げた。

「はい」

 そう返事をした直後、那美ちゃんは支えを失った人形のように力を失ってその場で倒れる。

「あっ」

 声を上げるしか無かった私の目の前を、那美ちゃんの身体から離れた球魂が通り過ぎた。

 一方、球魂の抜けた身体は、咄嗟に手を出した林田先生が受け止めつつ、その場で尻餅をついて受け止める。

 林田先生にも那美ちゃんにも怪我がなさそうだったことにホッと息を漏らしたところで、雪子学校長が「早速自分の身体を蔑ろにするとは」と盛大に溜め息を吐き出した。

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