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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第弐拾章 苛烈氷界
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弐拾之拾弐 負荷

 林田先生が触れてくれたことで、エネルギー供給の役割が変わり、私の名カッからエネルギーが抜けていく感覚は止まった。

 その分は当然林田先生が背負っているので「林田先生、大丈夫ですか?」と問い掛ける。

「大丈夫だ、任せてくれ」

 力強い声で、すぐに答えが返ってきた。

 けど、尋常じゃ無い速度でエネルギーを吸われるのは肉体的負荷もあるだけど、自分から力が喪失していく恐怖もある。

 無尽蔵なエネルギー源を持っていても、喪失感はあるハズなので、大丈夫なわけが無いはずだ。

 それでも、林田先生の立場なら、私も大丈夫って言うだろうし、それを踏み越えて心配されるのは、やめて欲しいと思うだろう。

 今、するべきなのは、心配の言葉を重ねることじゃなく、負荷の掛かる時間をなるべく短縮することだと考えた私は、より強くリンリン様にエネルギーが流れるように念じた。


 目を閉じている私に代わって、那美ちゃん、志緒ちゃんの二人が現状を伝えてくれていた。

『順調にエネルギーを送れてると思うよ!』

「リンリン様の纏っているエネルギーの光が強く大きくなっているわね」

 二人の言葉を聞いて「わかりました、このまま続けます……林田先生引き続きお願いします」と方針を示す。

「……僕は大丈夫ですから続けてください」

 林田先生の声には疲労感が滲んでいるというか、張りが失われているように聞こえてきて、かなり無理をしているんだろうとわかってしまった。

 でも、私だったらそれを察してもやらせて貰った方が嬉しいし、ここまでやった分を損なうことを考えたら後戻りは出来ない。

 労いにはなら無いかもしれないけど、せめてという気持ちを込めて「林田先生、助かります、頑張ってください」と声を掛けた。

 少し間を開けてから「……ボクは君たちにとってただの担任にしか過ぎないけど、君たちの先生だ。皆が自分たちの全力を掛けて、違う学校の子達も含めて皆を救おうとしているのに、手を貸せて嬉しいんだ。だから君は君の役目に全力で挑んでほしい」ともの凄く穏やかで優しい声で言ってくれる。

 もの凄く心に響く言葉に、私の中で改めて頑張ってやり遂げるという気持ちが大きくなった。


『リンちゃん! リンリン様がっ!』

 志緒ちゃんの緊迫した声に、私の心臓が大きく跳ねた。

 何かが起きたこと、そしてそれが良いことで無いことはその声の響きで察せられる。

 私はエネルギーの送り込みを維持したままで、嘘偽り無く伝えてくれるであろう那美ちゃんに頼ることにした。

「那美ちゃん、現状を教えてください」

 私の言葉に、那美ちゃんは間を置かず「上から、何か重いものに押しつぶされるみたいになっているわ。足が開かれて、お腹が地面に月双になっている……ここからは推測だけど、送り込んだエネルギーが大きくて重いんだと思うわ」と抑揚の無い声で伝えてくれる。

 その言葉で、林田先生だけで無く、リンリン様にも負担を強いていることに気が付いた。

 けど、私が躊躇したその瞬間、リンリン様の『主様! 迷うでないっ!!』という叫びのごとき強い言葉が耳に届く。

「り、リンリン様?」

『見くびってくれるな、主様よ! わらわは主様や、主様の友のために身を報じる覚悟はとっくに出来ておる。この程度なんでも無いわっ!』

 リンリン様の声は力強い……だというのに、所々混じるノイズが無理をしているのを如実に物語っていた。

 林田先生に加えて、リンリン様にも負担を強いているのなら、ここは仕切り直しを選んだ方が良いのではと思ったとき、更なる言葉が飛んでくる。

『全く、主様お優しいのお! が、わらわは、この程度のことで果てたりはせぬ。涼しい顔でやり遂げて、主様の頭の上に座ってみせる。安心して、わらわを信じるのじゃ!』

「で、でも……」

 リンリン様の言葉にすぐに応じられない自分が情けなくて仕方なかった。

 でも、犠牲にして進むことを良しとできない自分がいて、その思いが私に非情な決断をさせてくれない。

 皆の望む方を選ぶことこそが求められているとわかっているのに、踏み込めないのだ。

 逡巡する私の背後から「卯木凛花さん」と林田先生が声を掛けてくる。

「は、はい?」

 穏やかな口調と口ぶりで「見失ってはいけません。今大事なのは、弓越小学校の子達を助けることでしょう? あのキツネ君も同じ思いで凛花さんに力を貸しているんです。きっと、彼も君の役に立ちたいし、皆を救いたいと思っている。自分が疲れても、それが出来るなら良いと思っている。優しい君には酷かもしれないけど、彼やボクのために、もう少し続けてほしい……大丈夫、いざとなったらボクはギブアップするので!」と言い切った。

 そんな林田先生の言葉に今度はリンリン様が『まあ、そこのヘッポコ教師の言うとおりじゃ』と同意する。

「へ、ヘッポコ?」

 戸惑いの籠もった声を上げる林田先生に、リンリン様から『何せ、わらわは彼では無いからの!』という背筋が凍てついてしまいそうな声が放たれた。

 状況を理解した林田先生は「失礼しました!」と即座に謝罪の言葉を口にする。

 対してリンリン様は『今は緊急時ゆえ、流してやるわ、ヘッポコ教師』と返し、一瞬で二人の上下関係が定まってしまった。

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