弐拾之拾壱 開始
那美ちゃんの言葉通り、少ない実験回数で、志緒ちゃんはリンリン様が魔除けの鈴を使うのに最適な場所を導き出してしまった。
さすがというべきなんだろうけど、オリジンと志緒ちゃんのコンビは、ここまで間違いもミスも出していないので、当たり前の事のように感じてしまう。
それでも、絶対にスゴいことなので、私はちゃんと伝えないとと思って「志緒ちゃん、本当にスゴイです!」と告げた。
対して、私の言葉は想像していなかったのか、志緒ちゃんは『えっ!?』と驚いた声を上げる。
何でも計算できるわけじゃ無いんだなって思ったのと同時に、不意打ちに驚いた様子の志緒ちゃんがなんだか可愛く思えてしまった。
『私はやれることをやっただけだから、す、スゴくなんか無いよ!?』
少し声がひっくり返っているのもなんだか好感が持てたけど、冷静に考えると、教師が生徒に持つには危ない感情かもしれないと、はたと気が付く。
すると、那美ちゃんが「アンタ」と口にしたので、視線を向けると心底呆れたと言わんばかりの顔が待ち受けていた。
やっぱり、教師として、危険な考えだったかなと思っていると、那美ちゃんは「アンタどう見ても生徒だから、友達を同性の友達が可愛いって思っても、普通は何の問題も無いから」と言い切られる。
確かに見た目はそうかもしれないけどと、私が反論する前に林田先生を指さして「あっちの姿なら問題かもしれないけど、今のアンタは……全く無害……でも無いわね、厄介ね、アンタ」と溜め息混じりに言われてしまった。
なんだか釈然としないけど、確かに直接言うわけでもなければ、厄介なことにならないはずだと思う。
そんな私の思考に、那美ちゃんは「今はそれで良いわ」と何度目かわからない溜め息を吐き出された。
「リンリン様、準備は良いですか?」
私の問い掛けに、既に志緒ちゃんの算出した魔除けの鈴の発動に最適とされた場所に陣取っているリンリン様から『うむ』という声が返ってきた。
ゲートの白い鳥居側に、志緒ちゃんとシャー君、ゲートを潜って封印された神世界に、舞花ちゃん、結花ちゃん、東雲先輩、ドローンの一号機と二号機、ステラに、きらりとぴかりがリンリン様を取り囲むように陣取りつつ周囲を警戒している。
後は私の祈りを込め、威力の増したリンリン様の『魔除けの鈴』を発動するだけだ。
「先生方も、初めて大丈夫ですか?」
振り返って、雪子学校長、花ちゃん、月子先生、そして林田先生をみる。
皆、視線が合うとゆっくりと黙ったまま頷いてくれた。
最後に、那美ちゃんを見る。
「那美ちゃん」
私が呼びかけると、那美ちゃんは軽く目を瞑って頭を下げた。
「アンタには迷惑を沢山掛けたし、どの口が言うの買って思うかもしれない……信じてくれるかはわからないけど、今回のやらかしの責任は、事が済めば必ずするつもり……だから、お願い、力を貸して……ください」
徐々にゆっくりとした言い方に変わっていったことに、那美ちゃんの複雑な思いが現れている気がして、聞いているだけで胸が一杯になってくる。
私の感情が爆発してしまわないうちに思ったままを声に出した。
「友達の友達を助けるのは当たり前だし、助けられるかもしれない人がいるなら全力を尽くすのは当たり前だよ。だから、そんな改まらないでくれると嬉しいかな」
私がそう伝えても、那美ちゃんは頭を下げたまま動かない。
「えっと……あんなアレな本性を見せた後で、殊勝な態度取られると、不気味だから止めて」
そう伝えたことでようやく顔を上げてくれた那美ちゃんは、何故か「うふふ」と笑った。
より一層怖くて、背中に寒いものが走り、ゾクリとしてからだが震える。
もうこれ以上触れるのは止めようと決めた私はモニターに向き直り、大きな声を張り上げた。
「皆、それじゃあ、力を送れるように祈ってみるから、何かあったら報告お願いします!」
私の言葉に封印された神世界に陣取る面々から、了承の声が返ってくる。
その後で、志緒ちゃんから『状況の変化が起こったら、報告上げるから、対応よろしく』との言葉が私を含めた全員に掛けられた。
対して異論は誰も無かったようで、再び了承の声が上がる。
それを確認した私は、深く呼吸をしてから「リンリン様、いきますよ!」と改めて声を張った。
リンリン様は『心得た』という返事と共に、魔除けの鈴発動の準備態勢に入る。
全身をエネルギーの輝きが包み込み、リンリン様はいつでも魔除けの鈴を放てる状態へと準備を調えた。
モニターを確認する限り、リンリン様の魔除けの鈴の準備状態に対して、封印されていた神世界に変化は生じていない。
状況確認を終えた私は、手を組んで目を閉じると、身体を失って締まっている弓越の皆に身体が戻るように、魔除けの鈴の効果が『種』に力を与えないようにと願いながら、リンリン様へ力が届くように念じ始めた。
すぐに全身から猛烈なエネルギーが出ていくのを感じ、その想定よりも早い現象ぶりに慌てて救援を呼ぶ。
「は、林田先生! さ、支えてください!!」
私の呼びかけに対して、間を置くことなく、両肩に大きな手が置かれた。




