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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之参拾弐 夜の特訓

 夕食を済ませ、皆が自室に戻った後、前日と同じスコート姿に着替えた私は、講堂下の訓練施設にいた。

 昨日は狐雨で中断していた特訓の続きを行うためである。

「さて、卯木くん。今日は映像学習から行くぞ」

 雪子学校長がそう宣言した直後、施設の照明が落とされ、プロジェクターの位置合わせに使われる十字と長方形が組み合わされた図形が、彼女の背後の壁に投影された。

 僅かに投影された映像に重なっていた雪子学校長が、外れるように横へ動く。

「良いぞ、花子」

「はい」

 雪子学校長と花子さんの掛け合いのあと、表示されたプロジェクターの映像が、数字の5に切り替わった。

「これは特殊な撮影機材を用いて撮影したものだ。ここから君は自分が何を習得すればいいのか、自分で考え、頭にイメージしてくれたまえ」

 その言葉を合図に、プロジェクター画像の数字が4、3と減っていき、どこかの部屋の映像に切り替わる。

 部屋を見下ろす角度だったので、すぐにわからなかったが、ベッドが並ぶ姿には既視感があった。

 直後画面全体にノイズが走り大きく歪んだところで、黒い鳥居が出現する。

「これ『黒境』の出現する部屋ですか?」

「そうだ。このまま子供達の突入を見て貰いたい」

 雪子学校長の言葉の直後、東雲先輩、志緒さん、結花さん、舞花さん、那美さんの順で部屋の中に生徒五人が姿を現わした。

 皆少し慌てた様子で、迷うこと無くベッドに飛び乗り、そのまま勢いよく横たわる。

 直後、皆の胸の辺りから光る球体が浮き上がってきた。

「これは?」

「一般に、霊魂やオーブ、ヒトダマ、世の中ではいろいろな名前で呼ばれている存在だが、あれは『神格姿』に変化する前の魂の状態だと思ってくれれば良い」

 並んだ言葉に、私は一瞬からだが硬直する。

 オカルトや都市伝説、会談などでよく耳にする単語ばかりだが、共通するのは死者や幽霊を連想させる言葉だ。

 改めて子供達が危険に直面していると感じて、どうしても、緊張してしまう。

「我々はこの状態の魂……『神格姿』となる前の姿を『球魂(きゅうこん)』と呼んでいる」

 画面に集中していたせいで、不意打ち気味に耳にした雪子学校長の言葉に、思わず彼女の方に振り返って「きゅうこん?」と声を上げてしまった。

 私の反応に、雪子学校長は苦笑してから「まあ、卯木くんも感じているだろうが、ダジャレのような呼称が多いだろ?」と言う。

「え、ええ、まあ」

 感じていない、思っていないというのウソになるので、どうしても反応が曖昧になってしまった。

 すると雪子学校長は苦笑を深めて「まあ、対策だよ」と口にする。

「対策?」

 私のオウム返しに頷きつつ、雪子学校長は「例えば、人の耳があるところで口にしても、学校で習うような言葉に近い響きにしておけば、疑問を抱かれる可能性は少ないだろう?」と尋ねてきた。

 カミカクシはともかく、ホウカゴ、コッキョウ、キュウコン……確かに授業でも同じ読みの単語を使うので、会話に紛れ込んでいたら、気を引くことは無いかも知れない。

 それを裏付けるように、雪子学校長が言葉を足した。

「『神格姿』は以前話した被害者の無事を願って名付けた背景があるが、他の用語には、周りの人間に聞かれても問題が起きにくいというカモフラージュの側面も強い」

「なるほど」

 私が神妙に頷くと、雪子学校長は「君は今度子供達と買い物に行くようだからね。気をつけたまえよ」と口にしてから視線をプロジェクターの映像に戻す。

 それに倣って私も視線を向けると、映像は一時停止されていた。

「花子、続きを」

「はい」

 私が目を動画に戻したところで雪子学校長が指示を出し、花子さんの判事と供に再生が始まる。

 映像の中では五人の『球魂』が『黒境』の中へを入り姿を消した。


「このように、子供達はベッドに寝た状態から『球魂』の姿となり『黒境』へと入り『神世界』へと赴く。この際、子供達の体はこうしてベッドに残ったままになる」

 雪子学校長は指し棒を手に、一時停止された動画に映るそれぞれを指し示していった。

 こちらに雪子学校長が視線を向けたので、私がここまでを理解したことを伝えるために頷く。

「さて、次に習得して貰うのは、この一連の流れを再現する能力だ」

 平然と放たれた雪子学校長の言葉だが、とてつもない難題を言いつけられた気がして「え、えーと」と曖昧な返事しか出来なかった。

 そんな私の様子に、雪子学校長は笑みを浮かべると、ピッと右手の人差し指を立てる。

「まず『球魂』を擬似的に作り出す」

 確かに、他の子から見られているので、同じような動きをしないといけないのは当然だ。

「次に、自分の体を消して『黒境』をくぐる」

 言いながら中指も立てた雪子学校長に、私は「姿を消すのは何故ですか?」と問う。

 すると、雪子学校長は「別に『球魂』に変化出来るならそれでも構わないぞ」と返してきた。

 一瞬戸惑ったが、要は自分なりのやり方で再現しろということだと察したので「な、なるほど」と頷く。

 雪子学校長は更に三本目となる薬指を立てながら「これが一番重要なのだが……」と溜めを作った。

 私はどんな発言が飛び出してくるのかと、身構えながら息を呑む。

「皆のように寝ている姿の分身を作る必要がある」

 分身に関しては、言われ続けていたので、ココで来たかという思いで、私は「ああ」と声を漏らした。

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