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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第弐拾章 苛烈氷界
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弐拾之漆 宣言

「そんなの、私だって、助けたい……何をしても『種』を倒す気持ちではあるけど……」

 那美ちゃんの言葉は、私の思うそれと一緒だった。

 宣言するのは簡単だし、私も皆と同じように倒してしまえるなら倒したいと思っている。

 けど、もし失敗してしまえば、世界に大きな災厄が訪れるし、何よりも失敗するということは、皆が傷ついて、下手をすれば命を落とすかもしれないのだ。

 例えそれが皆の実力を信じていないと思われても、とても勢いだけで同意は出来ない。

 そんなことを考えている私の耳に、舞花ちゃんの『勝てるから大丈夫!』という言葉が届いた。

 那美ちゃんとほぼ同じタイミングでモニターを見れば、中央で腰に手を当てた舞花ちゃんが『リンちゃんとなっちゃんは、優しいから、負けちゃったらどうしようって心配に思ってるんだろうけど、大丈夫です!』と改めて宣言する。

 表情や声には出さないけど、強く握られた那美ちゃんの拳が怒りを感じていることを匂わせていた。

 那美ちゃんは抑揚の無い声で「どうして、そう、おもうの?」と舞花ちゃんに問い掛ける。

『簡単だよ』

 事もなげにそう返した舞花ちゃんは『いま、弓越の皆は、あの『種』を足止めできているでしょ?』と言い放った。

 横にいる私には、その言葉に那美ちゃんの纏う空気に苛立ちが混じったのがわかる。

 それでも那美ちゃんは、先ほどと変わらない抑揚の無い声で「それで?」と先を促した。

『魔除けの鈴で種がパワーアップしても、弓越の皆もパワーアップするんだから、種だけが強くなり過ぎることは無いよね?』

 舞花ちゃんの問い掛けに、那美ちゃんは即答できず黙り込んでしまう。

 私は見かねて「月子先生」と話を振ってしまった。

 月子先生は「ふむ」と口にしてから「実際に試していないので推測でしか無いが、舞花さんの言うとおり、種だけが劇的に強化される可能性よりも、どちらも同程度強化される可能性の方が高いとは思う」と答えてくれる。

 そんな月子先生の推測の後に、結花ちゃんが『ちょっと、思うのだけど』と声を上げた。

 自然と皆の意識が結花ちゃんに向く。

『リンリン様の魔除けの鈴は、リンちゃんの影響を受けて力を増すなら、種に力を渡さないように祈りを込めたら調整できるんじゃ無いかしら』

 バッと勢いよくこちらを見た那美ちゃんに続いて、皆の視線が集まってきた。

「た、試してみないとわかりませんけど……や、やってみます」

 向けられた期待の大きさに耐えて、私はどうにか答える。

 私の答えが弱かったせいか、期待を裏切られたと思ったのか、那美ちゃんはジッと私を見たまま視線を外してくれなかった。

 困っていると、舞花ちゃんが『リンちゃん、大丈夫」だよ!』と助け船を出してくれる。

 一方、ゆらりと不穏な気配を纏いながら、那美ちゃんがモニターの方へと顔を向けた。

 ため込んだぶつけどころの無い那美ちゃんの怒りが、暴走しないかヒヤヒヤしながらも、舞花ちゃんの言葉を待つ。

『お姉ちゃんの作戦が成功したら、最高だけど、ダメでも、私たち六人が一緒になって、弓越の皆と十一人で戦えばあの種だって倒せるよ! どう考えても倍の人数になった舞花達の方が強いもん!』

 舞花ちゃんの断言に、最初に反応をしましたのは雪子学校長だった。

「確かに、舞花くんの言うとおりだ。単純な足し算で考えれば、負ける通りが無いな」

 明るい口調で言う雪子学校長は、私と那美ちゃんを順番に見る。

 その目からは、もう覚悟を決めるべきだと促している気配を感じた。

 那美ちゃんは盛大に肩を落とすように大きな溜め息を吐き出すと「ここまで来たら、失敗を考えるより、成功を当然だと信じてぶつかるしか無いってことね」と苦笑を浮かべる。

 その後で握った拳を私のお腹に当てながら、那美ちゃんは「アンタは特に環状の影響を受けるんだから、何も考えずに、成功を信じなさい」と言い出した。

「う、うん」

 戸惑いながら頷く私に、那美ちゃんは「気合が足りないわよ。気合が」と言いながらぐりぐりと拳をお腹に押し込むように動かす。

 那美ちゃんに気圧されて、私はぐりぐりされているお腹に力を込めて「頑張りますっ!」と声を張った。

 直後、ピタリと那美ちゃんの拳の動きが止まる。

 納得とはいかないまでも、気持ちに折り合いを付けてくれたのかなと、ほのかに期待しながら那美ちゃんの顔を見上げた。

 真剣な表情の那美ちゃんが真っ直ぐに私を見返してくる。

 予測していなかった表情に、私は戸惑いながらも「な、那美ちゃん?」と声を掛けてみた。

 那美ちゃんからはすぐに返事が来ず、しばらく見合った後で、深々と頭を下げられてしまう。

「え!? 那美ちゃん?」

 想像もしていなかった那美ちゃんの動きに頭の理解が追いつかなかった。

 そんな私の混乱も気にせずに、那美ちゃんは頭を下げたまま「アンタ……凛花なら出来ると思う……都合のいいことを言ってるのわかっている……けど、弓越の皆を助けるため、力を貸してくださいっ!」と言う。

 弓越の生徒達に対する熱に教師として共感し、皆の心配を真っ先に考える那美ちゃんの優しさを思い返した私の答えは一つだけだった。

「全力を掛けるよ。絶対成功させる!」

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