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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第弐拾章 苛烈氷界
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弐拾之参 カード

 那美ちゃんの話を聞いた私は、気付くと「世界を護ってくれたんですね」と呟いていた。

 私の言葉に那美ちゃんは悔恨と怒りの混じった複雑な表情を見せる。

 佇んだまましばらく固まっていた那美ちゃんは突然、強い口調で「そうよ! その通りよ! 自分たちを犠牲にしてあの子達はっ!」と叫ぶように、怒りを吐き出した。

 それでも、怒りを何かにぶつけることは無く、那美ちゃんは細かく手を震わせるだけで、怒りを自分の中に抑え込む。

 普段ならどうしたらいいか考えるタイプなのに、私は気付くとその震える拳を両手で包み込むように掴んでいた。

 キッと強い怒りの籠もった那美ちゃんの目が私を射貫く。

 私には不思議と、普段ならすくんでしまっただろう強い感情の籠もった那美ちゃんの目に怯むこと無く「時間は経ってしまいましたけど、今から皆で助けに行くんでしょう! 怒っていたら、冷静な判断が出来なくなって、失敗しちゃいますよ!」と口にしていた。

 自分でも自分の行動に驚いている内に、那美ちゃんは目を閉じて長い溜め息を吐き出す。

「正論ね……確かに怒ってても、プラスは無いわね」

 そこまで言うと、那美ちゃんは私の握っていた手を振り払った。

「な、那美ちゃん?」

 私からモニターに視線を戻した那美ちゃんはまるで言い捨てるように「皆を助ける目前で足踏みする必要は無いでしょ! ちゃんと働きなさいよ、凛花」と言う。

 名前を呼び捨てられたのが、なんだかもの凄く嬉しくて「うん、任せてよ、那美ちゃん!」と返した。

 けど、那美ちゃんは何が気に入らなかったのか、私の頭にチョップを放つ。

 その後で「そういうところよ! アンタの駄目なところは!」と言い放った。

 何が何だかわからない私は、鈍い痛みが残る頭を撫でながら、目をパチクリさせる。

 対して那美ちゃんは大きく溜め息を吐き出すと「もう、いいから、作戦に集中するわよ」と切り上げる旨を示された。


「私の知り得る限りの話だけど、乙女ちゃんの『遮断』で綾音ちゃんたちと種は周囲から遮断されている状態にあるわ」

 那美ちゃんの説明に、疑問を感じたのであろう志緒ちゃんが『遮断されているのに、雪が空中で止まっているのは……』と呟いた。

 そこから数秒考えてから志緒ちゃんは『遮断された空間から力の影響が漏れ出ている?』と閃きを口に出す。

 那美ちゃんは軽く頷きながら「漏れ出る影響を止める事が出来なかった結果、物理的に『黒境』を封鎖した……効果は未知数だったけど、幸か不幸か、未だ時間停止の影響は外の世界までは漏れていない」と、険しい表情で言い捨てた。

 そこで誰も発言しない時間が訪れる。

 ややあってから志緒ちゃんが『うん。なっちゃんの言う通りみたいだね……漏れ出る能力への対処が出来なかった結果、当面の手段として、特殊な道具を埋め込んだコンクリートで封鎖したみたい』と過去のデータを調査してくれたのであろう情報を伝えてくれた。

 ここで、月子先生が「『種』を討伐できなかった場合の対処方法として『種』と繋がる『黒境』から現実世界への影響を減らす堤防のような役目を担った道具はいくつか開発されている。特殊な道具とはその系統の道具だと思う』と情報を補足する。

 そして那美ちゃんが低い声で「そうよ」とポソリと呟いた。


「漏れ出る時間停止を止める方法が無かったこと、それから『種』が活動を停止していること、能力の漏れはあっても安定状態にあったことから、綾音ちゃんたちを見捨てる選択がされたのよ」

 先ほどのように拳を握りこみながら那美ちゃんが続けた言葉は、聞いてるだけ胸が痛くなった。

 国の直属の機関となれば、とてつもない力を持っている。

 それをもってしても、見捨てることが選ばれた。

 つまり、那美ちゃん一人がどんなに反対を表明しても、状況を変えられなかったのは想像に難くない。

 割り切るべきなのかもしれないけど、那美ちゃんはそれが出来なかった。

 私だって、同じ立場だったり割り切れないし、絶対に最後まであがくと思う。

 だからこそ、那美ちゃんが、私の能力に掛けて暴走してしまったことは仕方ないと思ってしまった。

 那美ちゃんはそんな私に振り返って「アンタ。この先も係わっていくなら、私に同調するような考え方は捨てないと……辛いわよ」と、真面目な顔で言う。

 私はその通りなんだろうなとぼんやり思ったのに、口から出てきたのはまるで違う言葉だった。

「全部ひっくるめて、解決できたら、那美ちゃんのような考え方を持っていても問題ないですよね?」

 那美ちゃんは目を丸くしてから、小さく溜め息を吐き出す。

 溜め息を吐き出した後で、目を細くした那美ちゃんは「それは、解決できなかった私への当てつけかしら?」と聞いてきた。

 そもそも意図して放った言葉じゃ無かったので、ちゃんとした考えがまとまっているわけでは無い。

 にも拘わらず私の口は勝手に動いた。

「その時の那美ちゃんはカードが足りなかっただけだと思うな。だけど、諦めなかったから、カードが揃った……那美ちゃんが諦めなかったから、全てを解決するためのカードを揃えられた……でしょ?」

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