弐拾之弐 推測
那美ちゃんのカメラ目線を合図に、モニターには三人目の少女が映し出された。
長い黒髪の少女で、眉に掛かるくらいの長さで髪が切りそろえられ、耳の前でも一段長くなったところで切りそろえられている。
「この子は小暮乙女ちゃん。綾音ちゃん、羽海ちゃんと同じ五年生で、能力は『遮断』よ」
那美ちゃんの説明が途切れたところで、すかさず東雲先輩が『遮断というのはどういう能力か教えて貰えるか?』と能力の説明を求めた。
「私も詳細を全て知っているわけじゃ無いけど……」
そう前置きをしてから那美ちゃんは「自分の意図した空間を世界から切り離せる能力ね。性格もあるのだろうけど、物体を切断する様な使い方は出来ないみたい」と語る。
『なるほど』
東雲先輩はそれだけで納得したみたいだけど、残念ながら私は余り上手くイメージできなかった。
那美ちゃんはそんな私に振り向いて、あからさまに呆れた表情を浮かべてから大きな溜め息を吐き出す。
完全に馬鹿にされているなとわかる動きだったけど、理解できていないのは事実なので、大人しく「説明してくれますか?」と言ってみた。
対して那美ちゃんは呆れ顔のまま「仕方ないわね」と溜め息を吐き出す。
「クッキー生地と抜き型を思い浮かべて」
いきなりクッキーを言われて戸惑ったモノの、言われるままに思い浮かべて「はい」と答えた。
「生地に抜き型を押し込むと生地が型の形に切り取れる……ここまでは想像できた?」
言われるままにクッキーの型抜きシーンを思い浮かべながら「え、あ、まあ」と返す。
「その抜き型が遮断の能力で、生地が例えば生物だったらどうなると思いますか?」
那美ちゃんの言うままに想像した私は、頭にグロテスクな想像を思い浮かべてしまった。
「うぇ……」
私が思わず声を漏らしたところで那美ちゃんは「正解です!」と明るい声で言い放つ。
「まあ、でも、そういった使い方が出来ないのよ、乙女ちゃんは……だから、遮断の能力は防御偏重ってことになるわけ」
私が自分の想像に気分を悪くしているのもお構いなしで、那美ちゃんは「まーちゃんが言ったような……アンタが想像したような使い方も出来るとは思うけどね?」と言い加えた。
「しーちゃん、残りの二人もお願い」
説明は終わったと判断した那美ちゃんは、志緒ちゃんに再開するように伝えた。
『はーい』
志緒ちゃんの返事の後すぐに、四人目の少女が大きく映し出される。
左右の耳の上で髪をそれぞれ結ぶ少女は、舞花ちゃん、結花ちゃんよりも幼く見えた。
「この子は木元伊織ちゃん、こう見えて六年生だからね」
年下だと思ってしまっていただけに、驚きで口から勝手に「えっ」という戸惑いの声が飛び出てしまう。
那美ちゃんは私の鼻を人差し指で押しながら「アンタの先輩だからね、先輩。敬いなさいよ」と小声で言ってきた。
そこから考えを巡らせた私は「元大人……ですか?」と声を潜めて確認する。
「違うわ。ただ、子供扱いされるのが嫌いだから、ナチュラルで失礼なことを言うノンデリカシーな凛花ちゃんは気をつけなさいってコトよ」
那美ちゃんの言葉は、相当辛辣だったモノの、強く否定できないというか、多少自覚のある部分もあって言い返すことが出来なかった。
悔しく思いながらも「気をつけます」と返すと、那美ちゃんはさっさと紹介に戻る。
「伊織ちゃんの能力は『増殖』……言葉通りあらゆるモノを増殖させて増やしていたわ」
那美ちゃんがそう言い結ぶと、モニターには最後の一人、五人目の少女が表示された。
モニターに最後に映し出された少女は、頭の後ろで長い髪をきっちりとポニーテールに結んでいる。
表情だけで真面目さと、歴戦の戦士の風格が感じ取れた。
「最後は、剣持恵那ちゃん。六年生で、家が居合と古武術の道場をしていたこともあって、弓越チームではまーちゃんに近いポジションだったわ」
那美ちゃんの説明を耳にした東雲先輩が『なるほど』と口にして、目を細める。
武人気質なところがある東雲先輩は、手合わせをしたいとか考えていそうだ。
そんなことを思っていると、那美ちゃんが発した「恵那ちゃんの能力だけど……」という言葉で能力の説明がされていなかった事に気付く。
自分でもマヌケだなと思っていたら、那美ちゃんが私へ視線を向けた上で、わかりやすく溜め息をついてきた。
納得はいかないものの、溜め息をつけれても仕方が無いと呆れられたのを受け入れると、那美ちゃんは続きを話し出す。
「能力は『混合』混ぜ合わせる力よ」
五人の能力を知った私は、自分なりに推測を立てた。
「えっと……違うかもですけど……その剣持さんの混ぜ合わせる力で……えっと、川西さんの『停止』と栗橋さんの『継続』をくっ付けて、『種』に使った……ですか?」
正直、後の二人の能力がどう絡むか想像が付かない。
ここが私の推理の限界だった。
そんな私の思考をしっかりと読み取っているのであろう那美ちゃんは「押しとどめるために、遮断で周囲から『種』のいる空間を分離させたところに、リンちゃんの想像したとおりの組み合わせで停止を掛けたんだと思うわ……そして、それをするのに不足したエネルギーを、エネルギーそのものを増殖させて補った……と私は考えたわ」と言う。
そして、那美ちゃんは「……そんな作戦を立てたのは、倒せないと判断したから……自分たちで災厄を止めようとしたからだと思うわ」と口にして視線を足下に落とした。




