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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾玖章 救出作戦
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拾玖之参拾捌 強化

 空へと右手の平を向けた結花ちゃんは、能力の発動準備に入った。

 それを示すのは、舞花ちゃんの時のように輝きを増す周囲の赤い光の球である。

 光の球が強い赤を放った直後掌の上にチロリと小さな火が出現した。

 そこから秒にも満たない周期で、火から炎へとその大きさが増していく。

 ゴウゴウと音を立てながら玖を構成し名が渦巻く炎の球はその熱ゆえか周囲に風を起こし始めた。

『これは予想外ね』

 結花ちゃんが冷静にそう呟いた後、パチンと指を鳴らす。

 直後、結花ちゃんの真上でゴウゴウと音を立てながら渦巻いていた炎の球が瞬時に消え去った。

『制御の方は問題ないわ』

 言葉通り自在に扱えているのは間違いなさそうで、私は思わずモニター越しだというのに結花ちゃんに拍手する。

 横の那美ちゃんから「アンタ……」と呆れた声が聞こえてきたけど、聞こえないふりでスルーした。


 志緒ちゃん、舞花ちゃん、結花ちゃんと更に強化されたパワーアップの確認を終えたところで、東雲先輩が『試させてほしい』と名乗り出た。

 当然反対知る人は出ず、東雲先輩は更に皆と距離を取ったところで、左の腰に下げられた二振りの刀の内、上側の刀の柄を握る。

 そこから目で見えない程の速度で振り抜くと、刀の軌跡に沿って紫がかった光が散り、霧のような細かな水滴が宙を舞った。

 東雲先輩は長く息を吐き出すと、直後、縦横斜めと様々な角度で刀を振るい始める。

 振りの速度が速すぎて目では追えないけど、霧と細かな光が軌跡に残るので、どうにかその動きを掴むことが出来た。


 しばらく一人で刀を振るっていた東雲先輩が『結花』と声を掛けた。

 結花ちゃんが自分の方へ体ごと向き直ったのを確認した上で、東雲先輩は『頼めるか?』と尋ねる。

『もちろん』

 結花ちゃんは言うなり掌を東雲先輩に向けたと思った直後、再程上向きに出現していた巨大な火球を掌の先に出現させた。

「ふぇっ!?」

 思わず驚きが系に出てしまった私と違って、周りの先生組と那美ちゃんは黙したまま動揺すら見せていない。

 その事が猛烈に恥ずかしかったけど、直後にモニターの中で巨大な火球が縦に真っ二つに斬り裂かれたことで、意識が全部そちらに向いてしまった。

 まるで映画のような刀を振り抜き、片膝を落とした踏み込みの姿で動きを止めた東雲先輩の後ろで二つに両断された火球が霧散していく。

 思わず拍手をしてしまった私は、那美ちゃんに「楽しそうね」と呆れたように言われてしまった。

 一方モニターの向こうでは、舞花ちゃんが『次、舞花が行くよ、まーちゃん!』と手を挙げて宣言する。

 それに東雲先輩が答えるよりも先に、舞花ちゃんは結花ちゃんの出現させた火球と同サイズの水球を出現させた。

 容赦なく放たれた水球に対して、東雲先輩は正面を向いた上で、刀を正眼に構える。

 そのまま火球の時のように、水球を両断するのだろうかと思っていたら、なんと刀が接触した瞬間、水球はピッタリと動きを止めた。

 私はそれだけで驚いてしまったのだけど、変化はその後すぐにお始まる。

 刀に振れて動きを止めた水球が、球の状態から宙を流れる川のような無数の帯状に分かれ、八方に散った。

 だが、僅かに離れたところでそれぞれの川の先端が180度方向を変えて、東雲先輩の刀を包み込むようにして再度合流していく。

 ややあって刀に集まった水球は再び球体を構成して、東雲先輩の刀は柄に水の球体がくっついたシュールな見た目になってしまった。

 しかし、刀の変化はそれで終わりでは無く、水の球は突然収縮を始める。

 やがて水球から刀身が顔を出すが、その刀身の色は鈍い銀色から黒みがかった紫へと変貌を遂げていた。


『さすが水の刀だね!』

 驚き半分、楽しさ半分といった様子で、舞花ちゃんは手を叩いた。

 柄から切っ先へと刀身を確かめるように表裏と忙しなく持ち替えながら東雲先輩は『五行の相性が良いと刀自体が更に強化されるみたいだ』と呟く。

 そこへ結花ちゃんが『当然、試すのよね?』と言いつつ、改めて火球を出現させた。

 東雲先輩はほんの一瞬だけ苦笑を浮かべてから『もちろんだ!』と頷いた。

 紫の光を帯びた刀を鞘へと戻し、新たに右の腰に差した二振りの内の一投の柄に手を掛ける。

 抜く刀の位置に合わせて器用に利き手利き腕を変えているのか、東雲先輩は先ほどと鏡映しになるように、前に出す足を右足から左足へ、唾そばを握る手を右手から左手に変えた。

 そのまま、全く淀みの無いスムーズな動きで一振りの刀を抜く。

 結花ちゃんはそれを合図に、東雲先輩に向けて火球を放った。

 取り決めの話し合いどころか、合図も無しに結花ちゃんが火球を放ったことに、大丈夫かと不安で私の胸はいっぱいになる。

 けど、それが杞憂に過ぎなかったことは、抜き身となった刀の刀身に勢いを増しながら迫る火球がせっうそくした途端、水球の時のように、ピタリと動きを止めたことで証明された。

 水球のように一度解けた炎の帯が、刀に纏わり付き火球を再構築する。

 刀を取り巻くように再び球場に戻った炎は、刻々とそのサイズを小さくし、最後には真っ赤な刀身を残して消えてしまった。

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