参之弐拾玖 ラリー
簡潔に言うとサドンデスとは、1ラリー交代ということだった。
コートが一つしか無いので入れ替わりを早くするために導入されたらしい。
そして、何故導入されたかと言えば、皆、相手との掛け合いが上手いせいか、ラリーがなかなか途切れないのだ。
最初の花子さんと東雲先輩のラリーも軽く三十回は繋がったし、那美さんと志緒さんのラリーも、結花さんと舞花さんのラリーも二十回は最低でも続く長いものになる。
お互いの呼吸を読みつつ、打ちやすいところを狙って返すので自然とラリーが続くのだが、これは『神世界』での連携にも繋がると、花子さんがこっそり補足してくれた。
元々相手を見てラリーを続けることに重きを置いているので、サドンデスと言いながら、中身は真逆の内容だったのである。
しかし、その概念を根本から覆そうとする存在がいた。
コートの反対側でラケットを握る私の対戦相手、雪子学校長は、わざわざ大人の姿になって、花子さんや東雲先輩と同じ長いラケットを大笑いをしながら振るう。
巧みに緩急を付けて放たれるシャトルは、他の子達の行っていたラリーに重点を置いたモノとはまるで違う凶暴性を持って、私のコートに降り注いでいた。
正直『大人げない!』と心の中でツッコミを入れたが、皆が二十回以上のラリーを熟しているのに、私だけ無様に一桁で終われない。
挑まれているのに、すごすごと引き下がるのは嫌だという久しく感じたことの無かった負けたくないという思いが、私の中で燃え上がっていた。
「やるじゃ無いか、卯木くん!」
笑いながら全力で振り抜いた雪子学校長の一撃は、鋭くコートの端に向かって飛翔していった。
全力で踏み込んで地面を蹴れば、たどり着けるという確信が湧いてくるが、どう考えても人間業ではないので、移動せずその場で体を可能な限り伸ばす。
首の短いラケットを選んでしまったのでギリギリだったが、体をややひねり空に向けて全力で伸ばしたお陰で、ガットがどうにかシャトルを捉える事に成功した。
事前に曲げていた右手首を伸ばし、僅かな動きでシャトルの進行方向を反転させると、ギリギリコートを区切るゴム紐を貸すって雪子学校長側のコートに飛んでいく。
私はそれを確認しつつ、その場でくるりと回り、次の行動に移れるように、両足を地面に付けて軽く腰を落とした。
瞬間、ニヤリと笑う雪子学校長の顔が見える。
私の打ち返したシャトルの落下点に悠々と入り込んだ雪子学校長はラケットを構えて、そこでピタリ止めた。
動きの無いラケットのガットに当たったシャトルは、その反動だけでコートを区切るゴム紐を越えてくる。
だが、ガットの反動だけなので、飛距離はまるででていなかった。
ゆっくりと私側のコートギリギリに落ちてくるシャトルを、可能な限り腕を伸ばして拾う。
手首の返しで上に上げることは出来たものの、コートを遮るゴム紐を下からくぐっていった。
そして、パシッと軽快な音を立ててシャトルは雪子学校長に掴まれる。
「残念だったな卯木くん。私の勝ちだ!」
見下ろす目線で言い放つ雪子学校長の大人げのなさに、思わず吹き出しそうになってしまった。
でも、負けっぱなしは悔しいので「次は負けませんからね!」と返す。
それから、頭を下げて「ありがとうございました」と試合を締めた。
試合を終えた私を皆は拍手で迎えてくれたけど、私としては恥ずかしさで一杯だった。
「皆と違って十回も続けられなかったよ」
目標は二十回だったがその半分も辿り着かなかったのが、正直悔しい。
すると、東雲先輩が「いや、凛花、普通に凄かったが?」と評価してくれた。
「そうかな?」
負けている上にギリギリだったのもあって、そう口にすれば、皆は口々に凄かったと言ってくれる。
それに、ホッとしていると、雪子学校長が「じゃあ、次は団体戦だな」と宣言したので、自然と皆がラリーをした相手と向き合った。
直後、それぞれがジャンケンを始めたところで、雪子学校長が私の前まで来て「勝ちチームと負けチームに分かれる」といいつつ握った拳を振り上げる。
「行くぞ、卯木くん」
「はい」
私の返事と供に始まったジャンケンは、なかなかアイコが終わらず、結局、皆の目が集まったところで、私のグーに対して、雪子学校長がパーを出して決着した。
「卯木くん、ちゃんと手加減するように」
「その言葉雪子学校長にそのままお返しします」
「なかなか言うようになったね」
雪子学校長はカラカラと笑うと、コートの仕切りのゴム紐をくぐって反対のコートへ移動した。
相手コートには、雪子学校長、花子さん、那美さん、舞花さんの四人、私側には東雲先輩に、志緒さん、結花さんの3人が居る。
「さて、私と卯木くんの戦いを見て、皆も戦いたい気持ちになっていると思う」
雪子学校長の言葉に対して、各々が頷いた。
私たちの対戦が皆のやる気を刺激出来たことがちょっと嬉しい。
「サドンデスでは無く、11ポイント先取の試合形式でやろうとおもう!」
雪子学校長の言葉に対して、気合の入った皆の「おー」という掛け声が揃った。




