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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾玖章 救出作戦
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拾玖之弐拾参 二分

「いや、すまない。君の繊細さを考慮にいててなかった」

 月子先生にそう言って頭を下げられた私は、とても微妙な気持ちになっていた。

 考え込んでしまった切っ掛けは、確かに月子先生の言葉だったものの、考え込みすぎたのは私自身のせいだし、何よりも繊細を言う評価がどうにも飲み込みづらい。

 自分としてはどちらかと言えば、がさつよりじゃ無いかと思っているので、その点が引っかかるところだけど、とりあえず「それよりも、聞いていいですか?」と切り出した。

「なにかな?」

 月子先生が聞き返してくれたので、頭の上に乗りリンリン様に触れながら「リンリン様は精神の繋がりは私にしか無いと言ってくれているんですが、そうなると、彼……林田先生を今操っているのは、誰なんでしょう……」と尋ねてみる。

 すると、月子先生は腕組みをして考える素振りを見せてから「神の能力は荒唐無稽な事象も引き起こせるという前提に立った考えだと先に言っておく」と口にして私を見た。

 それが反応を窺っているんだと理解した私は「わかりました」と頷く。

「彼との質疑応答を通じて、私が出した結論は、彼は『林田京一』であり、自分の意思で行動しているだ」

 月子先生の言葉に、思わず身体が震えた。

 彼が『林田京一』その人なら、私は一体誰なのかという話になる。

 自分が得体の知れない何かなのかもしれないという考えがドンドン膨らんできて、同時に足に力が入らなくなってきて踏み止まることも難しくなってきた。

 そんな私の肩に手を置いた月子先生は「つまり、信じがたいことだが、君たち二人は身体に合わせて、林田京一という一人の人間から、卯木凛花と林田先生の二人の存在に分裂したんじゃ無いかと考えている」と言う。

 月子先生が口にした話の意味を飲み込めなかった私は「え?」と瞬きをすることしか出来なかった。

 そんな私に対して、月子先生は追加の説明をしてくれる。

「あっちの彼には『林田京一』の記憶や経験、思考が入って、新・林田京一となり、神格姿を獲得してからの君、つまり小学生の女児としての記憶や精神、能力を引き継いだ卯木凛花に分かれた。だからこそ、彼の方が林田京一としての正史に近い記憶を有していると私は推測した」

 私は瞬きを繰り返しながら「せいし……ですか?」と思わず気になった単語について聞き返した。

「要するに、事実に近しい記憶だね。君の記憶が曖昧になっているのは、その記憶が少女である君にふさわしくないからじゃないかと考えている。たとえば、少女の君が男子トイレや男子の更衣室にいるのはおかしいだろ?」

 そう言われて私は「いや……そんなことは……」と口にしながら、例えば、トイレに行った記憶、あるいは体育の着替え、日常のことなので詳細は覚えていないけど、それでもこうだったなくらいの漠然とした記憶がありそうな出来事なのに、頭に浮かぶのは、緋馬織に来てから、それも卯木凛花の身体になってからの記憶ばかりで、男子生徒だった林田京一の少年時代の記憶は出てこない。

 月子先生の推察が的確に事実を言い当てているんじゃ無いかと愕然としながら、私は「……あるかも知れません」と声を絞り出した。


「まあ、信じがたい話ではあるが、君が二人の人間に分裂したと考えれば、現状は理解しやすい」

 月子先生の言葉に、私は同様の最中であったものの、どうにか頷くことは出来た。

「卯木凛花である君……少女である君の方が神世界に親和性が高い。だからこそ、リンリン様との繋がりも維持できているし、具現化の能力や神格姿の能力として、狐火や狐雨が使えるんだろう」

 私の方が神の世界に親和性が高いというのは、間違いないと思う。

 そもそも、球魂を出すことの出来る子供だけが立ち入れるのが神世界で、大人が立ち入ろうとすれば女性の姿に変わってしまうのが神世界だ。

 男性で大人の林田先生と、子供で女性の今の私のどちらが親和性が高いかといえば、考えるまでも無い。

 月子先生は私が考える時間を取ってくれたのだろう、私が顔を上げて視線が合うまで黙っていてくれた。

 目を合わせると、月子先生は「君が神世界の知識を持っていることから推測できるかもしれないが……」と言い難そうに話し出す。

 続く言葉を想像した私は「あの、林田先生には、神世界に関する知識が無いんですか?」と浮かんだ結論を口にしてみた。

 月子先生は言葉を選んでいるのか、少し間を置いてから「全くないわけではなさそうだが、君が林田先生としての過去の情報が朧気なように、神世界……ここからは推測だが、卯木凛花としての記憶が曖昧では無いかと思う」と言う。

 少し前まではどちらかが偽物では無いかと思って不安に思っていたけど、私に欠けているモノ、林田先生に欠けているモノの話を聞くと、本当に、文字通り二人に分かれたと実感できて、不安が一気に溶けて消えていった。

 気持ちがあがってきたところで、私はここにゲートを使ってやってきた本題に踏み込むことにする。

「私は神世界からエネルギーを引き出せる力を取り戻したいんですけど……どうすればいいと思いますか?」

 私の問い掛けに、月子先生は顎に拳を当てて、一言「ふむ」と呟いた。

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