表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾玖章 救出作戦
735/814

拾玖之拾玖 到達

 春の箸が突き立ったことで、四つの箸を頂点とした長方形を構成する直線が輝いた。

 間もなく輝く直線の内側、長方形が黒一色に塗りつぶされ、それがゲート開通の合図となる。

 既に車椅子のストッパーを外していた私は短く「いきます!」と告げて、ゲートに向かって歩み出した。

 車椅子自体は大きな車輪がついているのもあって、思ったよりも押すのに力は必要ない。

 ゲートをくぐり抜ける勇気さえあれば、それ以外に障害になるものは無かった。

 足を乗せるステップ、車椅子の先頭部がゲートを潜るが、抵抗や反発といったモノはなく、スムーズに進んで行く。

 靴を履いた私の足が問題なくくぐり抜け、制服のスカートから覗く膝も、肘掛けに置いた手も腕も抵抗なくゲートを通過した。


 本当は目を開けておいて、状況の変化に対応しなきゃいけないのはわかっているんだけど、黒いモノが迫ってきた瞬間、思わず目を閉じてしまった。

 それでも、車椅子を押す力は抜かずに、私もゲートの踏み込む。

 目を閉じてしまっていたので感覚頼りにはなってしまうけど、ゲートに突入したと思われる瞬間、肌に何かが纏わり付いてきた。

 ただ、それは一瞬のことで、匂いが変わったことで、空気が違うことに気づき、目を開けると、そこは暗い森の光景が広がる。

 周囲はそんな状況なのに、足下には歩くのに十分な灯りがあって、先を辿ると近くにほぼ無音で飛んでいるドローンによるものだった。

「実際に目にすると驚くモノだね」

 不意に聞こえてきた声緒の主を振り返る。

 そこには大人ヴァージョンの雪子学校長と、逆に子供の姿の月子先生、その後ろに大きな樹に身体を支えられるようにして座る林田先生の姿があった。

「無事、通過できましたね」

 後ろから聞こえてきた花ちゃんの声に振り返る。

 振り返った私と目を合わせた花ちゃんは「それじゃあ、しーちゃんがもうすぐゲートが閉じる時間だって言っているので、私は一端学校に戻りますね」と要件を口にすると、黒いゲートの中に姿を消した。

 間もなく、ゲートそのものが消失して、黒い四角で隠されていた深い森の景色が姿を見せる。

 向こうに戻るためには、改めてゲートを開いて貰うしかなくなったのだと実感した私は、林田先生からなんとしても力を取り戻すと改めて覚悟を決めた。


 月子先生は「正直、分かれた時はこんな状況になるとは思わなかったよ」と苦笑した。

「まあ、君なら何かするかと、私は思っていたけどね」

 雪子学校長はそう言った後で「流石に、こんなにすぐに結果を示してくるとは思わなかったがね」と続ける。

「私は那美ちゃんに追いついて、止める事しか考えてなかったですけど……皆がスゴすぎました」

 ここまでの出来事を振り返った私は、仲間達の発想力に行動力など、驚かされることばっかりだった事を思い出していた。

 そんな私に月子先生は「その感情は、私が君に感じているモノとそれほど変わらないともうよ」と言い放つ。

 雪子学校長も頷いているので、そんなことは無いという私の意見は却下されてしまうと予測して、大人しく沈黙することにした。


「それで、林田先生をどうするか……だね」

 私から林田先生に視線を動かしながら、雪子学校長は少し低めの声で確認してきた。

 頷きつつ「神世界からエネルギーを得る力を取り戻したい……というのが、こっちに来た最大の理由です」と答えて、私も林田先生を見る。

 那美ちゃんが意識を乗り移らせることで動いていたと思われる林田先生は、先ほど見た時と変わらず樹にもたれかかったままだ。

 一見すると眠っているように見える。

「えっと……触って大丈夫ですか?」

 私の問い掛けに、雪子学校長と月子先生は顔を見合わせた。

 お互い目で会話をしているようで、少し時間を挟んでから月子先生が「まず、その、神格姿から、自分の身体に戻った方が良いかもしれないね」と私の身体を指さす。

「そう言えば、どうやったら戻れるんでしょう?」

 私の発言に雪子学校長は笑い出し、月子先生は頭を抱えてしまった。


『要は魔除けの鈴の浄化の力がその姿を維持しておるわけじゃ。その力を消費しきれば、元の姿に戻るわけじゃ』

 リンリン様の説明に、私はなるほどと手を打った。

 思い返してみれば、東雲先輩は能力を使うことで、パワーアップ状態から元の姿に戻っていたし、それは志緒ちゃんや舞花ちゃん、結花ちゃんも変わらない。

 なら、私も能力を使えば良いと気付いたところで、何の能力を使えば良いのかで詰まってしまった。

 冷静に考えると、この姿で能力を使ったことが無い。

 問題を起こさないような能力を考えていると、頭の上のリンリン様が私の頭を叩いた。

『主様。ここは森の中ゆえ、火や雷よりは水、狐雨の能力はどうじゃ?』

 リンリン様の提案に「なるほど」と納得した私は早速狐雨を呼ぶことに決める。

 皆が濡れないように、少し離れた場所、僅かな空間だけに狐雨が降る光景をイメージすると、周囲の空気が湿り気を帯び始め、間もなく目標とした場所に雨が降り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ