拾玖之拾漆 納得
「花ちゃん、そろそろ離してください!」
少し前に大丈夫だと判断してしまった私の認識の甘さを痛感しながら、藻掻きつつそう訴えると、思いの外あっさりと花ちゃんは離れていった。
だが、離れた花ちゃんはそこで思いがけない行動を取る。
私の足下にしゃがみ込んだ状態で花ちゃんはこちらを見上げた。
「襦袢では無く、お腹までの上衣に、スカートの組み合わせなんですね。なかなかやりますね」
じっとこちらを見たまま観察しつつ一人頷く花ちゃんに、何がなかなかやる名の皮からにまま「何をしてるんですか、何を……」と呆れつつ声を掛ける。
「もちろん、防御力の確認ですよ」
「防御力?」
何を言っているんだろうと思っていると、花ちゃんはグッと私の足の方に顔を近づけてきた。
その瞬間、出所のわからないゾクッと言うんイカ冷たいモノが首と肩の付け根辺りに発して、思わず両腕を胸の前で重ねて防御姿勢を取ってしまう。
対して花ちゃんは何食わぬ顔で「その身を守る姿勢も可愛くて良いですね!」と言い放った。
更にグッと身体を落としてから、スカートの中をのぞき込むようにして「尻尾の方はスカートの腰ベルトとパンツの間から出ているので、何かオーバーショーツ的なモノが必要かも知れません」と言う。
花ちゃんの発言からワンテンポ遅れて、何を言っているのか理解した私の身体は、自分でも信じられない程の速さで胸元からスカートへ、前から下へ広がりを押さえつけるように腕が移動した。
「あ、今の動きも可愛くていいですね!」
嬉しそうに親指を立ててこちら見顔を向けた花ちゃんから、私は後ろに飛びながら距離を取る。
「な、な、な、な、な、なにを、ゆ、ゆって……言ってるんですか!?」
動揺の余り思ったように舌が回らず、かなり突っかかってしまったものの、身体全体が熱を発する中、どうにか抗議することは出来た。
対して、花ちゃんは立ち上がりながら怒った顔で「神格姿の姿は、ちゃんとイメージをすることで整えることが出来るんです。今の状態で飛び跳ねたりしたら、パンツ丸見えですよ!? それで良いんですかリンちゃんは!」と問われる。
思わず「良くないです」と答えてしまった私に大きく頷いて、花ちゃんは「そもそも、リンちゃんの神格姿はキツネ娘なんですから、尻尾が生えている点も気をつけないといけないんです!」と力説し始めた。
「ボトムスがスカート状になっているせいで、尻尾の動き次第でスカートがめくれてしまうんです!
女の子達はまだ良いとして、思春期の雅人君がリンちゃんのパンツを見て固まったらどうするんですか!」
「え、いやっそれは……」
花ちゃんの指摘に、私はすぐ応えることが出来ない。
東雲先輩は邪なことは考えないし、下着を見せたところでどうこうなったりしないとは思うけど、年頃の男子は自分の意識とは関係なく身体が反応してしまうことがあることを、林田先生としての記憶を通じて知っている私としては、あり得ないと断言できなかった。
どうすればいいのか、どう答えるべきか、混乱に頭を塗りつぶされて固まってしまった私に、いつの間にか目の前まで近づいていた花ちゃんが「大丈夫です。対策はあります」と柔らかい声で言う。
「リンちゃんの制服とかお洋服の中にも、スパッツとか、ショートパンツとか、ブルマーとか、パンツの上に重ね履きする衣装があるでしょう? アレをイメージすればいいんです」
花ちゃんの言葉に、私はそれなら下着は見えなくなるなと頷いた。
「最近の変身して戦う女の子のアニメでも、スパッツを標準装備してることが多いですよね?」
そう言われて『ミルキィ・ウィッチ』衣装を思い出せば、確かにそうなっていたと、より納得が強まる。
けど、ここで私の中で一つの閃きが起こった。
「……あれ? でも、そもそも、元の袴にすれば……」
そこまで言ったところで、花ちゃんが「リンちゃん!」と強く私の名前を呼ぶ。
「は、はい」
ビックリしながら返事をした私の手を自分の手で包み込むように握って、花ちゃんは「よく思い出して」と目を見ながら語りかけてきた。
花ちゃんのペースに呑まれているのは感じたものの、もの凄く何かを言いたそうな気迫に、私は「はい」と頷いて話の続きを促す。
「ユイちゃんやマイちゃんのパワーアップでも、ドレスのスカートから、チュチュの短いスカートに替わっていましたよね?」
急に結花ちゃんと舞花ちゃんのことを出されて、苫代ながらも二人の変化が花ちゃんの言うとおりだったのは間違いないので「そうですね」と頷いた。
「もしかしたら足を覆わなくなることで、より機動力を高めているのかも知れません」
花ちゃんの真剣な表情に、私は彼女が言わんとすることに気付く。
「……花ちゃんは、私の格好にも能力に影響している可能性があると?」
私の問い掛けに、花ちゃんは「そういう事です」と大きく頷いた。
その上で花ちゃんは「オーバーショーツ程度なら、阻害はしないでしょうけど、足全体を覆うとなると、影響は未知数です。自分で自分の能力を制限するような方法を選ぶのは危険じゃ無いですか?」と続ける。
私のことを心配してくれているんだと感じる真剣な花ちゃんの眼差しに、私は「そうだね。大きく変えない方が良いかもしれないね」と同意した。




