参之弐拾捌 体育委員
「さて、今日は卯木くんの運動能力を確かめるために、バドミントンをやろうと思う」
雪子学校長の言葉で皆が盛り上がった。
私としても、ボールを投げたり打ったりするよりは、加減が出来そうだと思う。
そんなわけで、早速とばかりに校庭の端の方に移動することとなった。
皆でゆっくりと移動していくと、校庭の端に打ち込まれたロープで枠取られたコートが見えてくる。
そこに東雲先輩が持ってきた金属製の細長い棒を、コートの外枠と中心に引かれた線の交点の2箇所に立てた。
更に花子さんがその棒の先端部にゴムか何かの少し弾力のある紐を渡す。
「簡易的ですが、ウチではこれが授業で使うコートなので、凛花さんも慣れてくださいね」
こちらを振り向きながら言う花子さんに、私なりの解釈が間違っていないか確認の言葉を返した。
「えーと、打ち返したシャトルはその紐の上を通さないと駄目って理解で合ってますか?」
「正解です」
間を置かず返ってきた花子さんの笑顔付きの言葉は、正直嬉しくて頬が緩みそうになる。
私はそれを誤魔化すために、花子さんから目を逸らしつつ「えっと、道具は……?」と視線を周りに向けた。
すると、先ほどまでポールを立てていたはずの東雲先輩が、両手に大きなカゴを提げてこちらに向かってくるのが目に入る。
私の視線に気付いたらしい東雲先輩は、わざわざ手にしたカゴを持ち上げつつ「用具を持ってきた」と示してくれた。
すると、那美さんが「これはあれね」と口にする。
何を言い出すのだろうと首を傾げると、那美さんは笑みを深めて「マーちゃんは、体育委員ね」と口にした。
確かに、一番動いてくれているし、体育の用具は重いモノも多いので、納得出来る人選だなと、私は納得する。
が、突然指名された東雲先輩は困惑気味に「体育委員?」と首を傾げた。
「今朝、委員会の話をリンちゃんがしてくれたじゃ無い?」
那美さんの返しに、東雲先輩は「したな」と頷く。
「それで、女子の話し合いで、リンちゃんに学級委員をやって貰おうって話になったんです」
志緒さんがそう言いながら私の肩に手を置いた。
すると、東雲先輩は私の方を見て「押してつけられた?」と尋ねてくる。
心配してくれての問い掛けだと思うけど、それで皆の関係が変にギクシャクするのは嫌なので、私はすぐに「いえ、皆が推薦してくれたので、やりたい人が他に居ないならと引き受けました。いやいやじゃ無いです。むしろ私を頼ってくれたようで嬉しいです」と笑みを添えて返した。
すると、東雲先輩は深く頷いてから「オレも凛華は適任だと思う」と言ってくれる。
その上で荷物を地面に置いた東雲先輩は、自らの手を胸に当てて「それで、オレは体育委員をやるで良いか?」と尋ねてきた。
私はそれに頷きつつ「私は賛成です」と表明すると、皆も口々に賛成する。
こうして学級委員と体育委員が正式に決まった。
「自主的に役割が決まるのは良いことだ!」
雪子学校長は、上機嫌でそう言うと、満足げに頷いた。
生徒が自主的に、教員のプラスになる行動をするのは助かるので、上機嫌になるのもわかるが、もしかすると私より長く関わってる雪子学校長は、皆の成長も感じていたのかも知れない。
そう考えると、一教師として、生徒の成長を実感出来た雪子学校長が羨ましく思えた。
「今後も自主的に委員を決めて良いので、決まったら報告するように!」
雪子学校長は私たちを一人ずつ視線を向けながらそう言った後、最後に「君たちなら無いとは思うが、押しつけはダメだぞ」と締めくくる。
対して私たちは、タイミングを合わせたわけでも無いのに、ほぼ同時に返事をして、直後、皆で笑うことになった。
東雲先輩の持ってきてくれたラケットは、人数より多い本数があって、首の部分が長い、短い、その中間くらいの三種類があって、それぞれ三本もあった。
金属製でかなり重いはずなので、東雲先輩は想像よりも力持ちなのかも知れない。
そんなことを私が考えている間に、皆はそれぞれラケットを手に取った。
長いものを花子さんと東雲先輩、中くらいのを那美さんと志緒さん、短いのを舞花さんと結花さんが手に取る。
長くなれば重くなるし、手から遠くなる分、打ち返すのに自分の中で間隔の調整が必要になるので、各人が選んだ長さに、私はなるほどとなった。
皆が選び終えたところで、当然私が選ぶ流れとなったので、まずは感覚のズレが少なくて済みそうな短いモノを使うことにする。
すると、早速舞花さんが、嬉しそうに話しかけてきてくれた。
「あ、リンちゃん、おんなじだね」
「まずは短い方から試してみようかと思って……」
そう返していると結花さんがじっと私を何か言いたそうに気付いたので、探り探りで言葉を足してみる。
「舞花さん、結花さんと一緒っていうのも良いですし……何より軽いですし……短い方が扱いやすそうだったので……」
一緒、軽い、扱いやすいと言葉を足す度に表情が明るくなった結花さんが満足げに「そうよね。リンちゃん、わかってるじゃ無い!」と言ってくれたので、私は素直にホッとした。
「それじゃあ、まずはサドンデスでいこうか」
雪子学校長の不穏な言葉に、私は思わず全力で振り向いてしまう。
「サドンデス!?」
バドミントンで効かない名称を、私が少し裏返った声で繰り返すと、雪子学校長はニヤッと笑みを浮かべた。




